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弱肉強食
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一階からは、王子からの賞金をとるか、侯爵家からの身代金をとるか、いやいや上手く立ち回って両方せしめる方法は無いか、はしゃいだ盗賊達の皮算用が漏れ聞こえてくる。
一方の二階では、声を殺して泣く老婆と、無言のシャルロッテが狭い部屋で向かい合っていた。
リューグナーのやり口からして、ちまちま人を騙すようなせこい真似しか出来ない連中かと思っていたが、殺しも普通に選択肢にあるとは。
「半年ほど前、突然、大勢のお客さんが泊まりに来たんです」
うちのような小さな宿屋にこんなにお客さんが来るなんて、と老婆と夫は驚き、且つ喜んだ。
だが、それは宿泊客を装ったリューグナー達であった。
アジトを探していた彼らは、街道から逸れて目立たぬところにある宿屋に目をつけ、乗っ取りを計画していたのである。
夜半、老婆と夫は、隠し持っていた短剣を手に正体を現した盗賊達に囲まれた。
恐怖に震える二人に、盗賊達はこの宿屋は我々が乗っ取ると宣言した。
その夜から始まる、地獄のような日々。
盗賊達の雑用係としてこき使われ、時には暴力も振るわれた。
運悪く立ち寄った旅人を騙して泊まらせる役、シャルロッテのように連れて来られた人質の見張り。
泊まった旅人や、身代金の支払いを拒否された人質は、年頃の女性だと娼館に売られ、それ以外は容赦なく殺された。
そういった死体の片づけも老婆達に押しつけられたという。
「夫は隙を見て逃げ出し、関所の兵士に助けを求めに行ったんです。それが……」
何とか関所に辿り着き、助けを求めた夫に対応したのは、よりによって盗賊達と賄賂でズブズブの兵士だった。
すぐに助けるという兵士の言葉を信じた夫を待っていたのは、事情を知らされた盗賊達による残忍な報復。
連れ戻され、取り囲まれて殴る蹴るの暴行を受けた夫は、見るも無残な姿になって息を引き取った。
『お前も逃げようとしたらこうなるんだぞ』
泣きながら変わり果てた夫に取り縋る老婆に、リューグナーはそう吐き捨てたという。
その時のことを思い出したのか、老婆は恐ろしそうに身体を震わせた。
「あの時、もしも違う兵士に助けを求めていたら……」
「それはねぇよ」
いつの間にか、階下に居るはずのリューグナーが部屋の入口に立っていた。
老婆が戻ってこないので、不審に思って見に来たのだろうか。
リューグナーは大股で部屋に入ってくると、容赦なく老婆を平手打ちした。
呻き声をあげて床に倒れた老婆に目もくれず、彼はシャルロッテに命令した。
「俺の指示通りの文面で実家に手紙を書け。王子の賞金がかかるまで、侯爵家がどのぐらい身代金に応じるか探りを入れておきたい」
そう言って、ペンとインク壺、便箋を差し出す。
逆らわずに受け取ったシャルロッテは、鋭利なペン先を少し見つめると、質問した。
「違う兵士に助けを求めていたら、が、どうして無いことになりますの?」
「あ?」
リューグナーは一瞬訳が分からないという顔をしたが、すぐに先程の老婆のことだと気づいたらしい。
「そりゃあんた、関所の兵士の仕事は何だ? 貧乏宿屋の爺さん婆さんを盗賊から助けることか? 違うだろ?」
リューグナーは耳の穴に小指を突っ込み、至極つまらなさそうに答えた。
「奴らの仕事は関所を通ろうとする連中を締め上げることだ。それ以外のことは、奴らにとっちゃどうでも良いことなのさ」
違う兵士にあたったら体良く追い払われてただろうよ、と言うと、小指を引き抜いて耳垢をふっと吹き飛ばす。
「それとも何か? か弱い老人が助けを求めたら、正義に燃える兵士様が関所の仕事をおっ放り出してまで助けてくれるとでも?」
嘲るような言葉に、床に蹲っていた老婆は唇を噛みしめて俯く。
「世の中な、弱い奴がどうなろうと誰も知ったこっちゃないのさ」
「まぁ、それはそうですわね」
予想外にあっさりと答えたシャルロッテに、リューグナーはやや意外そうな顔をする。
「ああ、そういやあんたも身分って意味では強者側だもんな、こんな貧乏人のババァなんざゴミ同然か」
納得したように頷くリューグナーの前でシャルロッテはペンをくるりと回して握りこむと、何の躊躇もなく彼の右目に突き込んだ。
「ッ……ぎゃあああああ!!」
凄まじい悲鳴をあげてリューグナーは目を押さえ、二、三歩うしろへよろめいた。
機を逃さず、シャルロッテはするりと彼の横をすり抜けて、部屋の外へと飛び出す。
「おい、何なんだ、今のは……」
