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高校生編 6月
無理
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「実はぼく、女性の顔が覚えられないんです。」
「・・・え?」
女性の顔が覚えられない。
連れて行かれた先にあった庭園のベンチに座って、思い詰めたような表情で告白された内容に、まずは驚く。
「幼い頃から、そうだったんです。母親の顔でさえも、思い出せない。多分、今ぼくの目の前を母親が通っても、ぼくは気づけないでしょう。」
先輩のお母さん、ショックだろうな。
お母さんでさえもそうなら、クラスメートの女子とか、本当に分からないんだろう。
「でも、ぼくは昨日、運命の人に出会いました。森の中で神秘的な力を行使する女性は、まさに女神のようでした。おまけにぼくは、彼女の顔を思い出せたんです。」
うっとりとした顔で語る先輩を横目に見つつ、私は心の中で唸った。
私、運悪すぎだよね。
だって、普通だったら先輩は私の顔を覚えきれずに、私が必死になって口封じをしなくても良かったのに。
「昨日、幻のように消えてしまったあなたの姿が、ずっと頭から離れていきませんでした。もう一度会えたら、と思っていたところに、あなたの姿を見つけて・・・」
ぼくの女神、と銀先輩が私に囁いてくる。
「あ、あの、女神って言うの、やめてくれませんか・・・?」
落ち着かないし、変。
「では、名前を教えて下さい。」
名前・・・
そういえば、この先輩はモデルをしていて、入学式の日は学校を休んでいたと、女子が話していた。
だから、私の名前も知らないし、今まで姿を見られたことがなかったんだ・・・
「え、と・・・」
ここでもし、名前を教えなければ、このまま逃げられたり・・・しないか。
もう顔を覚えられてしまっている以上、どう足掻いても無駄なのだ。
「桐谷、蒼来です。」
嘘の苗字を名乗るのにも、だんだん慣れてきた。
でもやっぱり、罪悪感は消えない。
「ソラ。」
確かめるように私の名前をその舌にのせた先輩は、再び甘い笑顔を私に向けた。
「ぼくは銀 怜音です。光陰部で書記をしています。どうかぼくのことはレオと。」
そう自己紹介をしてから何かを期待するようにじっと先輩は私を見つめた。
一瞬、その銀色の瞳に吸い込まれそうになったけど、慌てて平常心を取り戻そうとする。
えっと、これはひょっとして、名前を呼べってこと、かな。
「はい、レオ先輩。」
おそるおそる名前を呼ぶと、レオ先輩はニコリと微笑んだ。
「では早速なのですが、聞きたいことがあります。決して責めたりするわけではないので、安心して下さい。あなたは、能力者ですよね?」
答えを断定してくる口調に私はきた、と思った。
やっぱり、見逃してくれないよね・・・
もう、誤魔化すことはできない。
バッチリ見られてしまったし、どうにかして口止めするしかない。
「はい・・・」
「属性は?」
一瞬、これだけでも誤魔化そうかとも思った。
でも、よりによって全属性使っているところを見られてしまったし、下手に嘘をついて信頼を失いたくない。
少しでも印象を良くしなければ。
「四属性全部、です。」
意を決して自分の力の属性を打ち明ける。
「やっぱり・・・」
ため息のような声が耳を掠めて、私は膝の上の拳をギュッと握りしめる。
「あ、あのっ!このことは、光陰部や家の方に、秘密にしておいて、くださいませんか・・・?」
どんどん尻すぼみになっていく言葉。
カイお兄ちゃんや紫月先輩とは状況が違う。
カイお兄ちゃんのように血が繋がっているわけではないし、紫月先輩のように私に恩を感じているわけでもない。
レオ先輩が私の存在を秘密にしておくメリットなんて、何一つないんだ・・・
「いいですよ、秘密にしても。」
「え・・・?」
諦めかけたその矢先、信じられないような言葉が降ってきて、私は思わず先輩を見上げた。
「なんで・・・?」
何のメリットもないのに。
ばれたら先輩も責められてしまうかもしれないのに。
ポロリと問いかけの言葉が零れてしまう。
すると先輩は今日見た中で一番甘い笑みを浮かべた。
「だって、愛する人を助けたいと思うのは当然のことでしょう?」
「は・・・?」
先輩が発した言葉の意味が、数秒遅れて頭に入ってきた。
愛する、人って・・・誰が?
「一目惚れ、したんです、あなたに。」
真っ直ぐに私を見つめてくる先輩の瞳の中にくすぶっている熱に気付いた途端、急に顔が熱くなった。
「ひ、一目惚れ、って、そんなの、あるはずな」
テンパって、思考がグチャグチャになる。
「あるんです。あなたの全てに、心を奪われました。」
直球の言葉が、混乱に拍車をかける。
言葉が、ストレートすぎる。
これが、フランスの血なのか・・・!
