コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~

好きな言葉はタナボタ

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私たちも西に...?

避難民たちを見送りながら、イショナがナヤスに尋ねる。

「思うんだけど、私たちも西へ進んだらどうかしら?」

帝国軍に追いつかれて全滅するリスクのある南の道を進み、しかるのち首都での戦いに参加するよりも、安全な西の道を進んで避難民たちと一緒に避難生活を送りたいというのだ。

「いい考えだね」

「守護霊様が帝国軍を倒してくれなら、私たちが首都に行く必要ないよね」

「だよね」

息ピッタリに惰弱だじゃくな方向へと流れていく2人。 しかし、彼らの判断は合理的でもある。 守護霊様が参戦する以上クーララ王国の勝利は決まったも同然。 ヒモネス部隊200人が首都の防衛線に参加したところで戦闘の結末に変化は生じない。 首都への途上で危険にさらされるだけ損である。

「けど、ヒモネス隊長がなんて言うかな?」

「ちょっとヒモネス隊長に具申ぐしんしてくる!」

イショナはそう言って駆け出し、ナヤスは1つ舌打ちしてイショナの後を追った。

◇◆◇

後方を歩いていたヒモネスのところへ行ったイショナは、彼に歩調を合わせながら呼びかける。

「隊長っ!」

「なんだ?」

「いい考えを思い付きました」

「どんな考えだ?」

「私たちも西に進めば良いと思います」

そうしてイショナは自分の考えをヒモネスに話した。 あるいは叱られるかとも思っていたが、ヒモネスはイショナを叱らなかった。 感心した表情で彼は言う。

「なるほどイショナ君の意見は筋が通っている」

物分かりの良さはヒモネス中佐の美徳の1つでもある。

「だが」と、ヒモネスは考える様子で言葉を続ける。「軍首脳部の命令は首都への帰還だ」

イショナもそれは知っている。

「やっぱり命令に従わなきゃダメですか?」

当たり前である。 しかしヒモネス中佐は少し悩んだ末に言う。

「いや、君たちは西へ向かえ。 君の言うように、我々は帝国軍に追いつかれて全滅する可能性が高い。 この部隊だけ並外れて首都への帰還が遅れてるから、命令を柔軟に解釈しても構うまい」

ヒモネス中佐は、命令を柔軟に解釈することにかけては天下一品である。 彼はこれまでも数々の命令を柔軟に解釈してきた。 中佐のそういう側面も、女性たちにとってはたまらない魅力だ。 今だって周囲の女性隊員たちは彼の柔軟な命令解釈にうっとりである。 あら素敵、とても柔軟だわ。 イショナもそのうちの一人だったが、ふと気づいて中佐に尋ねる。

「いま『君たちは』って言ってましたけど... 隊長は西に来ないんですか?」

「ああ、私は首都を目指す」

ヒモネス一人なら現在の2倍近いスピードで進めるから帝国軍に追いつかれる心配もない。 そして、ヒモネスの戦闘能力は首都防衛戦において何某なにがしかの意味を持つ可能性がある。 彼はみずからの戦闘能力を過小評価していなかった。

ヒモネスは、こうした自分の考えを周囲の隊員たちに漏らさなかった。 隊員たちに自分が足手まといだと思わせないための配慮である。 ところがそのせいで、女性隊員たちは自分も首都へ向かうと言い出した。

「隊長だけを危険な目に遭わせるわけにはいきません! 私もお供します」「私もお供します」「私もー」「じゃあ私も」「私だって!」

ヒモネスは「お断り」のポーズで両手の平を前に差し出してお断りする。

「いや、君たちはぜひ西へ進みたまえ」

しかし、女性隊員たちは半ば半狂乱狂乱1/4になりヒモネスの指示を受け付けない。

「ヒモネス隊長が死地へ赴くなら私もっ!」「むざむざと愛する人を死なせるもんですか」「死ぬときは一緒よっ」「死が二人を分かつまで」「あなたは私のモノよ。 一人で死ぬなんて許さない」

女性隊員たちが首都へ向かうと聞いて、男性隊員たちも首都へ向かうと言い出した。

「女性だけを戦わせるわけにはいかん! オレも行こう」「じゃあオレも行くよ」「オレもー」「じゃあオレも」「オレだって!」

こうなってくると、いかに指揮官といえど隊員を強制的に西へ向かわせるのは難しい。 なにしろ、軍首脳部からの命令に違反しているのはヒモネス中佐のほうなのだ。

結局、ヒモネス隊は一人残らず南の道を進んで首都へ向かうことになった。
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