能力者は正体を隠す

ユーリ

文字の大きさ
62 / 105
高校生編 6月

無理

しおりを挟む
「実はぼく、女性の顔が覚えられないんです。」
「・・・え?」

女性の顔が覚えられない。
連れて行かれた先にあった庭園のベンチに座って、思い詰めたような表情で告白された内容に、まずは驚く。

「幼い頃から、そうだったんです。母親の顔でさえも、思い出せない。多分、今ぼくの目の前を母親が通っても、ぼくは気づけないでしょう。」

先輩のお母さん、ショックだろうな。
お母さんでさえもそうなら、クラスメートの女子とか、本当に分からないんだろう。

「でも、ぼくは昨日、運命の人に出会いました。森の中で神秘的な力を行使する女性は、まさに女神のようでした。おまけにぼくは、彼女の顔を思い出せたんです。」

うっとりとした顔で語る先輩を横目に見つつ、私は心の中で唸った。
私、運悪すぎだよね。
だって、普通だったら先輩は私の顔を覚えきれずに、私が必死になって口封じをしなくても良かったのに。

「昨日、幻のように消えてしまったあなたの姿が、ずっと頭から離れていきませんでした。もう一度会えたら、と思っていたところに、あなたの姿を見つけて・・・」

ぼくの女神、と銀先輩が私に囁いてくる。

「あ、あの、女神って言うの、やめてくれませんか・・・?」

落ち着かないし、変。

「では、名前を教えて下さい。」

名前・・・
そういえば、この先輩はモデルをしていて、入学式の日は学校を休んでいたと、女子が話していた。
だから、私の名前も知らないし、今まで姿を見られたことがなかったんだ・・・

「え、と・・・」

ここでもし、名前を教えなければ、このまま逃げられたり・・・しないか。
もう顔を覚えられてしまっている以上、どう足掻いても無駄なのだ。

「桐谷、蒼来です。」

嘘の苗字を名乗るのにも、だんだん慣れてきた。
でもやっぱり、罪悪感は消えない。

「ソラ。」

確かめるように私の名前をその舌にのせた先輩は、再び甘い笑顔を私に向けた。

「ぼくは銀 怜音です。光陰部で書記をしています。どうかぼくのことはレオと。」

そう自己紹介をしてから何かを期待するようにじっと先輩は私を見つめた。
一瞬、その銀色の瞳に吸い込まれそうになったけど、慌てて平常心を取り戻そうとする。
えっと、これはひょっとして、名前を呼べってこと、かな。

「はい、レオ先輩。」

おそるおそる名前を呼ぶと、レオ先輩はニコリと微笑んだ。

「では早速なのですが、聞きたいことがあります。決して責めたりするわけではないので、安心して下さい。あなたは、能力者ですよね?」

答えを断定してくる口調に私はきた、と思った。
やっぱり、見逃してくれないよね・・・

もう、誤魔化すことはできない。
バッチリ見られてしまったし、どうにかして口止めするしかない。

「はい・・・」
「属性は?」

一瞬、これだけでも誤魔化そうかとも思った。
でも、よりによって全属性使っているところを見られてしまったし、下手に嘘をついて信頼を失いたくない。
少しでも印象を良くしなければ。

「四属性全部、です。」

意を決して自分の力の属性を打ち明ける。

「やっぱり・・・」

ため息のような声が耳を掠めて、私は膝の上の拳をギュッと握りしめる。

「あ、あのっ!このことは、光陰部や家の方に、秘密にしておいて、くださいませんか・・・?」

どんどん尻すぼみになっていく言葉。
カイお兄ちゃんや紫月先輩とは状況が違う。
カイお兄ちゃんのように血が繋がっているわけではないし、紫月先輩のように私に恩を感じているわけでもない。
レオ先輩が私の存在を秘密にしておくメリットなんて、何一つないんだ・・・

「いいですよ、秘密にしても。」
「え・・・?」

諦めかけたその矢先、信じられないような言葉が降ってきて、私は思わず先輩を見上げた。

「なんで・・・?」

何のメリットもないのに。
ばれたら先輩も責められてしまうかもしれないのに。
ポロリと問いかけの言葉が零れてしまう。
すると先輩は今日見た中で一番甘い笑みを浮かべた。

「だって、愛する人を助けたいと思うのは当然のことでしょう?」
「は・・・?」

先輩が発した言葉の意味が、数秒遅れて頭に入ってきた。
愛する、人って・・・誰が?

「一目惚れ、したんです、あなたに。」

真っ直ぐに私を見つめてくる先輩の瞳の中にくすぶっている熱に気付いた途端、急に顔が熱くなった。

「ひ、一目惚れ、って、そんなの、あるはずな」

テンパって、思考がグチャグチャになる。

「あるんです。あなたの全てに、心を奪われました。」

直球の言葉が、混乱に拍車をかける。
言葉が、ストレートすぎる。
これが、フランスの血なのか・・・!
頭の隅っこにどうでもいいことがよぎる。

「っえ、待っ、先輩っ・・・」

気付くと先輩の顔が至近距離にあった。
反射的に目を閉じると、次の瞬間、頬に柔らかい感触を感じた。
先輩が離れていく気配に、おそるおそる目を開ける。
今のって、今のって・・・

何がどうなってるんだろう、もう何もかもが分からない。
頭がグラグラする。
頭がパンクしそうっていう言葉の意味が、やっと分かった。

うわあ、もう無理、限界・・・

頭と心が悲鳴を上げて、私は意識を手放した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜

具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。 主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。 みたいなはなし ※表紙はAIです

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

転生してもオタクはなおりません。

しゃもん
恋愛
 活字中毒者である山田花子は不幸なことに前世とは違いあまり裕福ではない母子家庭の子供に生まれた。お陰で前世とは違い本は彼女の家庭では贅沢品でありとてもホイホイと買えるようなものではなかった。とは言え、読みたいものは読みたいのだ。なんとか前世の知識を魔法に使って少ないお金を浮かしては本を買っていたがそれでも限界があった。溢れるほどの本に囲まれたい。そんな願望を抱いている時に、信じられないことに彼女の母が死んだと知らせが入り、いきなり自分の前に大金持ちの異母兄と実父が現れた。これ幸いに彼等に本が溢れていそうな学校に入れてもらうことになったのだがそこからが大変だった。モブな花子が自分の願望を叶えて、無事幸せを握り締めるまでの物語です。

処理中です...