能力者は正体を隠す

ユーリ

文字の大きさ
53 / 105
高校生編 5月

衝撃 ~朱雲 海side~

しおりを挟む

情けないことに、またソラに慰められてしまった。
僕が兄なのに。

反省しながら千五百メートル走をスタートした。
体力には自信がある。

『私、応援しながら見てるから!』

傷は大丈夫だろうか。
そう心配しつつも、応援してくれるというのが嬉しくてたまらない。

ソラに体育祭で応援してもらうのは今年が初めてだ。
今まで彼女は、家から出ることはできなかったから。
リズムよく走りながら、目では常にサラサラと揺れる銀の髪を探していた。

けれど結局、最後まで彼女を見つけることは出来なかった。

***

どこを探しても彼女がいない。
ひょっとして、まだ保健室にいるのだろうか。
一人では傷の手当が難しく、手間取っている、とか。
そう仮説をあげながら保健室に向かった。

「・・・ん?」

声が聞こえた。
保健室が近づくにつれ、その声は大きくなってくる。

一人はソラだ。
聞き間違えるはずがない。

もう一人は、男の声だった。
聞き覚えがある。

紫月 司。
なぜアイツがここにいる?
ソラとアイツに接点があったのか?
気付かれないようにそっとドアを開けて中の様子を窺う。

「っ!」

中の二人の姿が視界に入るや否や、僕は再びドアを閉めた。
嘘、だろ・・・?
二人は抱き合っていた。

信じられない、信じたくない。
まだ五月だ。
ソラがこの学園に入学してからまだ二ヶ月も経っていない。

それなのに、二人があんな関係になっているなんて。
そういえば、紫月は以前まで固く、誰にも心を開かなかったのに、この頃は口調も、表情も目に見えて柔らかくなってきている。

それも全て、ソラのおかげだというのか。

カッと頭が熱くなった。
ドアを開けて、二人を引き離したい衝動に駆られる。

右手で胸元の体操服の布をギュッと握りしめる。
僕はドアを開ける代わりに、壁に寄りかかって中から聞こえる声に耳を澄ました。

「カイお兄ちゃんは私のこと、すごく心配してくれているんです。私が傷つくようなことがあったら、自分のことを責めてしまう。特に今は、私が外の世界に出て少ししか経っていないから、小さなことにも反応してしまうんだと思うんです。」

ソラが話しているのは、僕のこと、だ。
しかも、僕のことをカイお兄ちゃん、と普通に呼んでいる。

ソラは、僕との関係を、能力のことも全て、紫月に話したのか?
あの警戒心の強いソラがそんなことまで話すなんて。
僕はいよいよ、二人が『そういう関係』なのだと認めざるを得なかった。

「ソラが傷ついた時は?」
「え?」

しかもアイツ、ソラのことを僕みたいにソラ、と呼んでる。
他の男がソラのことを名前で呼んでいる、と思った瞬間、抑えがたい衝動を感じた。
今すぐ紫月をソラから引きはがして、殴りつけたい。

なんでそんな思いが湧いてくるのか、分からない。
唇を思いきり噛んでその衝動を必死に抑える。

「ソラは、自分が傷ついても、朱雲会長の前じゃそれを見せないだろ?ソラが傷ついているのを会長が知ったら、会長が自分自身を責めてしまうと知っているから。だから傷ついて、落ち込んでも、何もないような振りをして会長に笑顔を見せるだろ。」

ドキリとした。
紫月の言葉が僕の胸に突き刺さった。
今まで、ソラが落ち込んでいるのを見たことがない。

びっくりするくらいしっかりしていて、強くて、優しい。
いつも笑顔でいるのが、ソラだった。

その笑顔がもし、偽りだったら?

ソラは果たして、落ち込んでいる時、ありのままの感情で僕に向き合ってくれるのだろうか。
いいや、ソラは誤魔化すだろう。

ソラは、優しいから。
その優しさが、辛かった。

「そんなこと・・・」

ソラは、紫月の答えを否定しない。
それが全てだ。
ソラは、僕の前に弱った姿を晒そうとはしない。

「おれじゃ、ダメか?ソラが傷ついた時、落ち込んだ時、おれを頼ってくれないか?」

心臓が、ドクンとやけに大きな音を刻んだ。

ソラが、アイツを頼る?
僕じゃなくて?

そんなの嫌だ、絶対嫌だ。

ソラが僕以外の誰かを頼っている所を想像するだけで、名前のつけようがない、負の感情が湧いてくる。

「おれじゃ、何も出来ないかもしれない。でも、君が傷ついた時、一番に君の頭に浮かぶのがおれであったら、嬉しい。」

僕は、絶対に嫌だ!

頼む、ソラ、断ってくれ。
僕がいるから、大丈夫だって。

強く強く、願った。

でも、薄々分かっていたのかもしれない。
ソラが導き出すであろう答えが。

それでも、僕は願った。

けれど。

「頼りに、してますね。」

とても小さな声。
それでも、彼女の澄みきったソプラノは僕の耳まで真っ直ぐに届いた。届いてしまった。

その言葉の意味を頭が理解した瞬間、僕は絶望と、嫉妬と、怒りと、情けなさと、とにかく色んな感情に押し流されながら、フラフラとその場を後にした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...