甘口・中辛・辛口男子のマネージャーやってます

七篠りこ

文字の大きさ
10 / 37
夏の章 中辛男子は結婚したい

3、突撃!プロゲーマーのあれこれ!

しおりを挟む
『今から配信するー』

 9時すぎにきているから、もう2時間くらいたってる。ていうか、ノイ君飲みに行ったんじゃなかったの? 

「酔いどれ配信? ……まさかね」
 
 ノートパソコンを起動して、ノイ君の配信をチェックする。右下のワイプにいるノイ君の顔は、いつも通り。特に赤くなったりもしてない。背後にある観葉植物の緑と彼の着ていTシャツの赤のコントラストが派手で、ゲーム画面より目立ってるかも。

 広がる手札の枚数が多めだから、今の対戦は終盤に近いみたい。

「ここはちょっと攻め時かなぁー」

 普段より間延びした話し方ではあるけれど、プレイも相変わらずスピード感あるし。もしかしたら飲んでないのかもな。
 あったまったパスタをかき混ぜてから『にんじん』としてコメントを書く。

 にんじん『おつかれさまです』

 あの春の日に約束させられた『ノイ君の配信にもコメントつけにいく』というのは、今のところまだ続いている。あれからノイ君ってば、本当に平日夜にも配信するようになったんだよね。大体週1くらいかな。
 きっちりコオリ君とも曜日をずらしてるから、なんだかんだわたしはノイ君の夜配信の常連になっていた。

 自分のターンが終わって、コメントをチェックしたのだろう。
 ノイ君は一瞬だけカメラ目線になった後「遅いよー!」と言った。もちろん軽い調子で、微笑みながら。
 心なしか嬉しそうに見えて、もう何度目かわからないけど、胸がきゅっとつままれる。

「ごめんごめん、寝ちゃってた」

 聞こえてるはずもないのに、画面に話しかけて、わたしはパスタを食べ始める。途中から見たからいまいち流れはわからなかったけど、残りライフは対戦相手が11で、ノイ君は20。見たところ、優勢だ。

 画面下の配信タイトルには「大会そっこう負けてくやしーーー! から配信する!」とある。
 直球すぎ。素直すぎ。
 子供みたいな無邪気さが、微笑ましい。

 ノイ君も契約更新できるかとか不安になることあるのかな。
 そう思ったところで、今の成績からはないかと考え直す。

 ……でも、将来のことどう考えてるんだろ。

 ノイ君はおいちゃんと同じ年だ。彼女がいるわけじゃないから、結婚とかはまだ視野には入っていないだろうけど、自分のキャリアについて──。

 こうして毎日を過ごしていると、それが当たり前すぎて、いつまでも続くんじゃないかって思ってしまう。ノイ君もおいちゃんもコオリ君もずっとチームにいて、一緒にがんばっていけるんじゃないかって。

 本当は、わたしたちが一緒にいられるのは、たくさんの偶然と奇跡のおかげなのに。



 翌週の配信の話題は、もちろん前週に行われた大会の話。そしてメインは『ステファンゲーミングの3人が、あなたの質問に答えます!』という企画だ。
 
 あらかじめSNSで選手に答えて欲しいことを募集して、その中からピックアップして選手達が答えるというもの。もちろん、配信中のコメントからも、ひろっていく手はずになっている。

 大会についての雑談が終わったくらいに、おいちゃんがテーブルに置いた質問の紙を確認した。

「じゃあここからは、ファンの皆さんの質問に答えていきますねー! えーと、『それぞれのPNの由来は何ですか?』だって。これは結構聞かれること多いよね」

 誰からいく? という雰囲気のアイコンタクトの後、ノイ君が「じゃあ俺から」と手をあげた。

「俺は、名字が野宮だから『の』のつく言葉がいいなーって。『NOISE』っていう英単語の『雑音』ていう意味も悪くないよね」
「あれだよね、英字使えばかっこいい説」

 おいちゃんがすかさず突っ込み、ノイ君が「それ言ったら元も子もないじゃんー!」と笑う。その後で「はい次、コオリは?」と水を向けた。

「俺は名前とはあんまり関係なくて、出身の『蒲郡がまごおり市』からとっただけですね」
「そうなの? 氷っぽいからコオリだと思ってたよ」
「なんですか、それ」

 氷っぽい……って、確かにちょっとわかるかも。コオリ君て冷静沈着な印象あるからなぁ。

「愛知といえば、ひつまぶしだよね。うなぎ食べたい。──最近実家帰ってるんだっけ?」
「オフの時は少しだけ。……なんか、帰るたびに猫が太ってます」

 そう言えば、前にコオリ君から猫がじゃれあう写真見せてもらったことあったなぁ。あれは和んだ……。
 コオリ君もそれを思い浮かべたのか、ゆるく微笑んだ。

 そのほんわかした空気感を引き継いで、最後においちゃんが「俺はねぇ……「おーい」っていうのが口癖だったんだよね。人を呼ぶときとか、誰かにつっこみいれるときとか」と言う。

「で「おいおいうるさい」みたいな感じで友達からつっこまれてるところを見てた彼女が『おいちゃん』でいいんじゃない?って言って──」

 おいちゃんが放つ優しいオーラに、わたしまで癒される。多分それはノイ君もコオリ君も同じで、二人して「いいねぇ」とうなずきあっていた。なんとなくまったりしかけた雰囲気に気づいて、おいちゃんが「じゃ、じゃあ次の質問いこっか」と進行する。

 配信前に質問内容はみんなに見せてあるから、その後の質問に対してもみんなサラサラと答えていく。『好きなカードは?』とか、『試合の前日に必ず食べるものはありますか?』とか。

 普段よりもかなりまったりゆるい感じの雑談配信は、コメント欄が活発だ。
 ゲームの戦術とかの話は、よっぽどやりこんでないとコメントしづらいけれど、好きな食べ物とか癖とかの話なら入りやすい。

 わたしも存在が埋もれないように、にんじんアカウントでコメントを残していく。

 そしてついに、わたしの待ってた瞬間が訪れた。

「えーと……『みなさんの恋愛観が聞きたいです』だって」

 読み上げたおいちゃん本人が『こんな質問あったっけ?』と首をかしげている。ノイ君とコオリ君に目配せをしたあと、スタジオの隅にいるわたしに視線を向けてきた。

 話してオッケー!
 むしろ盛り上げて!

 そういう意味を込めて、わたしは親指をぐっと立てる。

「恋愛観かぁ……なんか意味広すぎない? どんなこと聞きたいの?」

 ノイ君が困ったような微笑みを浮かべると、コメント欄が『彼女いるの!?』という質問で埋められる。

 みんな選手のプライベートは気になるみたいだ。

 確かにノイ君やコオリ君はルックスの良さから、女性ファンも多い。そういう子たちからしたら、彼女の有無は重要な情報だ。

 にんじん『結婚願望ありますか?』

 負けじとわたしもコメントを打ち込む。
 
 ノイ君、お願い! これを拾って!!
 願いをこめてノイ君を見つめると、それが届いたのか彼も視線を向けた。ただし、かなり変な顔をして。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...