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20歳の冬
アルバイト
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「…げ」
おいいいいいピーター???なんで???さっき電話したばっかりじゃん??半年どころか3時間もってないじゃん!!!
「いらっしゃい!あら初めて見る顔ね。ご指名はある?」
「…特にない」
ママがスルト、エドガー、ピーターに駆け寄って店内へ案内した。よりにもよって磯崎さんの隣に。痛いほど視線を感じる。雰囲気で分かる。すごく怒ってる。僕は咄嗟に目を逸らした。
「圭吾くん?どうしたんだい?」
「あっ!いえ、なんでもないです。ごめんなさい」
「いいんだよ。次は何を飲もうかなあ」
「おい、ここはどんな店なんだ?」
スルトがママにそう尋ねたのが聞こえた。ママは「知らずに来ちゃったの~?もう~」と言いながらスルトの肩を叩いた。
「ここはバーテンダーを指名できるバーよ。指名したバーテンダーを、お酒を飲んでいる間はひとりじめできるの。好みのバーテンダーとお喋りを楽しんでねえ」
そう、ここはいわゆるボーイズバーだ。カウンター越しにしか接客しないから、Ωの僕でも襲われることはない。それになにより時給がいい。時給に上乗せして客に飲ませた分だけインセンティブももらえちゃう。まだ働き始めて数か月だけど、僕の容姿と匂いに夢中になってる常連客も結構できた。磯崎さんもその一人だ。
「圭吾くん。次はブルー・ラグーンを作ってくれる?圭吾くんにも同じものを」
「分かりました」
カクテルを作る僕を、磯崎さん、スルト、エドガー、ピーターが凝視しているのを感じる。気が散るし…冷や汗やばい…僕、ころされちゃうのかなあ。
「お待たせしました」
「ありがとう」
磯崎さんは、僕がお酒をテーブルに置くとき決まって僕の手を握る。まあそうだよね。カウンター越しじゃこのタイミングでしか僕に触れられないんだから。
隣でパリンと音が鳴った。驚いて目を向けると、スルトとエドガーが握っていたコリンズグラスが粉々になっていた。ひええええええ。握り割っちゃったの…?ひょええええ…。こえええ…。
「あらあら!怪我はなあい?大丈夫?」
「大丈夫です」
歯を食いしばってエドガーが答えている。こ、こわい…。
「圭吾くん?」
「あっ!ああ、ごめんなさい。ぼーっとしちゃって」
「もう。僕といるときに他のこと考えちゃダメじゃないか」
パリン
「あはは。ごめんなさい」
「ところでずっと思ってたんだけど、圭吾くん、お酒強いね?Ωなのに」
「ええ。僕けっこうお酒強いんですよ~」
「そうなんだ。残念。酔い潰して家まで送ろうかと思ってたのに」
パリン
「あはは、もう磯崎さんてば。やめてくださいよ~」
「結構本気なんだけどなあ。…ねえ、圭吾くん、そろそろ連絡先教えてくれてもいいんじゃない?プライベートでも仲良くしようよ」
パリン
「ごめんなさい~。僕、お仕事とプライベートは分けてるんです。僕に会いたくなったらここに来てください」
パリン
「そっかあ。残念だなあ。せめてこの店の中では一番になれるよう、圭吾くんにたくさんカクテル作ってもらうね」
パリン
「やった。ありがとう磯崎さん!」
パリン
「ちょっと!あんたたちいい加減にしてよ!うちのグラス何脚割れば気が済むんだい?!」
「す!すみません!スルト様、エドガー様、もう少し握力を緩めてください…」
「ははは。そんなことできると思うか?この状況で?」
「できないね。断じてできない」
「…では、お酒を頼むのをやめて軽食を頼みましょう…」
「圭吾くんどうしたんだい?すごい汗だけど…」
「あっ、いやー、ちょっと暑くないですかここ?!あーなんだか暑いなあ」
完全にやばい。絶対的にやばい。どうしよう。っていうかなんで磯崎さんは平気なわけ?隣にいる二人、こんなにパリンパリングラス割っててなんで気にも留めないの?ばかなのかな?
磯崎さんはそのあとも3杯カクテルを頼んでくれた。最後の一杯を頼んだ時、カクテルを差し出した僕の手を握って、自分の口元に持っていって手の甲にキスをした。その瞬間スルトとエドガーがガタンと音を立てて立ち上がった。
「ひぇっ…」
「スルト様!エドガー様!お、落ち着いてください!!」
「これが落ち着いていられるか?」
「落ち着いていられるわけがない」
「おやおや、どうしたんだい君たち。先ほどから騒がしいね」
やめてえええええ。磯崎さん、こいつらに絡まないでええええ。
「あっ!失礼しました!スルト様!エドガー様!お願いしますから…」
「君たちも圭吾くんのお客さんかな?悪いね。今は私との時間なんだ。あと一杯飲んだら帰るから、それまで大人しくしていてくれないかい?」
「はい!ごゆっくりなさってください!」
ピーターは磯崎さんを無言で威嚇しているスルトとエドガーを必死に抑えてペコペコと頭を下げた。ピーター…ありがとう…おつかれ…。
磯崎さんは最後のカクテルを飲み終え、僕に手を振りながら店を出て行った。笑顔で手を振っていた僕は、ドアが閉まった瞬間死んだ魚の目になる。気まずすぎるこの空間から抜け出したい。僕は3人の顔を直視できず、頑なにちがう方向を見ていた。スルトとエドガーも僕の方を見ない。この沈黙、余計こわいよ…。
おいいいいいピーター???なんで???さっき電話したばっかりじゃん??半年どころか3時間もってないじゃん!!!
