22 / 24
新入社員
しおりを挟むその場にいるほとんど全員が慣れないスーツに身を包んで立っている中、俺は着慣れたスーツを着てそこに立っていた。
入社式が終わったら社員研修。
これはどこの会社も同じだと思うのだが、俺はその社員研修をちょっと不思議な気持ちで受けている。
というのも、研修の内容については新しいことばかりだが、研修の場所はほとんどが1度は訪れたことのある場所だからだ。
かといって、あまり目立ちたくないので、全員が案内図を見て歩き出してから着いて行く。
同期の中には俺のように契約社員から上った者は一人もいないし、それに研修後の配属先がすでに決まっているものもいない。
まぁ、当たり前だ。俺が特殊なだけだし、それだって、たまたま峰岸さんという知り合いがいたからというだけだ。
仕事には慣れてはいるが、能力に大差はないと思う。
だから、油断なんて少しもない。むしろ周りの同期より、気を引き締めていないと。
周りの同期は、学生時代の名残なのか、一緒に行動したり話したりしているが、俺はあまり参加しないようにしていた。
学生時代は、同級生とは長くても4年間一緒にいれば離れることになる。
でも会社員ともなればそうもいかない。基本的には終わりなく一緒に働くことになる。
仲が良いうちはいいかもしれないが、距離が近づけばそれだけお互いの嫌な部分も見ることになる。
それでも一緒に働かなければいけないのだから、最初から一定の距離を保っていた方がいい。
これが、学生半分会社員半分だった俺の出した結論だった。
全員での新入社員研修は1週間ほどで終わり、その後は何人かのグループに分かれて各部署での研修に入った。
大きく分けて4つある部署の研修をそれぞれ1週間ずつ受けるので、全部で1ヶ月になる。
既に配属の決まっている俺は、編集部の研修が最後になっていた。
研修についても、俺は少しも手を抜かなかった。というのも、もう配属が決まっているので他部署に関われるのはこれが最初で最後だと思っていたからだ。
とまぁ、仕事に関してはこんな感じだ。至って順調。今まで通りだ。
仕事を終えたら家に帰る。学生の頃から住んでいる部屋だ。会社からも近い。
研修期間だけは、編集部の仕事を免除してもらっているので、むしろ学生時代よりも時間がある。w
それに、研修期間中は土日休みなので、スケジュールも立てやすい。
今週は金曜日から週末の間だけさぎりが泊まりに来ることになっている。
この状態ならいつでも同棲が開始できそうだ。
俺としてはそんなに同棲や結婚をそんなに遠い未来として考えていないので、今から少しずつ準備を進めようと思っている。
具体的には、半年後、同棲を始めるタイミングでプロポーズをして、更に半年後に入籍。
結婚式や披露宴については、結婚を決めてから考えてもいいと思っている。
となると、俺1人で進められるのは、婚約指輪だけだ。
これは、少し特別な物を用意したい。いわゆる「一点物」だな。
一生に一度の事だし、高級であることよりも、世界でただ一つの物を渡したい。
そりゃそうだよな。唯一無二の相手なんだから。
これまでにも少し調べてみたのだが、俺が求めるようなものは都内まで行かないとダメそうだ。
研修が終わるとさぎりとも休みを合わせなければ会えなくなって行くので、指輪に関しての下見や打ち合わせは研修後に回して、今はなるべく2人の時間を取ろう。
お互いに今は大事な時期だ。
お互いの立場や生活を尊重しながら、時間を共有していくということ。
ベタベタに依存するのが大好きだったころとは、考え方もずいぶん変わったな。
これが、大人になるって事なんだろうか?
0
あなたにおすすめの小説
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる