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襲撃

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セコイヤ大尉が率いる襲撃部隊は、物音を立てぬよう細心の注意を払ってベルタワーを登ってゆく。

アリスの《支配》を目論むセコイヤ大尉は、麻痺薬を塗った剣でアリスを切りつけたかった。 だが姿が見えないアリスの居場所を特定できるのは彼女が鐘を鳴らそうとロープを引っ張っているときだけ。

セコイヤ大尉はベルタワーの階段を慎重に上りながら、リンゴーンという鐘の音が止まぬようにと祈る。 鐘の音こそがアリスを《支配》するチャンスを意味するからだ。



5人の隊員を引き連れてセコイヤ大尉はようやく小部屋の前に到着した。 だが、それと同時に鐘の音が止まってしまった。 大尉は心の中で罵る。

(ヒロサセめ、もうへばりやがったか。 オマエを《支配》したら俺が直々に鍛え直してやる)

いま小部屋に突入してもアリスが部屋のどこにいるのか皆目わからない。 大尉は部隊を小部屋の前で待機させた。 再び鐘が鳴り始めるのを見計らって小部屋に突入するつもりである。



ひとしきり鐘を鳴らしたアリスは、鐘を鳴らす小部屋に設けられた小窓から眼下の広場を見下ろしていた。

(おー、けっこう集まってる。 ファントムさんの威光も大したもんやな。 でも、こんなもんちゃうで。 もっと集めたる)

アリスは鐘を引っ張るロープのところに戻りベルゴンを再開する。 リンゴーン、リンゴーン。 ファントムさんが《支配》された! 何とかせえへんと大変なことになるでー。



アリスがベルゴンを再開して間もなく、セコイヤ大尉は隊員の一人に目くばせをする。 身体能力に優れるゴーリキ軍曹である。

ゴーリキ軍曹は隊列から進み出ると、小部屋のドアを少し開いて中を覗き込んだ。 ファントムさんの姿は見えないが、鐘が鳴っているからにはロープを引っ張っている最中に違いない。 その証拠に、天井の穴からは4本のロープが垂れ下がっているのに、部屋の中で見えるのは3本のロープのみ。 ファントムさんが使用中のロープが姿を消しているのだ。

今こそチャンス! ドアを一気に開き部屋に飛び込んだ軍曹は、見えないロープが存在するであろう辺りを目がけて斬りつけた。 彼女ゴーリキの剣の刀身には麻痺薬が塗られていて、刃がかするだけでもターゲットを麻痺させる。

軍曹の攻撃は、まるで無警戒だったアリスの体をまともに捉えた。 猛烈な攻撃を受けてアリスの小柄な体はロープから吹き飛ばされて床を転がり、アリスが鳴らしていた鐘が滅茶苦茶な音を立てる。

「やった!?」

軍曹には自分の攻撃がファントムさんに当たった実感がない。 でも、斬りつけた瞬間にベルタワーの鐘がリゴンゴンと不規則な音を鳴らしたし、今まで見えていなかった4本目のロープが見えている。

小部屋に入って来たセコイヤ大尉が口角泡こうかくあわを飛ばして指示を出す。

「ヒロサセが床に転がってるはずだ! 探せ探せ」

襲撃隊のメンバー各自は、ポケットからサッとハンカチを取り出した。 床に落としたハンカチが消えれば、そこにファントムさんが転がっているというわけである。



ゴーリキ軍曹は剣を鞘に納めようとして違和感に気付いた。 剣が鞘に引っかかるのだ。 どうして? 見れば剣の刃が潰れている。 それは、まるで何か硬い物を切ろうとして切れなかったときのような潰れ方だった。
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