「いらっしゃい!あら初めて見る顔ね。ご指名はある?」
「…特にない」
ママがスルト、エドガー、ピーターに駆け寄って店内へ案内した。よりにもよって磯崎さんの隣に。痛いほど視線を感じる。雰囲気で分かる。すごく怒ってる。僕は咄嗟に目を逸らした。
「圭吾くん?どうしたんだい?」
「あっ!いえ、なんでもないです。ごめんなさい」
「いいんだよ。次は何を飲もうかなあ」
「おい、ここはどんな店なんだ?」
スルトがママにそう尋ねたのが聞こえた。ママは「知らずに来ちゃったの~?もう~」と言いながらスルトの肩を叩いた。
「ここはバーテンダーを指名できるバーよ。指名したバーテンダーを、お酒を飲んでいる間はひとりじめできるの。好みのバーテンダーとお喋りを楽しんでねえ」
そう、ここはいわゆるボーイズバーだ。カウンター越しにしか接客しないから、Ωの僕でも襲われることはない。それになにより時給がいい。時給に上乗せして客に飲ませた分だけインセンティブももらえちゃう。まだ働き始めて数か月だけど、僕の容姿と匂いに夢中になってる常連客も結構できた。磯崎さんもその一人だ。
「圭吾くん。次はブルー・ラグーンを作ってくれる?圭吾くんにも同じものを」
「分かりました」
カクテルを作る僕を、磯崎さん、スルト、エドガー、ピーターが凝視しているのを感じる。気が散るし…冷や汗やばい…僕、ころされちゃうのかなあ。
「お待たせしました」
「ありがとう」
磯崎さんは、僕がお酒をテーブルに置くとき決まって僕の手を握る。まあそうだよね。カウンター越しじゃこのタイミングでしか僕に触れられないんだから。
隣でパリンと音が鳴った。驚いて目を向けると、スルトとエドガーが握っていたコリンズグラスが粉々になっていた。ひええええええ。握り割っちゃったの…?ひょええええ…。こえええ…。
「あらあら!怪我はなあい?大丈夫?」
「大丈夫です」
歯を食いしばってエドガーが答えている。こ、こわい…。
「圭吾くん?」
「あっ!ああ、ごめんなさい。ぼーっとしちゃって」
「もう。僕といるときに他のこと考えちゃダメじゃないか」
パリン
「あはは。ごめんなさい」
「ところでずっと思ってたんだけど、圭吾くん、お酒強いね?Ωなのに」
「ええ。僕けっこうお酒強いんですよ~」
「そうなんだ。残念。酔い潰して家まで送ろうかと思ってたのに」
パリン
「あはは、もう磯崎さんてば。やめてくださいよ~」
「結構本気なんだけどなあ。…ねえ、圭吾くん、そろそろ連絡先教えてくれてもいいんじゃない?プライベートでも仲良くしようよ」
パリン
「ごめんなさい~。僕、お仕事とプライベートは分けてるんです。僕に会いたくなったらここに来てください」
パリン
「そっかあ。残念だなあ。せめてこの店の中では一番になれるよう、圭吾くんにたくさんカクテル作ってもらうね」
パリン
「やった。ありがとう磯崎さん!」
パリン
「ちょっと!あんたたちいい加減にしてよ!うちのグラス何脚割れば気が済むんだい?!」
「す!すみません!スルト様、エドガー様、もう少し握力を緩めてください…」
「ははは。そんなことできると思うか?この状況で?」
「できないね。断じてできない」
「…では、お酒を頼むのをやめて軽食を頼みましょう…」
「圭吾くんどうしたんだい?すごい汗だけど…」
「あっ、いやー、ちょっと暑くないですかここ?!あーなんだか暑いなあ」
完全にやばい。絶対的にやばい。どうしよう。っていうかなんで磯崎さんは平気なわけ?隣にいる二人、こんなにパリンパリングラス割っててなんで気にも留めないの?ばかなのかな?
磯崎さんはそのあとも3杯カクテルを頼んでくれた。最後の一杯を頼んだ時、カクテルを差し出した僕の手を握って、自分の口元に持っていって手の甲にキスをした。その瞬間スルトとエドガーがガタンと音を立てて立ち上がった。
「ひぇっ…」
「スルト様!エドガー様!お、落ち着いてください!!」
「これが落ち着いていられるか?」
「落ち着いていられるわけがない」
「おやおや、どうしたんだい君たち。先ほどから騒がしいね」
やめてえええええ。磯崎さん、こいつらに絡まないでええええ。
「あっ!失礼しました!スルト様!エドガー様!お願いしますから…」
「君たちも圭吾くんのお客さんかな?悪いね。今は私との時間なんだ。あと一杯飲んだら帰るから、それまで大人しくしていてくれないかい?」
「はい!ごゆっくりなさってください!」
ピーターは磯崎さんを無言で威嚇しているスルトとエドガーを必死に抑えてペコペコと頭を下げた。ピーター…ありがとう…おつかれ…。
磯崎さんは最後のカクテルを飲み終え、僕に手を振りながら店を出て行った。笑顔で手を振っていた僕は、ドアが閉まった瞬間死んだ魚の目になる。気まずすぎるこの空間から抜け出したい。僕は3人の顔を直視できず、頑なにちがう方向を見ていた。スルトとエドガーも僕の方を見ない。この沈黙、余計こわいよ…。
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