頭の隅っこにどうでもいいことがよぎる。
「っえ、待っ、先輩っ・・・」
気付くと先輩の顔が至近距離にあった。
反射的に目を閉じると、次の瞬間、頬に柔らかい感触を感じた。
先輩が離れていく気配に、おそるおそる目を開ける。
今のって、今のって・・・
何がどうなってるんだろう、もう何もかもが分からない。
頭がグラグラする。
頭がパンクしそうっていう言葉の意味が、やっと分かった。
うわあ、もう無理、限界・・・
頭と心が悲鳴を上げて、私は意識を手放した。
「・・・え?」
女性の顔が覚えられない。
連れて行かれた先にあった庭園のベンチに座って、思い詰めたような表情で告白された内容に、まずは驚く。
「幼い頃から、そうだったんです。母親の顔でさえも、思い出せない。多分、今ぼくの目の前を母親が通っても、ぼくは気づけないでしょう。」
先輩のお母さん、ショックだろうな。
お母さんでさえもそうなら、クラスメートの女子とか、本当に分からないんだろう。
「でも、ぼくは昨日、運命の人に出会いました。森の中で神秘的な力を行使する女性は、まさに女神のようでした。おまけにぼくは、彼女の顔を思い出せたんです。」
うっとりとした顔で語る先輩を横目に見つつ、私は心の中で唸った。
私、運悪すぎだよね。
だって、普通だったら先輩は私の顔を覚えきれずに、私が必死になって口封じをしなくても良かったのに。
「昨日、幻のように消えてしまったあなたの姿が、ずっと頭から離れていきませんでした。もう一度会えたら、と思っていたところに、あなたの姿を見つけて・・・」
ぼくの女神、と銀先輩が私に囁いてくる。
「あ、あの、女神って言うの、やめてくれませんか・・・?」
落ち着かないし、変。
「では、名前を教えて下さい。」
名前・・・
そういえば、この先輩はモデルをしていて、入学式の日は学校を休んでいたと、女子が話していた。
だから、私の名前も知らないし、今まで姿を見られたことがなかったんだ・・・
「え、と・・・」
ここでもし、名前を教えなければ、このまま逃げられたり・・・しないか。
もう顔を覚えられてしまっている以上、どう足掻いても無駄なのだ。
「桐谷、蒼来です。」
嘘の苗字を名乗るのにも、だんだん慣れてきた。
でもやっぱり、罪悪感は消えない。
「ソラ。」
確かめるように私の名前をその舌にのせた先輩は、再び甘い笑顔を私に向けた。
「ぼくは銀 怜音です。光陰部で書記をしています。どうかぼくのことはレオと。」
そう自己紹介をしてから何かを期待するようにじっと先輩は私を見つめた。
一瞬、その銀色の瞳に吸い込まれそうになったけど、慌てて平常心を取り戻そうとする。
えっと、これはひょっとして、名前を呼べってこと、かな。
「はい、レオ先輩。」
おそるおそる名前を呼ぶと、レオ先輩はニコリと微笑んだ。
「では早速なのですが、聞きたいことがあります。決して責めたりするわけではないので、安心して下さい。あなたは、能力者ですよね?」
答えを断定してくる口調に私はきた、と思った。
やっぱり、見逃してくれないよね・・・
もう、誤魔化すことはできない。
バッチリ見られてしまったし、どうにかして口止めするしかない。
「はい・・・」
「属性は?」
一瞬、これだけでも誤魔化そうかとも思った。
でも、よりによって全属性使っているところを見られてしまったし、下手に嘘をついて信頼を失いたくない。
少しでも印象を良くしなければ。
「四属性全部、です。」
意を決して自分の力の属性を打ち明ける。
「やっぱり・・・」
ため息のような声が耳を掠めて、私は膝の上の拳をギュッと握りしめる。
「あ、あのっ!このことは、光陰部や家の方に、秘密にしておいて、くださいませんか・・・?」
どんどん尻すぼみになっていく言葉。
カイお兄ちゃんや紫月先輩とは状況が違う。
カイお兄ちゃんのように血が繋がっているわけではないし、紫月先輩のように私に恩を感じているわけでもない。
レオ先輩が私の存在を秘密にしておくメリットなんて、何一つないんだ・・・
「いいですよ、秘密にしても。」
「え・・・?」
諦めかけたその矢先、信じられないような言葉が降ってきて、私は思わず先輩を見上げた。
「なんで・・・?」
何のメリットもないのに。
ばれたら先輩も責められてしまうかもしれないのに。
ポロリと問いかけの言葉が零れてしまう。
すると先輩は今日見た中で一番甘い笑みを浮かべた。
「だって、愛する人を助けたいと思うのは当然のことでしょう?」
「は・・・?」
先輩が発した言葉の意味が、数秒遅れて頭に入ってきた。
愛する、人って・・・誰が?
「一目惚れ、したんです、あなたに。」
真っ直ぐに私を見つめてくる先輩の瞳の中にくすぶっている熱に気付いた途端、急に顔が熱くなった。
「ひ、一目惚れ、って、そんなの、あるはずな」
テンパって、思考がグチャグチャになる。
「あるんです。あなたの全てに、心を奪われました。」
直球の言葉が、混乱に拍車をかける。
言葉が、ストレートすぎる。
これが、フランスの血なのか・・・!
頭の隅っこにどうでもいいことがよぎる。
「っえ、待っ、先輩っ・・・」
気付くと先輩の顔が至近距離にあった。
反射的に目を閉じると、次の瞬間、頬に柔らかい感触を感じた。
先輩が離れていく気配に、おそるおそる目を開ける。
今のって、今のって・・・
何がどうなってるんだろう、もう何もかもが分からない。
頭がグラグラする。
頭がパンクしそうっていう言葉の意味が、やっと分かった。
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頭と心が悲鳴を上げて、私は意識を手放した。
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