婚約破棄された侯爵令嬢ですが、これからは盗賊として立派に生きていきます!

かみき

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助けてくれた男の正体

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シャルロッテ逃亡の知らせを受けた関所では、彼女と似通った背格好の女性は念入りに確認され、馬車や荷車は人が隠れていないか細部に至るまで調べられていた。
該当しない者も、似顔絵を見せられて道中でシャルロッテを見かけなかったかしつこく聞き取りをされている。
そこに、馬に乗った人当たりの良さそうな男性と、彼の従者らしい徒歩の少年が通りかかった。
「待て! そこの二人連れ、名前と職業を述べろ!」
居丈高に怒鳴られても男性はニコニコと笑顔を絶やさず、言われた通りに質問に答える。
「わたくしはガイツ・リューグナー、宝飾品を扱う商人です。こいつは従者のペーター」
「ガイツ・リューグナーか。何度かこの関所を通った記録があるな」
兵士はそこで言葉を切ると、意味ありげな目つきで二人を見つめた。
リューグナーは慣れた様子で兵士の手に金貨をたっぷりと握らせ、兵士も何食わぬ顔で受け取る。
互いに知らぬふりをしているが、彼らが賄賂のやり取りの常習犯であることはペーター、もとい少年に変装したシャルロッテにもうかがい知れた。

『まず、貴方様には従者の少年に変装していただきます』
突然現れて助力を申し出た男、リューグナーはそう言うと、持っていた荷物からインクとさらし、革手袋を取り出した。
一見単純な作戦だが、予期せぬ事態で夜に王宮を脱出し、夜明けの関所まで一直線に駆けてきたシャルロッテが変装して尚且つ二人連れになっているとは予想がつかないだろう、というのが彼の主張であった。
銀の髪をインクで黒く染め、胸にさらしを巻いて目立たぬようにし、従者には不似合いな手の白さで怪しまれぬよう革手袋をはめる。
『では、ドレスからこちらにお召し替えを』
少しの間、場を離れていたリューグナーが戻ってきて、上等そうな少年の服を差し出す。
これはどうしたのかと問うシャルロッテに、リューグナーは悪戯っぽくウィンクした。
『なあに、近くの村の子どもに小遣い銭をやって買い取ってきたのですよ』
かくして、男性商人と少年従者の二人組が誕生したというわけだ。
着替えが終わったところで、流石にドレスや帯剣はかさばるし、見つかると言い訳がきかないので、ここに置いていくしかない、とリューグナーは申し訳なさそうに告げた。
構いません、とシャルロッテが答えると、彼は眉を下げて微笑んだ。
『貴方様は、御父上によく似ておられますな』
宝飾品商人として駆け出しだった頃から幾度となくお世話になったものです、と話しながら、シャルロッテが乗ってきた馬によじのぼる。
『では、参りましょう』

そんなこんなで、二人は拍子抜けするぐらいあっさりと関所を通り抜けることが出来た。
街道に出ると、心地良い風が吹きつけてくる。
「いやあ、ここまで上手くいくとは思いませんでしたな」
トコトコと馬を進めながら、リューグナーは傍らを歩くシャルロッテに上機嫌に話しかけた。
念のため、関所を出てもしばらくは変装したままで行こうということになっている。
「賄賂を掴ませておくと、何かと融通が利くのですよ」
これまでも、順番を飛ばして早く通してもらったり、今日のようにお尋ね者が出た場合でも聞き取りを免除してもらったりしていたそうだ。
リューグナーの話を聞きながら、シャルロッテは関所内の光景を思い返す。
お尋ね者の似顔絵がずらりと並べて貼ってあり、中にはなかなか捕まらなくて、高額な賞金がかけられているのもあった。
シャルロッテの似顔絵はまだそこには無いが、このままずっと逃げ続けていたら、いつかはあそこに貼られることになるのだろうか。
いや、それよりも、その前に。
「少しお訊きしたいことがありますわ」
唐突に口を開いたシャルロッテに、リューグナーは目をぱちくりさせた。
「はて、何でしょう?」
「私の実家、オツェアン侯爵家に世話になったという話ですが、あれは嘘ですわね」
思いがけぬシャルロッテの言葉に、馬上の宝飾品商人は困ったような笑みを浮かべる。
「貴方様はご存じないかもしれませんが、わたくしは確かに……」
「当家は専属の宝飾職人を抱えております。 宝飾品は彼らに一から作らせますので、商人から買うことは基本的に無いのです」
それに、とシャルロッテは続けた。
「宝飾品の商人の方が、随分と手際よく少年に変装する小道具を揃えられたこと」
この指摘に、リューグナーの笑みに僅かにひびが入る。
あの時、彼は先ずインクと革手袋とさらしを手渡し、その後、近所の村の子どもから買い取ったと言って少年の衣服を持ってきた。
インクと革手袋はわかる。だが、宝飾品商人がさらしを持ち歩いているか?
それに、宝飾品商人の従者と名乗っても差し支えない上等そうな衣服を、近所の村の子どもが持っているか?
シャルロッテは父について侯爵家の領地を見回ったことがあるが、村の子どもがそんな衣服を着ているのを見たことは一度も無かった。
「あの兵士の方だって、私がシャルロッテ・フォン・オツェアンだと知った上でわざと見逃したのでしょう?」
順番飛ばしや聞き取り免除の程度で、毎回毎回あれだけの金貨を渡していては割に合ったものではない。
おそらく、普段はせいぜい銀貨一枚といったところだろう。
だが、追われているシャルロッテを見逃すということになれば、話は変わってくる。
追及されたリューグナーはしばらく黙り込んでいたが、やがて狂ったように笑い始めた。
「理屈に穴はあるが、まぁそこまで疑われてるんならもう隠すことも無いやな」
口調が打って変わって雑になり、人当たりの良さそうな笑みが消えて狡猾そうな表情になる。
「いかにも、俺は侯爵家とは全く無関係な人間さ」
いつの間にか、二人は街道でも人気の少ないところに差し掛かっていた。
……と、近くの林の中から柄の悪そうな男達がぞろぞろと出てきて二人を取り囲む。
「おう、遅かったじゃねぇか」
「悪い悪い、思いがけねぇ上玉が見つかったんでな」
おかげで手間取っちまった、とリューグナーは肩をすくめる。
「まぁ、こういうわけさ、お姫様」
種明かしを楽しむように、彼はニヤリと笑った。

「俺達は、盗賊だよ」
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