31 / 46
第3章 旅で得るもの、失うもの
4、言わずの愛(★微量)
しおりを挟む
「おかえり、モモカ」
「ただいま……」
まさかカイリと同室だと思っていなかったので、少し妙な表情になってしまった。けれどアンソニーとオリビーが夫婦で部屋を使うのならば、必然的にこういうことになるのかもしれない。
カイリは既に麻のシャツにズボンというラフな格好になっていた。いまだ正装している百花とは対照的だ。その違いを思うとなんだか急に自分の着ているジャケットが重く感じた。
(さっき聞いたこと、カイリに何て言おう。ていうか、そもそも伝えていいことなの?)
ウェインは何か言っていただろうか。
必死でそのくだりの会話を思い出している百花の手をカイリが握る。はっとして見上げると「随分長話してきたね」とカイリが微笑んでいる。そしてその表情のままカイリは騎士に丁重にお礼を言い、百花を室内へと誘った。
そこは先ほどのウェインとアリスといた部屋の半分ほどの広さで、濃い茶色を基調とした落ち着いた部屋だった。窓際に置かれた幅広のベッドがかなりの存在感だ。その手前には三人掛けのソファが壁につけて置かれ、オットマンまである。カイリは「まずは着替えるでしょ? 魔法かけようか?」と言いながら、百花の正面に立った。
「あ、うん。……お願いします」
このカイリの言う魔法というのはシャワー代わりに身を清めてくれる便利な魔法のことだ。この世界ではまだ個人の家に浴室は普及していなくて、人々は公衆浴場を使う。もしくは、魔法で体を清めるのだ。百花は普段はオウルと公衆浴場を利用していたが、何度かこの魔法をかけてもらうこともあった。着衣のままでいいので、頼むのも気が楽だ。
「じゃあいくよ」
言いながらカイリは両手を広げ水色の光を発生させると、少し間隔をあけた状態で百花の全身をなでるようにした。ホットタオルをあてられたような感覚の後で、すっと肌から汗のベタつきが消えていく。いつもながら魔法の便利さに舌を巻きつつ、部屋の隅で着替えをする。麻のチュニックにズボンをはくと、なんだかカイリとお揃いのような出で立ちとなった。
(着替えてる間考えてたけど、答えがでない。どうしよう……。もし話したら、カイリはどんな反応するんだろう)
伝えていいのか、悪いのか。
そして、伝えるべきか、隠すべきか。
百花はひそかにため息をついてから、カイリの待つソファへと向かった。カイリは律儀に目を閉じて着替えが終わるのを待ってくれていて、百花が隣に腰掛けるとその目を開き「お疲れ様」と小さく口の端をあげる。
「あの王女様とどんな話してきたの?」
「えーと……パンのこと色々。天然酵母のこととか」
本当はパンの話なんて一つもしていない。けれど、今の時点であの話を全てカイリにする勇気が、百花にはまだ持てなかった。
(……ごめんね、カイリ)
これ以上あの部屋でのことを聞かれたくなくて、百花は「何飲んでるの?」とサイドテーブルに置かれたティーポットを指差した。カップが二つ並んでいて、片方には琥珀色の飲み物が入っていて、まだほのかに湯気がたっている。
「糖蜜茶っていうんだって」
カイリが空いているカップにお茶を注ぎ、百花に渡す。砂糖を焦がしたような甘い香りが百花の鼻腔をくすぐった。
「ありがとう」
お礼を言って、糖蜜茶を口に含む。何かのハーブティーに砂糖をたくさん混ぜたような味だ。甘ったるいけれど、後味はすっきりしている。
「甘すぎるかと思ったけど、そうでもないんだね」
「うん。飲みやすい」
カイリはうなずき、自分のカップを手にとった。
先ほどウェインの部屋で飲んだ紅茶も美味しかったし、これも美味しい。会食の味を思い出しても、ダイスは食文化が相当発展しているのがわかる。
「はー、落ち着くなぁ」
カップを一度テーブルに置いてから、百花はわざと明るく言い放ってカイリに寄りかかった。
(こうして何気なく一緒にいられるのも、あと少し……)
そう思うと、一瞬一瞬を大事にしないとという思いが強まる。そうしてわきあがったのは、単純な欲求だった。
(カイリと抱き合いたい、求めあいたい)
その感情のおもむくままに、百花はカイリの首元に顔を寄せた。小さく音をたてて吸い付くと「ちょっ……」と頭上でカイリの焦ったような声がする。それにかまわずに百花は身体を反転させて、カイリの腿の上にまたがるように座ると首元に抱きついた。
「カイリ……」
しがみつくように抱きしめると、かたんとカップがテーブルに戻された音の後に、同じだけの力で背中に腕がまわされる。カイリは「どうしたの」と困惑したような声を出していたが、百花はそれには答えなかった。
(ただカイリの体温を感じたいだけ。そして、今一緒にいるのは確かなことだって、自分自身にわからせてあげたいだけ)
セックスがしたいと言う代わりに、百花は自分からカイリに口付けた。いつもカイリがしてくれるように、自分の舌を伸ばしてカイリの口の中を探ってみる。途端にカイリの手が後頭部にまわって強く押さえつけられて、その分だけ自分の舌がカイリの口腔の内部へと入っていった。
「んんっ……!」
待ち構えていたカイリの舌に絡め取られてしごかれると、不思議な気持ち良さに声が漏れてしまう。
「……やけに積極的だね」
唇を離したカイリが、百花の耳元で囁く。ふっと息を吹きかけられて、そのこそばゆさにまた声があがった。ふしだらだと思われてるかもしれないと恥ずかしかったけれど、どうせ一ヶ月後には消えてしまうのだったら、思い煩うことなく好きなようにしたかった。
「カイリ……お願い……」
そっとカイリのシャツの内側に手を忍ばせる。少しだけ汗ばんだ肌が、百花の手に吸い付くようだった。背中に手を沿わせて、もう一度キスをしようと顔を近づけると、カイリは潤んだ目で微笑みながら再び唇を吸った。お互いに舌を絡ませ合う最中で、カイリの手も百花のチュニックをまくりあげるように動く。
もう脱ぐのと少し驚いたのもつかの間、一瞬唇が離れた間に万歳するように手をあげさせられ、簡単に百花の上半身からチュニックが肌着とともにはぎとられた。あらわになった上半身が恥ずかしくて、いっそう強く抱きつくと、カイリは百花の耳に唇を寄せた。
「……モモカからも脱がせて……」
熱い吐息とともにカイリが百花の耳を食む。そのまま耳の中に舌をさしこまれ、そちらに気を取られつつ、百花も震える指先でカイリのシャツをはだけさせていった。彼は素肌にシャツを着ていたから、肩から落とせばすぐに上半身がさらされる。
泣きたくなるくらいに端正な身体だった。
「きれい……」
呟く百花にカイリは「同じこと返していい?」と微笑みながら、百花をソファへと押し倒していく。そのままズボンも下着も脱がされて「あ、ちょっと!」と抗議する間もなく足の間にカイリの膝が差し込まれた。
既に自分の女の部分はうるんでいる自覚はある。膝が大事な部分まで進んできて、かすめるようにふれたから「ひぁっ」と百花は声をあげてしまった。カイリは百花が声をあげるといちいち嬉しそうに反応を見せる。そっと百花の頬にふれると、扇情的に顔の輪郭をなぞっていった。
「まだ始めたばかりなのにね」
「だ、だってそりゃ……」
「うん」
なに、とカイリは聞いておいて、百花の胸の先を口に含んだ。舌でつつかれると声がどうしても我慢できない。じわりと下腹部が疼く感覚に身悶えしながら、百花はカイリにしがみついた。ぎしっとソファがきしむ音がして、カイリが体重をかけたのがわかった。
乳首のまわりをくるりと円を描くようになめられて、百花は潤んだ吐息を吐き出した。その場所だともどかしい。
百花が期待をこめてカイリに視線を向けると、ふわりとその髪が動いてカイリが顔をあげた。彼は柔らかく微笑んだあとに、急にいたずらを思いついたように目を細める。
「……今、モモカが考えてること、あててあげようか」
ドキッとしたのは、その視線で既に見透かされてる気がしたから。
「い、いいっ……言わなくていいっ。あの──カイリが思うように……していいからっ」
うわずった声で答えた後、百花は先に目をそらした。
(これ以上見つめあったら、いろんなことバレちゃいそう!)