悲鳴を聞きつけて二階へやってきた盗賊の顔面に、手に持っていたインク壺の中身をぶちまける。
「うわっ!!?」
「あら、一階まで降りなくても良さそうですわね」
思わず尻餅をついた盗賊が取り落とした短剣を素早く拾って検分すると、シャルロッテはそうひとりごちた。
一方の二階では、声を殺して泣く老婆と、無言のシャルロッテが狭い部屋で向かい合っていた。
リューグナーのやり口からして、ちまちま人を騙すようなせこい真似しか出来ない連中かと思っていたが、殺しも普通に選択肢にあるとは。
「半年ほど前、突然、大勢のお客さんが泊まりに来たんです」
うちのような小さな宿屋にこんなにお客さんが来るなんて、と老婆と夫は驚き、且つ喜んだ。
だが、それは宿泊客を装ったリューグナー達であった。
アジトを探していた彼らは、街道から逸れて目立たぬところにある宿屋に目をつけ、乗っ取りを計画していたのである。
夜半、老婆と夫は、隠し持っていた短剣を手に正体を現した盗賊達に囲まれた。
恐怖に震える二人に、盗賊達はこの宿屋は我々が乗っ取ると宣言した。
その夜から始まる、地獄のような日々。
盗賊達の雑用係としてこき使われ、時には暴力も振るわれた。
運悪く立ち寄った旅人を騙して泊まらせる役、シャルロッテのように連れて来られた人質の見張り。
泊まった旅人や、身代金の支払いを拒否された人質は、年頃の女性だと娼館に売られ、それ以外は容赦なく殺された。
そういった死体の片づけも老婆達に押しつけられたという。
「夫は隙を見て逃げ出し、関所の兵士に助けを求めに行ったんです。それが……」
何とか関所に辿り着き、助けを求めた夫に対応したのは、よりによって盗賊達と賄賂でズブズブの兵士だった。
すぐに助けるという兵士の言葉を信じた夫を待っていたのは、事情を知らされた盗賊達による残忍な報復。
連れ戻され、取り囲まれて殴る蹴るの暴行を受けた夫は、見るも無残な姿になって息を引き取った。
『お前も逃げようとしたらこうなるんだぞ』
泣きながら変わり果てた夫に取り縋る老婆に、リューグナーはそう吐き捨てたという。
その時のことを思い出したのか、老婆は恐ろしそうに身体を震わせた。
「あの時、もしも違う兵士に助けを求めていたら……」
「それはねぇよ」
いつの間にか、階下に居るはずのリューグナーが部屋の入口に立っていた。
老婆が戻ってこないので、不審に思って見に来たのだろうか。
リューグナーは大股で部屋に入ってくると、容赦なく老婆を平手打ちした。
呻き声をあげて床に倒れた老婆に目もくれず、彼はシャルロッテに命令した。
「俺の指示通りの文面で実家に手紙を書け。王子の賞金がかかるまで、侯爵家がどのぐらい身代金に応じるか探りを入れておきたい」
そう言って、ペンとインク壺、便箋を差し出す。
逆らわずに受け取ったシャルロッテは、鋭利なペン先を少し見つめると、質問した。
「違う兵士に助けを求めていたら、が、どうして無いことになりますの?」
「あ?」
リューグナーは一瞬訳が分からないという顔をしたが、すぐに先程の老婆のことだと気づいたらしい。
「そりゃあんた、関所の兵士の仕事は何だ? 貧乏宿屋の爺さん婆さんを盗賊から助けることか? 違うだろ?」
リューグナーは耳の穴に小指を突っ込み、至極つまらなさそうに答えた。
「奴らの仕事は関所を通ろうとする連中を締め上げることだ。それ以外のことは、奴らにとっちゃどうでも良いことなのさ」
違う兵士にあたったら体良く追い払われてただろうよ、と言うと、小指を引き抜いて耳垢をふっと吹き飛ばす。
「それとも何か? か弱い老人が助けを求めたら、正義に燃える兵士様が関所の仕事をおっ放り出してまで助けてくれるとでも?」
嘲るような言葉に、床に蹲っていた老婆は唇を噛みしめて俯く。
「世の中な、弱い奴がどうなろうと誰も知ったこっちゃないのさ」
「まぁ、それはそうですわね」
予想外にあっさりと答えたシャルロッテに、リューグナーはやや意外そうな顔をする。
「ああ、そういやあんたも身分って意味では強者側だもんな、こんな貧乏人のババァなんざゴミ同然か」
納得したように頷くリューグナーの前でシャルロッテはペンをくるりと回して握りこむと、何の躊躇もなく彼の右目に突き込んだ。
「ッ……ぎゃあああああ!!」
凄まじい悲鳴をあげてリューグナーは目を押さえ、二、三歩うしろへよろめいた。
機を逃さず、シャルロッテはするりと彼の横をすり抜けて、部屋の外へと飛び出す。
「おい、何なんだ、今のは……」
悲鳴を聞きつけて二階へやってきた盗賊の顔面に、手に持っていたインク壺の中身をぶちまける。
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