眠る王子にお姫様はキスをする

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お姫様(♂)に抱っこされた王子(♀)

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風に頭を撫でられ、ふと目を覚ます。
真っ白な天井を見上げ、起き上がって辺りをを見渡せば、閉められたカーテンの隙間から白衣を着た先生の姿が見える。


 ……ここは、保健室か。


 なぜここにいるのか分からず少し考え込む。
 ズキっと頭の痛みと共に教室でのことを思い出す。


 倒れた自分を誰かが運んでくれたのかな。


 ベッドから出ようと床に足をつくが急にふらつき横に倒れ込んでしまった。


 「あら如月君、目が覚めた?貧血起こしてるんだからまだ寝てないとダメよ。」

 ベッドに倒れた音で起きたことに気づいた先生が声を掛けてくる。

 「貧血、ですか。…ここにはだれが?」

先生は あぁ、と察したように

 「銀髪の綺麗な子だったわ。なんていったかしら…」

「御影雪」
 忘れるはずがない。銀髪というだけでも珍しいから。

「あ、そうそうその子。あなたが運ばれてきた時、お姫様に抱っこされた王子みたいで驚いたわ。」



 ……どう見てもか弱い女の子という印象が強かったが、本当に彼女が運んだのだろうか。思い出し笑いをしている先生を怪訝な顔で見つめる。



 ごめんなさいね、といまだにクスクス笑いながら謝ってきて
「本当よ?クラスの子に聞いてみたらわかるんじゃない?御影さん、息切らして走ってきたみたいで泣きそうな顔してたわ。相当心配してて、『病気なんでしょうか、死なないですよね』って。ただの貧血って言ったら力が抜けたのかその場に座り込んじゃって。また来るって言ってたから、その時にちゃんとお礼言っときなさいよ?」


時計を見れば6時間目が終わりかけていた。

 その時、ドアが開き体育で熱中症で倒れた人がいると先生を呼びにきた。


 「しばらく戻ってこれないけど、大丈夫?」

「だいぶ楽になったのでもう少ししたら帰ります。」

お大事にね、と微笑みながら言い保健室から出て行った。



 1人ポツンと残され、ベットに横になり少し頭を整理する。

 御影が運んだ、というのはどうやら事実らしい。人は見かけによらないというのはこのことを言うのだろう。
 にしても『お姫様に抱っこされた王子』というのはなかなかひどい。クラスで笑い物になるだろう、と落ち込んでいると


 ガラッ


 誰かが保健室に入ってきた。




 なんだか気まずく、思わず目を瞑り寝たふりをする。




 その人物はカーテンの中に入ってきて、じっとしていた。

 変質者か?とそっと薄目を開ければ長い銀髪が視界に入ってきた。


 あれ、なんか近くない?と思っていると





 唇に生暖かいものを感じた。




 思わず目を見開き、目の前の人物をドンッと押すしてしまった。

 うわっとという声と共に隣のベッドに倒れる音がする。


 「ご、ごめん!大丈夫?」


 耳を真っ赤にし動揺しながらも、急いで起き上がり手を伸ばす。が貧血による立ちくらみで、そのまま前に倒れ込んでしまった。




 ごつん




 転んだ拍子におでこで思い切り頭突きをしてしまった。さらに上からのし掛かられて息ができない。
…あれ、さっき前のめりに倒れたはずだよね?


 「く、苦しいっ!」
 相手を力一杯ドンッと押せば思ったよりも軽く退かせることができた。

 ぶはぁ、と息を吸い相手を見れば








 頭を抱えた自分がいた。










 ………………………………………‥………………………………………………………………え?



 まだ、頭が混乱しているのか?と目を擦ってもう一度見るが、そこには紛れもない、自分の姿があった。


 怖くなり、今の自分の体を触れば胸元にリボンが付いてある。なんだか股の間も違和感がある。





 まさか!




 ガバッと立ち上がり保健室の洗面器の鏡を見れば
銀髪の可憐な少女が映っていた。


 思わず声をあげれば、未だに頭に悶えていた自分がこっちを見る。

 相手も、信じられないものを見る目で放心状態になっている。



 お互いに顔を見合わせ、間に沈黙が流れる。






  誰かが廊下で走る音に意識を引き戻された。


 「…もしかして、如月君?」
 声を震わせながらそっと聞かれた。

 「あ、あぁ。そっちは………御影、で合ってる?」

「う、うん。」



 ………やはり、入れ替わってしまったらしい。





 それよりも、もっと聞かなければならないことがある。



 「あの!」「あのさ!」

 お互いの声が重なる。しかし、気にしている余裕はない。




 「女の子だったの?」「男だったの?」




 また、被った。

 お互い何も言葉を返せず、時計の音だけが室内に響く。




 「「はぁ……」」



 ため息までもピッタリだった。

 色々な衝撃で動けず呆然とする中、先に口を開いたのは御影だった。




 「私、ね。実は、一年前くらいに如月君に会ってるんだ。」



覚えてないだろうけど、と頰をかきながら笑う。

「街中でうさぎの刺繍が入ったハンカチを拾ってくれたのが如月君だった。私の目、オッドアイでしょう?顔を見られて気味悪がられること多くて。あの頃、家でも学校でも疎まれてて、逃げ出したくて一人で日本に来てたの。だから、私の目をはっきりと見て話してくれたのがすごく嬉しかった。それに、可愛いって。お世辞だとわかってても本当に嬉しかったし、救われた。」