もっとしっかり快感を得たいこと、いろんな場所にふれてほしいこと。
きっと言えばカイリはかなえてくれるからこそ、恥ずかして言えない。
「──言ったね」
ぽそりとカイリがつぶやいた。もう一度視線を向けると、カイリの目がどこかギラギラしているような……。
「僕の、好きなようにしていい、ってことだよね?」
細かく区切って念をおされて初めて、自分の発言がやけに大げさにとられていることに気づく。でも、それは百花の偽りのない心でもあった。
「うん。いいよ。カイリなら、なんだって……」
「……それ、すごい殺し文句だよ」
カイリはそう言うなり伸び上がってきて、百花の唇を奪った。ぎゅっときつく抱きしめられると、それだけで幸せがこみあげる。
カイリの熱い吐息ごと受け入れて、百花は必死に舌を伸ばした。静かな空間に、お互いの唾液を交換する音が響いた。
◆
「何かあったんでしょ」
ゆうに大人四人ほど眠れそうな広いベッドで肌を寄せ合いながら、百花はずばりとカイリに切り込まれた。先ほどまで散々甘ったるい雰囲気の中でセックスをしていたとは思えない切り替えの早さだ。もうあっぱれと言うしかない。
(きっとしてる最中ずっと気になってたんだろうな……)
裸の胸に頬をすりつけながら「……ない、こともないけど、言いづらい」と呟く。小さな声でもよく響いたから、カイリにも聞こえただろう。事実「何それ」とカイリが不満気が声を漏らす。
「実はパンの味に文句でも言われたとか?」
カイリの予想が微笑ましくて、百花は笑みをこぼす。そうだったらどんなに良かっただろう。
「パンは好評だったよ。言われたのは……わたしのこと。いつか向こうに帰る日がくるから、心の準備はしておいた方がいいって」
肝心な部分を濁した答え方だったけれど、カイリの方はそれをしっかり信じたようで「……あの王女様が? そんなことを?」と眉間にしわを寄せている。
「ううん。部屋に行ったら、彼女のお兄様がいたの。ウェイン王子って知ってる?」
「名前だけね。……確かにダイスの王族は皆、莫大な魔力を持っているって聞いたことがあるから、モモカが異界渡りしてきてることもすぐに気づいておかしくない。だけど……」
そう言うなり、カイリは黙ってしまった。
不安にさせたいわけじゃない。いたずらに気にして欲しいわけでもない。
けれど、何をどう言えばいいのかわからなくて、百花はそっとカイリの頬に手を添えた。
「ごめんね、改めて言われたらちょっと凹んじゃって……」
一度目を伏せてから、再び視線を戻すと真摯な目とかちあった。こんなにも吸い込まれそうなほどに美しい目を、百花は他に知らない。きっと向こうに戻ってからもずっとこの目のことはいつまでも忘れないだろう。そんなことを考えた後「でも大丈夫」と百花は目を細めた。
「今はすごく幸せだから」
カイリは何も言わない。
彼も彼で、きっとこんな時にいう言葉は持ち合わせていない。
けれど、だからこそカイリが百花を想う気持ちは伝わった。
(別れる運命ならば、いっそ……)
物騒なことを思い浮かべた矢先「大丈夫じゃないでしょ」と絞り出すような声がした。
「ちゃんと言えばいいのに」
「何を?」
「本当の気持ち」
なんでいつも言わないの、とカイリがさらに低い声で呟く。
「別に頼っていいんだからね。僕のこと何だと思ってるの」
「……もちろん、恋人だよ」
いつかも聞かれたその質問も、今ならば自信を持って答えられる。百花の返答にカイリは満足したように「でしょ」とうなずいた。
「だから一人で考えすぎないようにしてよね。二人のことだったら、尚更」
「うん、ありがとう。カイリもね。一人で突っ走る前に、わたしに一言ちょうだいね?」
「それは……」
カイリは苦虫を噛み潰したような顔になりながらも「わかってる」とうなずいた。その表情の変化が楽しくて、そして愛しくて、百花は声をあげて笑った。
「ただいま……」
まさかカイリと同室だと思っていなかったので、少し妙な表情になってしまった。けれどアンソニーとオリビーが夫婦で部屋を使うのならば、必然的にこういうことになるのかもしれない。
カイリは既に麻のシャツにズボンというラフな格好になっていた。いまだ正装している百花とは対照的だ。その違いを思うとなんだか急に自分の着ているジャケットが重く感じた。
(さっき聞いたこと、カイリに何て言おう。ていうか、そもそも伝えていいことなの?)
