君の友達になりたかった

茉夜ママ

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二章

名前

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 彼女の正体を知って、僕たちは本当に友達になれた。期間限定とかではなく、永遠に。
その後も一緒におしゃべりをして、一緒に夕焼けを見た。夕日が沈んだら二人とも家に帰った。
 夕食後、ふと思いついて彼女にメールをした。
『そういえば君の名前を聞いていなかった。なんて名前?』
メールの返事は、僕が食後に入浴を終えてからだった。
『そうでしたね!私の名前は大神ウルフです。いかにも狼って感じの名前ですよね(笑)』
今思えば、彼女のメルアドにはwolfの単語の文字が入っている。改めて見ないとわからなかったけど、これだと勘のいい人は気づいてしまうのに。
僕は意外と彼女がぬけている事に微笑ましさを感じた。メールの返事の文章を打つ。
『メアドにwolfって入ってるじゃん笑。なんて呼べばいい?ウルフでいい?ちなみに、僕の名前は鳥田葵だから、葵って呼んで。敬語はもう使わなくていいよ』
『本当ですね!無意識でした・・・。はい、ウルフがいいです!いきなり呼び捨ては恥ずかしいので、葵くんって呼びますね。敬語はなるべく頑張ります!』
何もタメ口になんてなっていないメールが来た。僕は本当に可笑しくなった。
このやり取り、まるで恋人みたいだ。
 僕は想像してみた。僕とウルフが恋人になった時のこと。
きっといつも楽しそうに話しているんだろう。楽しそうに笑っているんだろう。そこはきっと、今と変わらないままだ。
変わることといえば、手を繋いだり、食べさせあったりできる。気軽にデートだってできる。
そのうち、呼び方とかもあだ名とかになっていくんだろうか。
僕達の子どもにも、狼の血が入っているかもしれない。
 僕はそこまで考えて、ふと我に返った。
ウルフは僕のことを好きになってくれるだろうか?
僕はウルフのタイプの男だろうか?
考えたって仕方がない。僕はウルフに恋をしているんだ。ならば頑張ることから始めないと。
話したことのない人じゃないし、もう友達だ。友達から恋人に格上げするだけだ。ヘタレな僕にだって出来ることかもしれないじゃないか。
そうだ。僕の友達に恋愛の達人がいる。そいつに相談してみてはどうだろう。
僕はワクワクして布団に潜り込んだ。



 「は?好きな子ができた?葵に?」
翌日の朝、恋愛の達人という友人、大間蓮に、ウルフの話をした。
彼は、女子と無関係だった僕に好きな人がいることに驚きを隠せていなかった。
朝のガヤガヤした感じが一斉になくなるほどの声だった。
僕は「声が大きい!」と言った。
「え、だって女子の友達一人いないんだぞ?今まで好きなタイプも答えられなかった葵だぞ?急に好きな人ができたって聞いたらそりゃびっくりするだろ」
僕は、まあたしかにと思った。
教室のガヤガヤした感じが戻ってホッとする。
「でも一目惚れとかだってあるわけでしょ?その子、めっちゃめちゃかわいいんだよ」
「顔が好みだったのか?」
「顔が好みと言うよりは綺麗すぎて惹き込まれるんだ。あと話も合う。楽しいんだ。一緒にいて飽きない」
蓮は腕組みしながらニヤニヤした。
「いわゆる『ゾッコン』ってやつだな」
「ゾッコン?」
「好きすぎてその人以外のことを考えられなくなるんだ。でもまあ、程々にしとけよ。恋をしたことがないお前が誰かに夢中になったらちょっと怖いからな」
それは僕でもわかる。恋は時に人をおかしくする。何よりも恋を優先していくと、もっと大事なものを失いかけてしまうことだってあるのだ。
その事は本か何かで読んだことがある。
「なんで僕が恋したことないって思うわけ?」
「勘だ」
僕はガクッとなった。
 「それはそうと、その子は僕のこと、話していて楽しい友達だとしか思っていない。恋をしたことがない僕はその先どうしたらいいのかわからないんだ。蓮ならわかるでしょ?」
彼は僕に質問を重ねた。つまり、今どんな感じなのかを細かく聞くための質問だった。
「その子と出会ってどのくらい?」
「・・・1ヶ月くらいかな・・・あ、話し始めて1ヶ月。存在を知ってるの数えたらもう半年くらい」
「その子といつもどんな話をする?」
「他愛もない話だな・・・。その日何した、とか夕飯何食べた、とか」
「電話やメールは?」
「メールは毎日。電話はお互い都合が良ければだけど、けっこう頻繁だと思う」
蓮は質問しながら、「いい感じじゃん」と言ってきた。僕は嬉しくなって、「本当に!?」と、机から体を乗り出した。
「落ち着けって。とりあえず葵が本気でその子を好きなのはわかった。あと、希望はあると思うぞ。その子が思わせぶりとかしてない限り」
「思わせぶりってどういうこと?」
「好きではないんだけど、あなたが好きだっていう態度をとるんだ。要するに振り回すんだよな」
僕はいっぺんに希望がなくなった感じがした。
ウルフは友達が多いから、僕以外の男友達だっているはず。その中に本命がいたなら僕はただの友達だろう。
僕は頭を抱えて唸った。蓮はそれをみて「まあまあ」と言った。
「まだ思わせぶりって決まったわけじゃないし、本命がいるならそっちと頻繁に連絡とると思うんだよ。ちなみにメールが返ってくる早さはどのくらい?あと内容は短い?」
「えっと・・・遅くはない。でも、夕飯とか食べてる時は返してこないから・・・一時間以内にはいつも返ってくる。内容は短すぎず長すぎずかな・・・」
「なら好意はゼロじゃないと思うぞ。好意がないならめんどくさくてメールなんて返さない。そもそも電話なんかもってのほかだ」
蓮は僕を励ますように言った。僕の心には光が差し込んだり暗くなったり。雲がよく動く晴れの日みたいだ。
蓮は、ウルフがどんな子なのか聞いてきた。
「いくつなんだ?」
「15歳だって」
彼が驚いた。
「他校かと思えば歳下!しかも中学生!やるなあ・・・。そういえば、中学生なのにそんな美貌なのか?」
僕は頷く。
「かなり」
「へえ・・・。会ってみたいな・・・」
僕は慌てた。蓮がウルフのことを好きになったら困る。
そんな僕を悟ってか、蓮が笑った。
「そんな情けない顔するなよ。俺は葵に好きなやつができてこんな話できるの嬉しいんだぞ?そんなやつの好きな人とったりしねえよ」
心底ホッとした。恋愛の達人で性格もいいし話も面白い。そして彼は顔立ちも整っている。モテモテなのも無理はないのだ。そんな彼が目の前に立ったら、ウルフはどんな反応をするだろう。
僕は心配でならなかった。蓮とウルフを会わせたくなかった。
だから僕は卑怯な手にでた。
「その子、ウルフっていう名前なんだ。普通の中学生とはちょっと違うんだよ」
彼はますます興味を持った。
「普通の中学生じゃないって?どんなふうに?」
「いや・・・だから・・・ウルフって名前なんだぞ?どう考えたって狼じゃないか」
彼が気味悪がると思って僕はこの話をしたのに、その期待を裏切られた。彼はものすごく会ってみたいと言った。
結局、蓮とウルフを会わせることになってしまったのだ。
 僕はその日、しょぼくれたまま授業を受けて、放課後いつも通りに彼女のいる公園へと向かった。
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