 御影はこちらに向き直り、自分の目を見てはっきりと伝える。


 「本当にありがとう。」


 御影のにこやかに微笑む姿に、胸が痛む。





 「覚えてる。あの時の……。そっか、君だったんだね。珍しいオッドアイの子だったから印象に残ってたよ。今とは全然違いすぎて気づかなかった。
あれ、でも確か黒髪だったような。」


 自分の言葉を聞き、御影の目から色が失われる。

 「珍しい銀髪だから、切られて売られることもあったの。だから…染めてた。」
 目を伏せ、手をぎゅっと握りしめている。


 疎まれ、好奇の目に晒され、1人生きてきた辛さは計り知れない。自分の一言で余計なことを思い出させてしまった。自分の愚かさに呆れ、情けなくなった。


 話題を変えようと話題をさっきの続きに戻す。

「男の子だって隠しているのは何か理由があるの?」

 うちの学校は制服が指定されている。御影の制服はどう見ても女子のものだ。

一年前に会った時はワンピースを着ていた気がするが…その時にはもう女子だったのか?


  御影は少しためらった後、俯き小さく






「君に恋をしたから。」







その言葉に思わず固まってしまう。
 引いたはずの熱がまた蘇ってくる。

 「まあ、小さい頃から可愛いものが好きで女の子みたいな服をよく着てたんだけどね。このくらいの歳で堂々と着れなくて、知り合いのいない日本なら大丈夫かなって思ったんだ。 
 心までそうなったのは如月君に会ってだけど…ね。」



 ーー好きな人に女の子として見てもらいたいーー





 好きな人のためにここまでできるのはすごい。
 告白されたことを忘れ、感心していると、


 はっと突然思い出したことがあった。


 衝撃が多すぎて忘れてたけど、そういえばさっき、き、き、きすされたんだった。

 「あの、その、さっき…、き、きすしたのは、夢じゃなかった、ってことで合ってる………?」

しどろもどろになりながら、なんとか言葉を紡ぐ。


 御影は顔を真っ赤にさせながら俯いたまま、小さく頷く。


 「そっ、そっかー。ははははつきすだったから、ちょっと驚いちゃったなー、あはははは」

 動揺しすぎて自分で何を言ってるのかわからなくなってきた。




 「寝てる人を襲うなんて最低だとは分かってたんだけど………綺麗すぎたから、思わず…ごめん。」


Oh…と思わずアメリカンになる心を抑え、必死に冷静さを保つ。


 女子にモテるとは思ってたけど、まさか男子が乙女になる程とは………。



 

 ……なんと返事したら良いのか。


悶々と考えていると、突然黙り込んでしまった自分を見て気まずくなってしまったのか、訊かれたくなかったことを聞かれてしまった。


 「如月君は女の子……でいいんだよね。」


 やはり、あるはずのものがないというのは、すぐにわかってしまうようだ。逆も然りだし。


 「…あぁ。そうだよ。事情は話せないんだけど、学校でも男子ってことで通してる。知ってるのは理事長と担任と、うちのクラスの一条珀<<はく>>だけだよ。」



 「一条って一条グループの御子息だよね。…どういう関係?」


 「幼馴染だよ。家が隣で親同士が仲良いから小さい頃からずっと一緒なんだ。担任がバレないようには配慮してくれてるんだけど、それでもやっぱり危ない時があるからフォローしてくれるんで、すごい助かってる。」


 「ふーん、そっか。」  
 どこか安心したように、しかし何か言いたげな表情でこちらを見てくる。



 「まあ、追々問い詰めるとして。
 それよりもこれからが大事だよね。どうするか…。」
 不穏な言葉が聞こえた気がするが、聞かなかったふりをしよう。
顎に手を当て、唸りながら考えていると



 「あ、足!見えてる見えてるから!」


  ものすごい形相で迫られ、思わず退ってしまった。       


 …あ、本当だ。癖でガニ股になっていたようだ。



 しかし、御影を見れば同じことが言えた。
 「そっちも、内股気をつけて!オネェだって思われるじゃん…」



 これじゃあすぐバレるって……


 喋り方、座り方、歩き方諸々見直さないとやばいな……。


 「「これから先が不安だ………」」

長いため息をつきお互いの姿を見合っていた。
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