ウェインは何か言っていただろうか。
必死でそのくだりの会話を思い出している百花の手をカイリが握る。はっとして見上げると「随分長話してきたね」とカイリが微笑んでいる。そしてその表情のままカイリは騎士に丁重にお礼を言い、百花を室内へと誘った。
そこは先ほどのウェインとアリスといた部屋の半分ほどの広さで、濃い茶色を基調とした落ち着いた部屋だった。窓際に置かれた幅広のベッドがかなりの存在感だ。その手前には三人掛けのソファが壁につけて置かれ、オットマンまである。カイリは「まずは着替えるでしょ? 魔法かけようか?」と言いながら、百花の正面に立った。
「あ、うん。……お願いします」
このカイリの言う魔法というのはシャワー代わりに身を清めてくれる便利な魔法のことだ。この世界ではまだ個人の家に浴室は普及していなくて、人々は公衆浴場を使う。もしくは、魔法で体を清めるのだ。百花は普段はオウルと公衆浴場を利用していたが、何度かこの魔法をかけてもらうこともあった。着衣のままでいいので、頼むのも気が楽だ。
「じゃあいくよ」
言いながらカイリは両手を広げ水色の光を発生させると、少し間隔をあけた状態で百花の全身をなでるようにした。ホットタオルをあてられたような感覚の後で、すっと肌から汗のベタつきが消えていく。いつもながら魔法の便利さに舌を巻きつつ、部屋の隅で着替えをする。麻のチュニックにズボンをはくと、なんだかカイリとお揃いのような出で立ちとなった。
(着替えてる間考えてたけど、答えがでない。どうしよう……。もし話したら、カイリはどんな反応するんだろう)
伝えていいのか、悪いのか。
そして、伝えるべきか、隠すべきか。
百花はひそかにため息をついてから、カイリの待つソファへと向かった。カイリは律儀に目を閉じて着替えが終わるのを待ってくれていて、百花が隣に腰掛けるとその目を開き「お疲れ様」と小さく口の端をあげる。
「あの王女様とどんな話してきたの?」
「えーと……パンのこと色々。天然酵母のこととか」
本当はパンの話なんて一つもしていない。けれど、今の時点であの話を全てカイリにする勇気が、百花にはまだ持てなかった。
(……ごめんね、カイリ)
これ以上あの部屋でのことを聞かれたくなくて、百花は「何飲んでるの?」とサイドテーブルに置かれたティーポットを指差した。カップが二つ並んでいて、片方には琥珀色の飲み物が入っていて、まだほのかに湯気がたっている。
「糖蜜茶っていうんだって」
カイリが空いているカップにお茶を注ぎ、百花に渡す。砂糖を焦がしたような甘い香りが百花の鼻腔をくすぐった。
「ありがとう」
お礼を言って、糖蜜茶を口に含む。何かのハーブティーに砂糖をたくさん混ぜたような味だ。甘ったるいけれど、後味はすっきりしている。
「甘すぎるかと思ったけど、そうでもないんだね」
「うん。飲みやすい」
カイリはうなずき、自分のカップを手にとった。
先ほどウェインの部屋で飲んだ紅茶も美味しかったし、これも美味しい。会食の味を思い出しても、ダイスは食文化が相当発展しているのがわかる。
「はー、落ち着くなぁ」
カップを一度テーブルに置いてから、百花はわざと明るく言い放ってカイリに寄りかかった。
(こうして何気なく一緒にいられるのも、あと少し……)
そう思うと、一瞬一瞬を大事にしないとという思いが強まる。そうしてわきあがったのは、単純な欲求だった。
(カイリと抱き合いたい、求めあいたい)
その感情のおもむくままに、百花はカイリの首元に顔を寄せた。小さく音をたてて吸い付くと「ちょっ……」と頭上でカイリの焦ったような声がする。それにかまわずに百花は身体を反転させて、カイリの腿の上にまたがるように座ると首元に抱きついた。
「カイリ……」
しがみつくように抱きしめると、かたんとカップがテーブルに戻された音の後に、同じだけの力で背中に腕がまわされる。カイリは「どうしたの」と困惑したような声を出していたが、百花はそれには答えなかった。
(ただカイリの体温を感じたいだけ。そして、今一緒にいるのは確かなことだって、自分自身にわからせてあげたいだけ)
セックスがしたいと言う代わりに、百花は自分からカイリに口付けた。いつもカイリがしてくれるように、自分の舌を伸ばしてカイリの口の中を探ってみる。途端にカイリの手が後頭部にまわって強く押さえつけられて、その分だけ自分の舌がカイリの口腔の内部へと入っていった。
「んんっ……!」
待ち構えていたカイリの舌に絡め取られてしごかれると、不思議な気持ち良さに声が漏れてしまう。
「……やけに積極的だね」
唇を離したカイリが、百花の耳元で囁く。ふっと息を吹きかけられて、そのこそばゆさにまた声があがった。ふしだらだと思われてるかもしれないと恥ずかしかったけれど、どうせ一ヶ月後には消えてしまうのだったら、思い煩うことなく好きなようにしたかった。
「カイリ……お願い……」
そっとカイリのシャツの内側に手を忍ばせる。少しだけ汗ばんだ肌が、百花の手に吸い付くようだった。背中に手を沿わせて、もう一度キスをしようと顔を近づけると、カイリは潤んだ目で微笑みながら再び唇を吸った。お互いに舌を絡ませ合う最中で、カイリの手も百花のチュニックをまくりあげるように動く。
もう脱ぐのと少し驚いたのもつかの間、一瞬唇が離れた間に万歳するように手をあげさせられ、簡単に百花の上半身からチュニックが肌着とともにはぎとられた。あらわになった上半身が恥ずかしくて、いっそう強く抱きつくと、カイリは百花の耳に唇を寄せた。
「……モモカからも脱がせて……」
熱い吐息とともにカイリが百花の耳を食む。そのまま耳の中に舌をさしこまれ、そちらに気を取られつつ、百花も震える指先でカイリのシャツをはだけさせていった。彼は素肌にシャツを着ていたから、肩から落とせばすぐに上半身がさらされる。
泣きたくなるくらいに端正な身体だった。
「きれい……」
呟く百花にカイリは「同じこと返していい?」と微笑みながら、百花をソファへと押し倒していく。そのままズボンも下着も脱がされて「あ、ちょっと!」と抗議する間もなく足の間にカイリの膝が差し込まれた。
既に自分の女の部分はうるんでいる自覚はある。膝が大事な部分まで進んできて、かすめるようにふれたから「ひぁっ」と百花は声をあげてしまった。カイリは百花が声をあげるといちいち嬉しそうに反応を見せる。そっと百花の頬にふれると、扇情的に顔の輪郭をなぞっていった。
「まだ始めたばかりなのにね」
「だ、だってそりゃ……」
「うん」
なに、とカイリは聞いておいて、百花の胸の先を口に含んだ。舌でつつかれると声がどうしても我慢できない。じわりと下腹部が疼く感覚に身悶えしながら、百花はカイリにしがみついた。ぎしっとソファがきしむ音がして、カイリが体重をかけたのがわかった。
乳首のまわりをくるりと円を描くようになめられて、百花は潤んだ吐息を吐き出した。その場所だともどかしい。
百花が期待をこめてカイリに視線を向けると、ふわりとその髪が動いてカイリが顔をあげた。彼は柔らかく微笑んだあとに、急にいたずらを思いついたように目を細める。
「……今、モモカが考えてること、あててあげようか」
ドキッとしたのは、その視線で既に見透かされてる気がしたから。
「い、いいっ……言わなくていいっ。あの──カイリが思うように……していいからっ」
うわずった声で答えた後、百花は先に目をそらした。
(これ以上見つめあったら、いろんなことバレちゃいそう!)
