63 / 105
高校生編 6月
心の蓋
しおりを挟む誰かが、私の頭を撫でている。
カイお兄ちゃん?
よくこうして、頭を撫でてもらっていた。
心地よくて、一番安心できた。
両親に存在を知られてはいけないという非常識な日常に、不安でいっぱいだったから、カイお兄ちゃんの存在は、とても大きかった。
今思えば、カイお兄ちゃんは命綱みたいなものだったんだ。
その命綱がなくなった今、私の存在を支えているのは、私の手足だけ。
不安定で、グラグラ揺れて、風が吹けば落ちてしまいそう。
帰ってきてよ、カイお兄ちゃん。
「ソラ。」
名前を呼ばれて瞼を持ち上げる。
白い天井と、私をのぞき込んでいるレオ先輩。
「あ・・・」
カイお兄ちゃんじゃ、なかった。
「泣かないで下さい。」
軽く眉をよせ、長い指で頬に触れられ、初めて自分が泣いていたことに気付いた。
「すみません・・・」
謝ると、先輩の指が離れていって少しホッとする。
そうだ、私、レオ先輩に・・・
思い出すけど、頭がボーッとしていてなんだかどうでもよくなった。
考えるのは、後にしよう。
そんな私の投げやりな考えを知ってか知らずか、先輩の二本の腕が私の背中に回って、そのまま引き寄せられた。
抱きしめられてる・・・
そう分かったけど、抗う気力もない。
なんでだろう、頭を撫でられただけで、カイお兄ちゃんを思い出してしまうなんて。
こうして抱きしめられている時も、カイお兄ちゃんのことを思い出す。
会いたいよ。
包み込まれるような感覚に、どこか安心する。
先輩の顔が見えないから、なんとなく落ち着く。
始終見つめられているのも、居心地が悪い。
「いくつか、質問をしても?」
後ろから問いかけられ、私は頷いた。
「あなたの協力者を教えて下さい。今まで光陰部内にいる協力者なしでその能力を隠してこれたとは思えません。」
ああ、やっぱりこの先輩、頭良いな。
考えるのが馬鹿らしくって、正直に答える。
「カイお兄ちゃんと、紫月先輩です。」
何も考えずに答えたから、カイお兄ちゃんといつものように呼んでしまったけれど、まあいいか。
どうせ教えなくちゃいけないんだから。
「・・・二人との関係性を教えて下さい。」
数秒の沈黙の後、詳しい説明を求められた。
「私の本当の名前は、朱雲 蒼来です。カイお兄ちゃんの妹で、朱雲 蒼羽くんは、私の双子の弟らしいんですけど、この前初めて存在を知りました。私は・・・覚醒してすぐに、カイお兄ちゃんの家に逃げたんです。だから私の存在は、秘密にされているんです。」
ざっくりと説明する。
いくつか逃亡について、それからその後の生活について質問をされ、その一つ一つに答えていった。
「それから紫月先輩は、屋上で力を暴走させているのを見つけて、安定させるのを手伝ったんです。それで正体を知られちゃったんですけど、協力、してくれて・・・」
王のことについても話そうかどうか、迷ったけど、説明するのが面倒くさくて、何も言わないことにした。
「そうですか・・・」
フッと、体を離される。
真正面から顔をのぞき込まれ、やがて先輩は納得したように頷いた。
「確かに、会長やソウくんに似ていますね。」
それ、紫月先輩にも言われた。
そんなに似てるかな。
似ていたら私の素性がばれやすくなるからダメなのに、なぜだかこしょばゆい気持ちになる。
二人に似てる、と言われて悪い気はしない。
嬉しさを隠すように、胸の辺りに揺れていた銀の髪に指を絡ませて遊ぶ。
でも、考えてみれば私、ソウくんと話したことないんだよね。
本当は関わらない方が良いのに、やっぱり話しかけたいって思ってしまう。
・・・いつか、仲良くなれたらいいな。
でも今は、ソウくんよりも、カイお兄ちゃん。
やっぱり、会いたい。
側にいるのが普通だった、今までは。
だから今、急にその普通が崩されてしまって、どうすればいいのか分からない。
カイお兄ちゃんが離れていって、沢山の人と知り合ってしまう。
知り合うことは、悪いことじゃないはず。
なのに、どんどん増えていく知り合いが、今までとは違うんだって示していて、たまに辛くなる。
今まで私の世界はとっても狭くて、そこだけで完結していたのに。
急に大きな世界に放り出されて、色んな人が私の世界に入ってくる。
それだけでどうすればいいのか分からないのに、今までずっと支えてくれていた人が、突如離れていってしまう。
誰を信じていいのかも、分からなくなる。
「どうして、そんな顔をしているのですか?」
「ひゃっ!」
急に顔に手を添えられて、情けない声が出てしまう。
朱雲 蒼来になってからあまり人と関わってきたから、初対面の人との適切な距離がよく分からないけど、桐谷 弥生としての記憶をたどれば、今の私と先輩との距離は明らかに近すぎる。
