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高校生編 5月
四百メートル走
しおりを挟む創作演技は何事もなく無事に終わり、次は四百メートル走。
一位がとれるように、がんばろう。
四百メートルって、長距離と短距離の中間で一番走りにくいんだよね・・・
四百メートル走は、各学年男女それぞれ一レースずつ。
一年女子は一番最初だから、私はトップバッターだね。
ちょっと緊張するかも。
深呼吸をしながらスタートラインに立った。
一緒に走る他の三人は、わりと足も速そう。
四百メートルは、ちょうどグラウンド二周分。
一位になれますように。
「位置について、ようい、」
パン!と音が鳴って、走り始める、はずだった。
「っ!」
足が何かに引っ張られて、気付けば私は痛みと共に土に伏せていた。
転んだ、のかな。
クスクスという笑い声が聞こえて、足をひっかけられたんだと分かった。
ムカムカと怒りがこみ上げる。
こうなったら一位になって見返してやる。
転んだ分のロスでだいぶ差をつけられてるけど、まだいける。
立ち上がって、走り出した。
足と、肘がヒリヒリ痛むけど、大丈夫。
とにかく相手に追いつく!
後のことなんか考えずにひたすら全力で走った。
全力疾走の四百メートルはきつい。
でもその甲斐あってか一周を過ぎたところで一位に追いつき、抜かせた。
そこから急にスピードを落とすのもなんだかかっこ悪い気がして、結局最後まで全力で走った。
ああ、結構きつかった・・・
でも、カイお兄ちゃんが用意してくれたトレーニングルームとか、武道をしていたおかげで人よりも体力があったみたいで、助かった。
一位の旗のところに並ぼうとするけど、その前に誰かにグイッと腕をひかれた。
「カイお兄ちゃん・・・?」
何でここに、と思って思わずいつもの呼び方で呼んでしまった。
誰も聞いてないよね、と周囲を確認して、ホッと胸をなで下ろす。
危ない危ない、気をつけなきゃ。
でもカイお兄ちゃんはそんなこと気にも留めないで私を引っ張って歩いて行く。
「・・・ちょっと、ゆっくり歩いて。」
走ってるときは夢中で気付かなかったけど、足も肘も、痛い。
カイお兄ちゃんの歩くスピードに合わせてたら、もっと痛くなっちゃう。
そう訴えると、カイお兄ちゃんは足を止めて振り返った。
そして私の傷を確認すると、痛々しげに顔をゆがめる。
そのまま私に背を向けてしゃがみこむ。
えっと、これは・・・
背中に乗れってこと、かな。
でもそんなことしてるの、人に見られたら・・・
「いいから、早く乗って。」
少し苛立ったようなカイお兄ちゃんの声を聞くや否や、私は急いで背中に体を預けた。
「重いかも、ごめんね。」
おんぶなんて、いつぶりだろう。
なんだか申し訳なくて謝ると、全然大丈夫、という答えが返ってきた。
しばらく歩いて、保健室に行った。
今は誰も保健室にいないらしく、私は椅子に腰を下ろした。
「ソラ、痛かったよね。守ってあげられなくて、ごめん。」
うなだれたようなカイお兄ちゃんを、そっと抱きしめた。
「カイお兄ちゃん、いっつも一人で勝手に落ち込んじゃうよね。悪いクセだよ?今のはカイお兄ちゃんのせいじゃないし、私は全然平気だから。」
カイお兄ちゃんが落ち込んでる時は、私が励ます。
小さい頃にした約束。
今でもちゃんと守ってる。
私の目線に合わせるように膝をついているカイお兄ちゃんのサラサラとした髪を手で梳くように撫でる。
癖のない金髪の手触りが気持ちよくて、目を細めた。
私が出場する競技はもう終わっているから、私は急がなくても大丈夫。
でも、カイお兄ちゃんは・・・
確か、カイお兄ちゃんは千五百メートル走に出るはず。
千五百メートル走は、もうすぐ始まる。
落ち込んでいるカイお兄ちゃんを放り出してもいいのか、ちょっと迷ったけど、すぐに意を決した。
身を乗り出してカイお兄ちゃんをギュッと抱きしめる。
「・・・ソラ?」
「カイお兄ちゃん、私は大丈夫だよ。」
落ち着かせようと、背中をポンポンと叩く。
大丈夫、と繰り返し言う。
だんだんとカイお兄ちゃんが落ち着いてくるのが分かる。
「私は、大丈夫。大した怪我じゃないし、家に帰って術を使ったら一発で治っちゃう。」
私が治癒の術使えること知ってるでしょ?
「うん、そうだね。」
クシャッと笑うカイお兄ちゃん。
ちょっと情けなさが混じったその笑顔に、胸が痛くなる。
でも、どうすればいいのか分からない。
だから、慰める代わりに体を離した。
「お兄ちゃん、出番だよ。千五百メートル走、頑張って。私、応援しながら見てるから!」
精一杯の笑顔を見せる。
カイお兄ちゃんはしばらくしゃがみこんでいたけど、ふっと立ち上がって笑顔を見せた。
「行ってくるよ、ソラ。」
カイお兄ちゃんが右手を挙げる。
「いってらっしゃい、カイお兄ちゃん!」
私も右手を振り上げ、ハイタッチをした。
パチンと乾いたいい音がして、触れた手の平が熱くなった。
ふわりと私の頭を撫でて、カイお兄ちゃんは保健室から出て行った。
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