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奇襲
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クーララ王国に侵攻したザンス帝国軍。 先頭部隊の指揮官はゼツラン少佐である。 そのゼツラン少佐は、目前に帝国軍の兵と思われる複数の死体が転がっているのを発見して部隊を停止させた。先頭が停まったので、後続の帝国軍も順次停止していく。
「あれは斥候部隊? 殺されたのか...」
ゼツラン少佐の独り言に副官が応じる。
「斥候部隊の前を先行するというクーララ部隊の仕業ですね」
「敵兵の死体が1つも無い。 弱兵クーララに一方的にやられたというのか?」
「索敵能力に優れる斥候部隊が不意打ちを受けるとも思えません。 なんらかの策略に陥ったのでしょう。 それにしても1人も逃さず全滅させるとは...」
「斥候部隊を新たに編成せねばな。 クーララ部隊が何かたくらむ恐れがある」
「6万の大軍を相手にですか?」
「逃げるだけなら斥候部隊を倒す必要はなかったはずだ」
そのようにゼツラン少佐が優れた洞察力を発揮したときである。 10mほど前方の空間に光の玉が突然いくつも生じ、先頭部隊のほうに飛んできた。 光の玉は、サイズは同程度で直径20cmほどだが、色はオレンジ色・黒色・緑色の3種類である
光の玉はヒモネス隊が放った魔法である。 ヒモネス隊は《幻影》の魔法を用いて自分たちの前方に偽りの風景をスクリーンのような映像として投射し、その風景の背後に隠れていた。 斥候部隊の死体が転がっていれば帝国軍は必ず足を止めると考えたわけだ。
ヒモネス隊が唱えたのは《混乱》《幻覚》《恐慌》といった精神系の魔法だ。 こうした呪文を使える30人ほどの隊員が放った光の玉は、帝国軍の先頭部隊めがけて飛んで行く。
「なんだ、この光の玉は!?」
光球の速度はプロ野球のピッチャーが投げるボールの球速と同程度。 ザンス兵の反応速度をもってすれば回避は可能である。 しかし、あまりにも突然のことだったため、そして魔法に不慣れであるためにゼツラン少佐たちは対応を誤った。 光の玉をかわさず剣で切ってしまったのだ。
魔法を剣で切れるはずもないので、ヒモネス隊の魔法は帝国兵の胸や腹あるいは腕に次々とヒットしてゆく。 魔法が当たった兵士の反応は様々だった。 奇声をあげて暴れだす者、無言でいきなり隣の兵士に殴りかかる者。 進軍方向に逆走して故郷を目指す者や、剣を抜いて仲間に切りかかる者もいた。
正気の兵は錯乱した仲間を取り押さえようとするが、狂気が生み出す火事場の馬鹿力や殺意のこもった攻撃への対処は難しく、先頭部隊は完全に統制を失った。 ゼツラン少佐も《恐慌》の呪文を食らってどこかへ去ってしまったので、指揮をとる者もいない。 ヒモネス隊の奇襲はひとまず成功だと言えた。
◇◆◇
魔法を放ったヒモネス隊は帝国軍の混乱ぶりを見届けもせず、一目散にその場を逃げ出していた。 魔法で帝国軍を足止めできなくてもヒモネス隊に策は残っていないから、見届けるだけ時間のムダである。
疲労が溜まった足腰にムチ打って、ヒモネス隊の一同は十字路目指して街道を歩く。 限界ギリギリの速足だが、ザンス兵の歩行速度はこれを上回る。 彼らは帝国軍に追いつかれる前に十字路にたどり着けるのだろうか? 奇襲で稼いだ時間は十分だろうか?
「あれは斥候部隊? 殺されたのか...」
ゼツラン少佐の独り言に副官が応じる。
「斥候部隊の前を先行するというクーララ部隊の仕業ですね」
「敵兵の死体が1つも無い。 弱兵クーララに一方的にやられたというのか?」
「索敵能力に優れる斥候部隊が不意打ちを受けるとも思えません。 なんらかの策略に陥ったのでしょう。 それにしても1人も逃さず全滅させるとは...」
「斥候部隊を新たに編成せねばな。 クーララ部隊が何かたくらむ恐れがある」
「6万の大軍を相手にですか?」
「逃げるだけなら斥候部隊を倒す必要はなかったはずだ」
そのようにゼツラン少佐が優れた洞察力を発揮したときである。 10mほど前方の空間に光の玉が突然いくつも生じ、先頭部隊のほうに飛んできた。 光の玉は、サイズは同程度で直径20cmほどだが、色はオレンジ色・黒色・緑色の3種類である
光の玉はヒモネス隊が放った魔法である。 ヒモネス隊は《幻影》の魔法を用いて自分たちの前方に偽りの風景をスクリーンのような映像として投射し、その風景の背後に隠れていた。 斥候部隊の死体が転がっていれば帝国軍は必ず足を止めると考えたわけだ。
ヒモネス隊が唱えたのは《混乱》《幻覚》《恐慌》といった精神系の魔法だ。 こうした呪文を使える30人ほどの隊員が放った光の玉は、帝国軍の先頭部隊めがけて飛んで行く。
「なんだ、この光の玉は!?」
光球の速度はプロ野球のピッチャーが投げるボールの球速と同程度。 ザンス兵の反応速度をもってすれば回避は可能である。 しかし、あまりにも突然のことだったため、そして魔法に不慣れであるためにゼツラン少佐たちは対応を誤った。 光の玉をかわさず剣で切ってしまったのだ。
魔法を剣で切れるはずもないので、ヒモネス隊の魔法は帝国兵の胸や腹あるいは腕に次々とヒットしてゆく。 魔法が当たった兵士の反応は様々だった。 奇声をあげて暴れだす者、無言でいきなり隣の兵士に殴りかかる者。 進軍方向に逆走して故郷を目指す者や、剣を抜いて仲間に切りかかる者もいた。
正気の兵は錯乱した仲間を取り押さえようとするが、狂気が生み出す火事場の馬鹿力や殺意のこもった攻撃への対処は難しく、先頭部隊は完全に統制を失った。 ゼツラン少佐も《恐慌》の呪文を食らってどこかへ去ってしまったので、指揮をとる者もいない。 ヒモネス隊の奇襲はひとまず成功だと言えた。
◇◆◇
魔法を放ったヒモネス隊は帝国軍の混乱ぶりを見届けもせず、一目散にその場を逃げ出していた。 魔法で帝国軍を足止めできなくてもヒモネス隊に策は残っていないから、見届けるだけ時間のムダである。
疲労が溜まった足腰にムチ打って、ヒモネス隊の一同は十字路目指して街道を歩く。 限界ギリギリの速足だが、ザンス兵の歩行速度はこれを上回る。 彼らは帝国軍に追いつかれる前に十字路にたどり着けるのだろうか? 奇襲で稼いだ時間は十分だろうか?
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