「あの、離れて下さい。」
先輩の胸をグイッと押して距離をとる。
どうすればいいのか分からない。
誰を信頼すればいいのか分からない。
そんな状況に私はいて、そして、私は答えを出した。
「どうか、お願いします。誰にも、言わないで下さい。」
自分しか、信じないようにしよう。
カイお兄ちゃんがいないことへの寂しさは、もちろんある。
きっと、ずっと消えてくれないと思う。
でも、そんな弱い私じゃダメなんだ。
本当は、家から逃げた時に決意しなきゃいけなかったんだ。
「もちろんです。誰にも、言いませんよ。」
一人で生きていかなきゃいけない。
誰かの力を借りるのはいい。
でも、心を許しちゃダメ。
心を許したら、いつか傷つく。
表面上では誰かを頼っても、心の中で誰かに頼ってはいけない。
以前、カイお兄ちゃんが私に蒼羽くんのことを秘密にしていたのを知った時に決めた、誰も信じてはいけないと。
自分だけを、信じる。
でも私は、なんだかんだ言って、周囲と距離をとるのが辛くて、決意をうやむやにして、自分を誤魔化していた。
その結果が、カイお兄ちゃんとの別居。
それによって、私はこんなに傷ついて、また新しく光陰部の人に洗いざらい秘密を吐いている。
もう、誤魔化せない。
本当に、覚悟を決めなければ。
私がした覚悟は、一つの防衛本能だったのかもしれない。
これ以上、傷つかないようにするための。
私ができることは、これしかないから。
「そのかわり、またこうして話してくれると嬉しいです。」
懇願するような響きの声に、私は先輩を見据えた。
心までは呑まれないように、蓋をして。
「もちろんです、先輩。」
そう言って、心を許した者に向けるような笑顔の仮面を被った。
「いつか、君がそんな顔をする理由を解き明かしたいな。」
ふっと近づいて来た先輩が耳元で低く囁いた言葉は、敬語じゃなくて、一瞬、ゾワッと鳥肌がたった。
「何のことですか。」
でも、蓋をした心までは届かない。
この蓋は、一生、開けるつもりはない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます
ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。
前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。
社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。
けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。
家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士――
五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。
遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。
異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。
女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜
具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。
主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。
みたいなはなし
※表紙はAIです
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
転生してもオタクはなおりません。
しゃもん
恋愛
活字中毒者である山田花子は不幸なことに前世とは違いあまり裕福ではない母子家庭の子供に生まれた。お陰で前世とは違い本は彼女の家庭では贅沢品でありとてもホイホイと買えるようなものではなかった。とは言え、読みたいものは読みたいのだ。なんとか前世の知識を魔法に使って少ないお金を浮かしては本を買っていたがそれでも限界があった。溢れるほどの本に囲まれたい。そんな願望を抱いている時に、信じられないことに彼女の母が死んだと知らせが入り、いきなり自分の前に大金持ちの異母兄と実父が現れた。これ幸いに彼等に本が溢れていそうな学校に入れてもらうことになったのだがそこからが大変だった。モブな花子が自分の願望を叶えて、無事幸せを握り締めるまでの物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる