婚約破棄された侯爵令嬢ですが、これからは盗賊として立派に生きていきます!

かみき

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盗賊のアジト

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盗賊。リューグナーは確かにそう言った。
だが、今のシャルロッテは追われる身であり、銅貨一枚すら持っていない。
価値のありそうな剣やドレスは置いてきてしまったし、あんな回りくどい芝居を打って、関所の兵士に多額の賄賂を渡してまで攫おうとする理由がわからない。
あの後、街道を逸れ、盗賊達のアジトに連れて来られたシャルロッテは、取り敢えず成り行きを静観することにした。
寂れた宿屋のような内装だが、床に武器や酒瓶が転がっていたり、机の上に何処かから盗んだと思しき金貨の袋が積まれていたり、治安が悪いことこの上ない。
「まぁそう怯えるなよ、殺されるわけじゃないんだから」
これは彼らなりのジョークらしく、場がドッと沸いたが、シャルロッテには特に面白さがわからなかった。
盗賊達の目には、大人しくしている彼女が、攫われて怯えているように映っているらしい。
まぁ、侯爵令嬢が盗賊のアジトで大勢の男達に囲まれているとなれば、100人中99人はそう思うだろうが。
「あんた、何で自分が目ぇつけられたのか皆目わかりませんって顔してるな」
今や最初の慇懃さが全て消え去ったリューグナーがせせら笑う。
「関所の周りで張ってるとな、あんたみたいな訳ありの世間知らずが釣れるんだよ」
家出や駆け落ちで関所付近まで来たものの、通り方がわからなくておろおろしている良家の人々を親切ごかして手助けし、人気の少ないところで囲んでアジトに連れ去るという寸法だ。
成程それで、変装用の小道具がすぐに用意できて、兵士との賄賂のやりとりも手慣れているのか、とシャルロッテは腑に落ちた。
「金目のものはたんまり持ってるし、身代金はがっぽりだし、あの悪徳兵士に賄賂を払ってもお釣りが来るわな」
高笑いするリューグナーは、そこでシャルロッテの疑問を察したらしい。
ひらひらと手を振って、付け加えた。
「あんたはちょっと事情が違うがな。俺達があんたに期待してるのは、今後かけられる賞金さ」
公衆の面前で帯刀を奪われて斬りつけられた上、逃げられたままでは王子の威信に関わる。
今はただ捕まえろとの命令だが、なかなか見つからなければそのうち高額の賞金がかけられるだろう。それまで待つのが賢いやり方だ、とリューグナーは嘯いた。
「他の兵士どもと違って、賄賂を受け取る奴はそこらへんをしっかり理解してるのさ。少ない給料でクソ真面目に任務を果たすよりも、ちょいと融通を利かせて分け前にあずかる方が利口だってな」
ここだよ、ここ、と頭を指さして彼は自慢げにふんぞり返る。
「それに、あんたの親父だって、何だかんだで密かに娘を探しにやるだろうよ。そうなりゃ、上手くすればとんでもねぇ額の身代金が手に入るってわけだ」
父に限ってそれはない、とシャルロッテは思ったが口には出さなかった。
「ま、それまであんたにはここに居てもらうことになる。……おい、ババァ!」
リューグナーが怒鳴ると、奥の扉が開いて、小柄な老婆が怯えたように顔を出した。
「今回の人質だ。いつも通り面倒を見ろ。逃がしたりしたらぶっ殺すからな」
「は、はい」
老婆は小さな身体をさらに縮こまらせ、蚊の鳴くような声で答えた。
「よし、そのババァについていきな」
リューグナーはそれだけ言うと、シャルロッテの背中を突き飛ばして老婆の方に押しやった。

老婆に連れられて軋む階段をのぼり、シャルロッテは二階の殺風景な部屋に案内される。
人質用の部屋らしく、室内にあるのは固いベッドのみで、窓には板が打ち付けられて塞がれていた。
「あの……」
「な、何でしょう」
立ち去ろうとした老婆に声をかけると、老婆は目に見えてビクリと震える。
「貴方もここに連れて来られた方ですの?」
先程からどう見ても、喜んで盗賊達に協力しているようには思えない。
シャルロッテの質問に、老婆は硬直し、次いでわなわなと震えだす。
皴に埋もれた小さな瞳に、みるみる涙が溢れ出した。
「私は連れて来られたのではありません」
悲痛な声が老婆の喉から絞り出される。
「ここは元々、私と主人が営む宿屋でした」
寂れた宿屋みたいだと思ったが、本当に宿屋だったのか。
ということは、主人が亡くなった後に騙されて盗賊達に乗っ取られたのかとシャルロッテは思ったが、老婆の口から告げられた事実は、シャルロッテの想像より尚悪いものだった。
「主人はあの盗賊達に殺されました」
そう言うと、老婆はエプロンを持ち上げて顔を埋め、声を殺して泣き始めた。
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