もっとしっかり快感を得たいこと、いろんな場所にふれてほしいこと。
きっと言えばカイリはかなえてくれるからこそ、恥ずかして言えない。
「──言ったね」
ぽそりとカイリがつぶやいた。もう一度視線を向けると、カイリの目がどこかギラギラしているような……。
「僕の、好きなようにしていい、ってことだよね?」
細かく区切って念をおされて初めて、自分の発言がやけに大げさにとられていることに気づく。でも、それは百花の偽りのない心でもあった。
「うん。いいよ。カイリなら、なんだって……」
「……それ、すごい殺し文句だよ」
カイリはそう言うなり伸び上がってきて、百花の唇を奪った。ぎゅっときつく抱きしめられると、それだけで幸せがこみあげる。
カイリの熱い吐息ごと受け入れて、百花は必死に舌を伸ばした。静かな空間に、お互いの唾液を交換する音が響いた。
◆
「何かあったんでしょ」
ゆうに大人四人ほど眠れそうな広いベッドで肌を寄せ合いながら、百花はずばりとカイリに切り込まれた。先ほどまで散々甘ったるい雰囲気の中でセックスをしていたとは思えない切り替えの早さだ。もうあっぱれと言うしかない。
(きっとしてる最中ずっと気になってたんだろうな……)
裸の胸に頬をすりつけながら「……ない、こともないけど、言いづらい」と呟く。小さな声でもよく響いたから、カイリにも聞こえただろう。事実「何それ」とカイリが不満気が声を漏らす。
「実はパンの味に文句でも言われたとか?」
カイリの予想が微笑ましくて、百花は笑みをこぼす。そうだったらどんなに良かっただろう。
「パンは好評だったよ。言われたのは……わたしのこと。いつか向こうに帰る日がくるから、心の準備はしておいた方がいいって」
肝心な部分を濁した答え方だったけれど、カイリの方はそれをしっかり信じたようで「……あの王女様が? そんなことを?」と眉間にしわを寄せている。
「ううん。部屋に行ったら、彼女のお兄様がいたの。ウェイン王子って知ってる?」
「名前だけね。……確かにダイスの王族は皆、莫大な魔力を持っているって聞いたことがあるから、モモカが異界渡りしてきてることもすぐに気づいておかしくない。だけど……」
そう言うなり、カイリは黙ってしまった。
不安にさせたいわけじゃない。いたずらに気にして欲しいわけでもない。
けれど、何をどう言えばいいのかわからなくて、百花はそっとカイリの頬に手を添えた。
「ごめんね、改めて言われたらちょっと凹んじゃって……」
一度目を伏せてから、再び視線を戻すと真摯な目とかちあった。こんなにも吸い込まれそうなほどに美しい目を、百花は他に知らない。きっと向こうに戻ってからもずっとこの目のことはいつまでも忘れないだろう。そんなことを考えた後「でも大丈夫」と百花は目を細めた。
「今はすごく幸せだから」
カイリは何も言わない。
彼も彼で、きっとこんな時にいう言葉は持ち合わせていない。
けれど、だからこそカイリが百花を想う気持ちは伝わった。
(別れる運命ならば、いっそ……)
物騒なことを思い浮かべた矢先「大丈夫じゃないでしょ」と絞り出すような声がした。
「ちゃんと言えばいいのに」
「何を?」
「本当の気持ち」
なんでいつも言わないの、とカイリがさらに低い声で呟く。
「別に頼っていいんだからね。僕のこと何だと思ってるの」
「……もちろん、恋人だよ」
いつかも聞かれたその質問も、今ならば自信を持って答えられる。百花の返答にカイリは満足したように「でしょ」とうなずいた。
「だから一人で考えすぎないようにしてよね。二人のことだったら、尚更」
「うん、ありがとう。カイリもね。一人で突っ走る前に、わたしに一言ちょうだいね?」
「それは……」
カイリは苦虫を噛み潰したような顔になりながらも「わかってる」とうなずいた。その表情の変化が楽しくて、そして愛しくて、百花は声をあげて笑った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在
唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話
中山加恋(20歳)
二十歳でトオルの妻になる
何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛
中山トオル(32歳)
17歳の加恋に一目ぼれ
加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する
加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる
会社では群を抜くほどの超エリートが、
愛してやまない加恋ちゃんに
振り回されたり落ち込まされたり…
そんなイケメンエリートの
ちょっと切なくて笑えるお話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる