眠る王子にお姫様はキスをする

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あの子は……

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街中に響く黄色い歓声。

 少し目にかかった前髪から覗く碧眼に吸い込まれるかのように、見た者の視線を攫っていく。

 自分に向かってくる視線を物ともせず堂々と歩く姿は滲み出る気品さも相まってまるで『王子』。



 突然、少年は地面に手を伸ばし、ハンカチを拾う。


 「はい、君のだよね。」

声をかけられた少女は振り返り、自身の長い前髪からこちらを伺うように顔を覗かせる。落としたことに気づかなかったのか、恥ずかしさからか、少女は顔を赤らめる。……大方、彼の格好良さからだろうが。


  少年は渡した後も手元を見つめている。

 「この猫のキャラクター可愛いね。君の手作り?」




 「……さ…です…」

 夏の休日はいつも以上に雑音が多い。


 「ごめんね、もう一度言ってもらっていい?」

  彼は申し訳なさそうに頬をかく。



 「うさぎです!!」
少女は声を振り絞る。自分の下手くそな刺繍を猫と間違えられてしまった2つの恥ずかしさで耳まで真っ赤になる。


 「あっ、うさぎか!でも、可愛いね。これからは落とさないようにね。」
 間違えてしまったことに気まずさが顔に出るが、眉尻を下げて笑う姿には不思議と嫌な感じはしない。

 「はい………」
 消え入りそうな声で声を震わせながらなんとか返事をするが、俯いてしまった。

 そんな彼女を見て何か気づいたように耳元に顔を近づける。

「顔を上げなよ。可愛いんだから。」

 その言葉に少女ははっと顔をあげる。

 

  私が……?



 少女は信じられないという表情で少年の顔を見上げる。真っ直ぐにこちらを見る姿に嘘をついている感じはしない。


 ……改めて見ると本当に綺麗な目だな。
 真っ直ぐな目に何もかも見透かされているような気分になる。

 そんなことを思いながら少女は軽く現実逃避する。


 じっと見つめられたからか彼は少し恥ずかしそうに笑う。

 少年は細く長い指で、少女の目までかかった長い前髪をそっと耳にかけ、


 「やっぱり可愛い。」

くしゃっと笑う姿に子犬のような幼さが出て、思わず胸が高鳴る。



 「は、初めて言われました……」




 彼女は顔を赤らめたまま、しかし彼の目から目を離さず、じっと黙っていた。





ふと腕時計を見た少年は、突然焦りだした。
 「やばっ!ごめん、もう行かなきゃ。でも、可愛いって言ったのは本当だからね!」


 それじゃ、と小走りに颯爽と去っていく。 


その背中が見えなくなるまで決して目を離さず………いや、目が離せなかった。



 「…いつか、いつかまた会えますように。」



  絶対、会える、はず。
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