【完結】【R18BL】極上オメガ、いろいろあるけどなんだかんだで毎日楽しく過ごしてます

ちゃっぷす

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「……ん、高戸くん」
「……はっ……!」

 KT会社の藤ヶ谷社長に呼びかけられ、僕はビクッと我に返った。
 いけない。商談中だったのに、ボーッとしてしまっていた。
 確か、社長に質問されたり、重要事項を説明したりしてから、無事契約をしてもらったんだっけ。
 いけないいけない。せっかく契約をもらったのに、最後にぼんやりしていたら信用を無くしちゃうよ。

 僕は慌てて笑顔を作り、テーブルに広げた書類を鞄にしまった。

「社長、この度はありがとうございます」

 少し心配そうに僕の様子をうかがっていた社長が、にっこりと笑みを向ける。

「こちらこそありがとう。高戸くんの説明はすごく丁寧で助かるよ。また君にお願いしたい」
「そう言っていただけると嬉しいです。ぜひ、僕でよければ」

 社長秘書の僕がなぜ営業まがいのことをしているのかというと、それにはいろいろワケがある。
 KT会社の営業担当は、本当はスルトだ。でも、この前スルトがアポ当日にひどく体調を崩しちゃって。
 それで代理の営業を立てたんだけど、その営業がやらかしちゃって。そのせいで社長がブチ切れた。

 営業部長の謝罪でも社長の気がおさまらなくて、それでうちのジョセフ社長の元に話が来たんだよね。で、ジョセフ社長が謝りに行くって申し出たんだけど、藤ヶ谷社長は「さすがにそこまでではない」って断った。
 でも、せめてもの気持ちとして、僕がお詫びの品を持っていたのがはじまり。

 藤ヶ谷社長は僕のことを気に入ってくれていたから、怒りなんてどこかに吹き飛んでいったみたい。社長室で茶菓子をいただきながら雑談しただけで、社長はニッコニコだった。

 でも、営業部署に対しては信用度がガタ落ちになっちゃったみたいで、「これからは高戸くん(僕ね)に来てほしい」って依頼されたんだ。
 KT会社は大きな取引先だし、今回やらかしたのはうちの会社の方だから、ジョセフ社長も渋々頷いた。

 そんな流れで、僕がKT会社の営業担当になったってわけ。

 僕が一人っきりでおっさんのところに行ったら、だいたいは犯される。
 でも、藤ヶ谷社長はそんなことはしなかった。ただ僕の説明を聞いて、納得出来たら契約をしてくれる。ただそれだけの、健全な関係を築けていた。

 僕はそれが嬉しかった。こんなことはじめてだ。スルトやエドガーもびっくりしていたし、僕があんまり嬉しそうにしていたから、応援までしてくれた。

 藤ヶ谷社長は、僕に数字を上げさせてあげたいと思ってくれているようだった。

「他になにか、私にすすめられるものがあったらいつでも提案してね」
「ほんとですかっ。実はあるんです」
「ほう! だったらもう日時を決めておこうか。私が空いているのは、金曜の――」

 会社を出たとき、空はもう暗くなっていた。げ。思っていたより時間が過ぎていたみたいだ。まあ、説明に時間もかかったし、雑談もいっぱいしたし、しょうがないか。

 あー。楽しい。営業ってこんなに楽しかったんだ。
 おっさんたちがみんな藤ヶ谷社長みたいな人ばかりだったら、営業に異動してみたかったなあ。

 ◇◇◇

 金曜日――

 予定の時間より三十分遅れて、藤ヶ谷社長が社長室に戻ってきた。
 出された茶菓子をむしゃむしゃ食べていた僕は、慌てて立ち上がる。

「高戸くん、お待たせしたね」
「いえ。コーヒーとお菓子、いただいてました」
「お口に合うかな?」
「はい、とっても美味しいです!」

 KT会社は、出してくれる茶菓子がいつも美味しい。社長は僕がむしゃむしゃしているところを見るのが好きみたいで、ハムスターを愛でるみたいに僕を眺めている。商談の前にはいつも、こうして雑談しながら茶菓子を貪る時間が用意されていた。

 あー、美味しい。こんなに食べたら太っちゃうけど、まあいっか。
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