10 / 20
峠までの幕間
しおりを挟む
チェルシーがシャルロッテに向かって心の中で呼びかけていたその頃、偶然にも馬上のシャルロッテもチェルシーのことを考えていた。
婚約破棄されてから何だかんだあったがようやく一通り落ち着き、逃げる以外のことを考える余裕が出てきたからである。
シャルロッテにとってチェルシーは、それなりに憎からず思っている異母妹であった。
ただ、シャルロッテは感情が顔に出にくく、下の子の可愛がり方もわからなかったため、おそらくチェルシーに気持ちは伝わっていないだろうとは思っている。
だとしても、婚約者を奪ってやろうとなる程に恨まれているとは思えなかったが。
この件に関しては、負の感情よりも不思議だという気持ちの方がどうしても先に立つ。
侯爵令嬢として育ち、地位にふさわしい思慮と責任感を備えていたシャルロッテに、チェルシーの甘々な思考回路を読み取ることは不可能だった。
ただ、夜会でもきょろきょろと辺りを見回していたし、何が何だかよくわかっていないのではないかということだけは何となく察せられた。
(ということは、やはり二人は恋仲だったのでしょうか……?)
恋愛に疎いシャルロッテは首を傾げ、ふむ、と一応は納得することにした。
流石にチェルシーがドゥム王子に暴力を振るわれている状況までは彼女の想像の外だった。
恋人であり、今や侯爵令嬢の身分を得たチェルシーに危害を加えることはあるまい、と思っていたのである。
知らぬこととはいえ、それは大きな誤りだったのだが。
次いで彼女はこの国の地図を思い浮かべ、どこに向かうべきか考えを巡らせた。
鳥を使った連絡は、おそらく既に辺境貴族にも届いているだろう。
となると、彼らの領地に入れば見咎められる。
ならば、領地の境にある人通りの少ない峠あたりに潜伏するか、と彼女は結論を出した。
しかしあくまでシャルロッテが知っているのは地理上の知識のみ。
その地帯には盗賊がうようよと跋扈し、周辺の領主たる辺境貴族達も手を焼いていることまでは地図には載っていない。
加えて、人目を避けて宿屋等は避けてきたため、口頭での情報が入ってくる機会も無かった。
果たして峠の近くまで来た時、シャルロッテが乗った馬の前に、こちらも馬に乗った盗賊達が立ち塞がった。
先頃に遭遇したリューグナー達が貧相に見えるぐらい、全員が凶悪な出で立ちをしており、人数も多い。
「よう、にいちゃん、殺されたくなきゃ大人しく馬から下りな」
シャルロッテの服装を見て男だと思ったらしい盗賊は、剣を突きつけて命令する。
だが勿論、彼女は馬から下りる気などさらさら無かった。
代わりに静かに剣の柄に手を掛ける。
シャルロッテの昏い蒼色の瞳が、ギラリと物騒な光を帯びた。
婚約破棄されてから何だかんだあったがようやく一通り落ち着き、逃げる以外のことを考える余裕が出てきたからである。
シャルロッテにとってチェルシーは、それなりに憎からず思っている異母妹であった。
ただ、シャルロッテは感情が顔に出にくく、下の子の可愛がり方もわからなかったため、おそらくチェルシーに気持ちは伝わっていないだろうとは思っている。
だとしても、婚約者を奪ってやろうとなる程に恨まれているとは思えなかったが。
この件に関しては、負の感情よりも不思議だという気持ちの方がどうしても先に立つ。
侯爵令嬢として育ち、地位にふさわしい思慮と責任感を備えていたシャルロッテに、チェルシーの甘々な思考回路を読み取ることは不可能だった。
ただ、夜会でもきょろきょろと辺りを見回していたし、何が何だかよくわかっていないのではないかということだけは何となく察せられた。
(ということは、やはり二人は恋仲だったのでしょうか……?)
恋愛に疎いシャルロッテは首を傾げ、ふむ、と一応は納得することにした。
流石にチェルシーがドゥム王子に暴力を振るわれている状況までは彼女の想像の外だった。
恋人であり、今や侯爵令嬢の身分を得たチェルシーに危害を加えることはあるまい、と思っていたのである。
知らぬこととはいえ、それは大きな誤りだったのだが。
次いで彼女はこの国の地図を思い浮かべ、どこに向かうべきか考えを巡らせた。
鳥を使った連絡は、おそらく既に辺境貴族にも届いているだろう。
となると、彼らの領地に入れば見咎められる。
ならば、領地の境にある人通りの少ない峠あたりに潜伏するか、と彼女は結論を出した。
しかしあくまでシャルロッテが知っているのは地理上の知識のみ。
その地帯には盗賊がうようよと跋扈し、周辺の領主たる辺境貴族達も手を焼いていることまでは地図には載っていない。
加えて、人目を避けて宿屋等は避けてきたため、口頭での情報が入ってくる機会も無かった。
果たして峠の近くまで来た時、シャルロッテが乗った馬の前に、こちらも馬に乗った盗賊達が立ち塞がった。
先頃に遭遇したリューグナー達が貧相に見えるぐらい、全員が凶悪な出で立ちをしており、人数も多い。
「よう、にいちゃん、殺されたくなきゃ大人しく馬から下りな」
シャルロッテの服装を見て男だと思ったらしい盗賊は、剣を突きつけて命令する。
だが勿論、彼女は馬から下りる気などさらさら無かった。
代わりに静かに剣の柄に手を掛ける。
シャルロッテの昏い蒼色の瞳が、ギラリと物騒な光を帯びた。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる