能力者は正体を隠す

ユーリ

文字の大きさ
26 / 105
高校生編 4月

腹が立つ

しおりを挟む

「カイお兄ちゃん、聞きたいことがあるの。」

入学式について、夕食の席でカイお兄ちゃんに沢山報告した。
でもどうしても、2人きりになって聞きたいことがあった。

「どうしたの、ソラ?」

優しいカイお兄ちゃんの声に、一瞬言葉が出てこなくなった。
カイお兄ちゃんが私に隠し事をしてるはずがない。
そう思いたいけど、今日、妖怪を退治した後に出会った1人の男子生徒の姿がその考えを打ち消した。

「あ、あのね、朱雲 蒼羽(じゅうん そう)って、知ってる?」

瞬間、カイお兄ちゃんの顔が真っ青になったのが分かった。
ああ、知ってたんだな。
知ってて、私にずっと隠してたんだ。
カイお兄ちゃんの表情を見て、私はそう確信せざるを得なかった。

「ソラ・・・どこで、その子のことを知ったの?」

珍しく震えている声を聞いても、なんとも思わなかった。

「今日、妖怪がでたよね。私が倒したのも知ってるでしょ。その後、教室に戻って名簿を見たら、朱雲 蒼羽って名前があったの。朱雲の名字を持ってる人なんて、あの家の人間しかいないじゃない。私、最初は親戚なのかなって思ってた。でも、その後教室にその人が入ってきて・・・」

どこか、私に似ていた。
金髪碧眼という色彩こそカイお兄ちゃんと同じだけど、顔立ちは私の方に似ていて・・・
親戚というほど血のつながりが薄い人じゃない。
もっと、近い間柄の人のはずだ。

「私、思い出したの。私とカイお兄ちゃんが初めて会った日のこと。逃げる時、メイドさんと鉢合わせちゃったよね。その時、メイドさんがなんて言ってたか、覚えてる?」

生まれ変わってから、無駄に記憶力が良くなってしまった。
何年も前のことだけど、今でもはっきり覚えてる。

『ソウ様も、三年前には覚醒なさっていらっしゃったのに・・・』

私よりも先に覚醒していた「ソウ様」と私のクラスメートで隣の席の「朱雲 蒼羽」は同一人物。
じゃあ、彼は私の、何なの?

「教えて、カイお兄ちゃん。私に何を隠してたの?」

カイお兄ちゃんは困惑を隠しもしないで口を開く。

「ソウが、ソラと同じクラスなの・・・?確かにクラスを離したはずなのに・・・」
「どういうこと!?」

低い声で問いかける。
カイお兄ちゃんはハッとしたように慌てて口を閉ざすけど、もう聞いてしまった。

「私に隠し事してただけじゃなくて、ばれないように小細工しようとしてたってこと?」

最低、最低、最低!
カイお兄ちゃんにだけは隠し事されたくなかったのに!

「全部、教えて。隠してること、全部。」

もう一度そう問うと、私が怒ってることが分かったのかカイお兄ちゃんが観念したように話し出した。

「ソウは、正真正銘、僕の弟だ。そしてソラ、君の双子の弟でもある。ソウはソラよりも3年早く、2歳の時に覚醒した。僕は、ソラも知ってる通り自分で稼いで家を持ち、既に父からの影響を受けにくくなっている。その代わりに、父に与えられた物に囲まれて生活しているソウは家からの圧力を強く受けているんだ。ソウは、父の掌中から逃れて自由に暮らしている僕を憎んでいる。同じく、ソラのことも。言い訳じみて聞こえるかもだけど、ソラはソウに出会ってしまったら、僕と一緒に逃げ出したことを後悔するかもしれないって思ったんだ。僕は、ソラにあの時の選択を後悔してほしくなかった・・・」

私はカイお兄ちゃんの話を聞いて、生まれてから今まで一度もしたことがない行動をとった。
何も言わず、カイお兄ちゃんに視線もくれずに部屋を出たのだ。

・・・もう、話したくなかった。
私があの時の選択を後悔することは、きっとないだろう。
今考えても最善の選択だったし、大体過ぎたことをゴチャゴチャ言ってもどうにもならない。

私は、私を助けてくれたカイお兄ちゃんを妄信的に信じていた。
まるで鳥の雛が卵から孵って初めて目が合った人を親と信じるように、生まれて初めて出会った人、私を助けてくれた人を、疑わずに信じ続けていたのだ。

そんな自分が今、どうしようもなく馬鹿な人間に思えた。
隠し事をされているかもしれないなんて一度も疑わずに、カイお兄ちゃんの言うことならばと全てを鵜呑みにした自分に腹が立つ。

カイお兄ちゃんはすごい人だし、尊敬してる。
感謝もしてるし、大好きだという気持ちは変わらない。
今回のことで、カイお兄ちゃんへの態度が変わることもないだろう。
でも、表には出さずとも、私は警戒することを忘れないようにする。

どんなに良い人でも隠し事はするし、嘘もつく。
そんな当たり前のことに気付けなかった。


そんな自分に、どうしようもなく、腹が立つ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...