能力者は正体を隠す

ユーリ

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高校生編 6月

妖怪

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・・・あ。

「ですから、安易に光陰部の方々に近づかないで下さるかしら。」

今は放課後。
クラスメートのお嬢様方に制裁のようなものを受けている途中。
いい加減鬱陶しくなってきたから威圧して帰ろうかなあと思っていたところだったんだけど・・・

「とりあえず、そこを退いて下さい。」

一気に威圧感を出して道をあけさせる。
荷物を掴んで素早く駆けだした。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

我に返ったお嬢様に制止されるけど、それで止まる人なんていない!
全速力で向かったのは、図書室の外に広がっている森。

大体この学校には森が多すぎる!
まあそれも、妖怪が出やすいせいだけどさ。
普通の道に妖怪出たら大騒ぎだしね。

そして今日も例に漏れず森に妖怪が出現したなんて。
能力者が戦っている気配はないし・・・

どうなってるの、光陰部!
警備緩すぎでしょ!

「キャー!助けてっ!」

前方から聞こえてくる、女子生徒の悲鳴。
まさか、一般人が巻き込まれてるっ!?

「我が名は朱雲 蒼来。王たる力を宿す者。風よ、我を彼の地へ運べ。」

しょうがないから力を使う。
六月の湿った風が私を包み込み、次の瞬間、私は信じられない状況を目にした。

まさかの、四体っ!
火、水、風、土のそれぞれの属性の悪魔が勢揃いして攻撃しあっていた。

悲鳴をあげたと思われる少女は・・・
あの子、この前も襲われてた。
確か、陽月さんだっけ?

彼女は妖怪が互いに戦い合ってるのを見て、逃げ出した。
けど、そもそも妖怪が争っていたのは誰が陽月さんを食べるかっていう争い。
そんな奴らが彼女を逃がすはずはない。

でも、このまま陽月さんには逃げてもらった方が戦いやすいんだよね。
というわけで・・・

「我が名は朱雲 蒼来。王たる力を宿す者。風よ、彼の者らの歩みを止めろ。」

札が飛ぶと共に、妖怪のところにだけ異常に強い逆風が吹いて、誰も前に進めない。
陽月さんの姿が完全に見えなくなったのを確認して、私は妖怪に向きなおった。

「さてと。どうしようかな。」

とりあえず、風を止める。
自由を取り戻した妖怪たちは今度は私に向かってくる。
力の差っていうものを感じ取ってくれたらよかったのに。

4枚の札を構えて、フワッと頭上に投げる。
札は重力とか空気抵抗とか関係なく、ふわりふわりと宙を舞う。

「火よ、水よ、風よ、土よ、雨となりて彼の者らに降り注げ。」

火は風へ、水は火へ、風は土へ、土は水へ、降り注いでいく。
四体の妖怪は次第に体が縮まっていく。
じゃあ仕上げに・・・

「ベールとなりて魔を包み込め。」

そして妖怪は、私の力に包まれて呆気なく消滅した。

「女神・・・?」

ホッとしたのも束の間、背後から聞こえた声に背筋が凍る。

まさか、見られた?
パッと振り向くと、そこには光陰部のメンバーの一人、銀 怜音がいた。

「風よ、運べ!」

とっさに避難。
家にある私の部屋の中に戻っていた。

どうしよう、私が力を使っていたとこ、見られてたかな。
見られてたよね・・・
完璧に、私が能力者だって、バレちゃった・・・

なんで逃げちゃったんだろ、私・・・
ちゃんと話せば紫月先輩みたいに秘密にしてくれたかもしれないのに。

でも、逃げ出してしまったからには仕方がない。
全力でごまかさなきゃ!

きっと明日には銀先輩は光陰部に報告するだろう。
で、多分カイお兄ちゃんと紫月先輩は庇ってくれる。
だからそれを無駄にしないように、全力で誤魔化し通す。

そう、私は何も知らない、何も知らない・・・

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