能力者は正体を隠す

幼児編

覚醒

喉が痛い。
水が飲みたかった。
水を欲して、私は意識を浮かび起こさせた。

ゆっくりと瞼を持ち上げる。
体が重く、だるかったがなんとか起き上がり、近くにおいてあった水を飲み干した。
喉の渇きを潤した私は、周りを見回す。
そこには、緑と黄色の色合いで統一された部屋があった。

ここは、私の部屋。
私は、朱雲　蒼来（じゅうん　そら）。
間違っても桐谷　弥生なんていう名前ではない。

では、夢でみた桐谷　弥生という人物は誰だ。
夢でみた記憶は、誰の記憶だ。
――私だ。
桐谷　弥生は私だ。
あの記憶はまぎれもない私のものだ。
弥生も、蒼来も、どちらも私だ。
体は違うけど、私の魂に封印されているはずの、蒼来の前世の記憶だ。
なぜ封印があるはずなのに弥生の記憶があるのかは分からない。
でも、あれは私だ。

目を閉じて、かつて私がしたように、魂を感じる。
以前よりも熱く、強く、力に溢れて輝く魂。
・・・また、ランクアップしたのだろうか。
前世の私からするとありえないほどの力がある。
前世の私の力も、最強と呼ばれていた。
しかし、それ以上に強大な力が、そこにあった。
そして、変わらず強者になれとささやいていた。
前よりも大きな力を手にしたはずなのに、私の魂が持つ力への欲望は、留まることを知らない。

蒼来の体は、まだ幼い。
せいぜい５歳といったところだろうか。
強大な力は、まだこの体にはおさえきれていない。
ダダ漏れだ。
年齢のせいというのもあるが・・・
深呼吸して、自らの力をたぐり寄せていく。
外にもれだしていた力を内にとどめさせ、制御した。
力の制御は、年齢よりも精神力が何より重要なのだ。
弥生の記憶を夢という形で取り戻す前の私には無理な話だ。
しかし、今のわたしなら、出来る。
力の制御くらい、朝飯前だ。

・・・・が。
体は相変わらず思いしだるい。
こんな状態で力を制御していれば、こちらが飲み込まれる可能性がある。
つい、弥生だったころのように手をコップへ伸ばしては手が届かず、にじりよって取る。
手も小さく、コップは両手で持たなくてはいけない。
なにより、体が重いしだるい。
熱があるようだ。
体は火照っていて熱いのに、寒い。
制御したはずの力が私の中で暴れ出すのを感じた。
とりあえず、体を休めよう。
私はそのまま、意識を手放した。