物理最強信者の落第魔法少女

あげは

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プロローグ

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 その冒険を最後に、私は探索者を辞める――――はずだった。


 ◇◇◇


「――申し訳ないが、アリス。これ以上君と一緒に冒険をすることはできないみたいだ」

 同じような言葉を何度聞いたことだろう。
 夜空に浮かぶ美しい満月に照らされたその日、頻繁に利用していた酒場の個室で、私の目の前に座る、少し長い金色の髪を一つに束ねた男性。彼の名はエドワード。
 私が所属している探索者パーティーのリーダーだ。
 お人好しで困っている人を見捨てられないのが、彼のいいところだと私は思っている。
 そんな彼は、今私の前で心底申し訳なさそうに頭を下げている。
 彼に呼び出されたときから、何となく予想はしていたから、そんな顔をしなくてもいいのに。

「解雇……でしょ? わかってるわ。私が足を引っ張っているのは自覚しているから」

「そんなことはない! アリスが誰よりも努力していることを知っている! しかし……仲間たちは……」

「大丈夫。慣れてるから」

 これまで何度もパーティーから解雇されている。
 私は魔法使い。
 パーティーの後方から支援するのが役目なのだが、回復魔法は使えず、支援魔法や属性魔法は初級のみしか使えない。
 探索者として求められる力量ではないことは自覚している。
 だから、こうしてパーティーを解雇されることには慣れている。
 エドワードも私の事情は知っている。同じ街で探索者をしていれば会わないはずがない。
 彼は私の事情を知っていながら、何度も解雇される私に唯一手を差し伸べてくれた。

「たった数ヶ月間だけど、エドとの冒険は楽しかった。私はそれで十分」

「いや、こちらから勧誘しておいてこの仕打ち……いっそ罵倒してくれた方が楽なのに。アリス、君は優しすぎるよ……」

「あなたに言われたくないわ。それに……心の整理もついたから」

 これ以上、私を入れてくれるパーティーはない。
 この街の探索者は、皆私の噂を知っているから。
 丁度いい機会になった。そう思えば、気も楽になる。
 私がそう言うと、彼は困ったように笑う。

「もしかして、探索者を辞めるつもりかい?」

「ええ、そうよ。元々私には向いていなかったんだわ」

「そんなことは……いや、君の決心は固いのだろう。僕から言えることはもうないみたいだ。……少し寂しいかな」

「そう思ってくれるだけでも嬉しいわ。ありがとう」

「探索者を辞めた後はどうするんだい?」

「そうね……田舎の村にでも帰ろうかな」

 私がいる街は、王国辺境にある一番大きな都市。
 ここからさらに西にある国境付近に私の故郷の村がある。
 元々両親はいない。それ以前に、村にいた記憶が曖昧だ。まるで靄がかかったみたいに。
 それでも、住んでいた家は残っているはず。
 だから戻って、田舎の村娘として人生を終えるのも悪くはないかな。

「そっか……。探索者を辞めて、田舎に引きこもるのもありかな」

「何言ってるの? あなたはこれからでしょう。もうすぐ金ランクの冒険者になるんだから」

「ははは。冗談だよ。……鈍感なのは相変わらずだな」

「?」

 何か呟いていたみたいだけど、よく聞こえなかった。
 まあ、エドが冗談を言うのはいつものことだから、気にしないでいよう。

「……本当に、やめるんだね? 悔いはないのかい?」

「……一つだけ、あるわ。だから、それを叶えてからやめるつもり」

「そうか。それじゃ、アリスの人生が良いものになるように、一番いい酒を頼もうか」

 そうして、私とエドは夜が更けていくまで二人で飲み明かした。
 彼ほどいい友人と巡り会えたのが、私の最大の幸運だったかな。


 ◇◇◇


「えええええええ!? だ、ダンジョンに行くぅ!?」

 その翌日、私は探索者ギルドの受付で、私の面倒を見てくれてた受付嬢ケイトに事の顛末を話した。
 彼女は、探索者になりたての頃からお世話になっている、かけがえのない友人であり、姉のような存在だ。
 遺憾なのは、目の前で存在感を放つ二人の巨大な脂肪の塊。
 私はふと自分の足元に目を向けた。
 ……そう歳は変わらないはずなのに、なぜこうも差が。

「アリスちゃん、聞いてる!? どうして探索者を辞めるって話が、ダンジョン探索をするって話になるの!?」

「後悔を残さないためよ。自分の力でダンジョンに行ってみたかったの。これまではケイトが許可してくれなかったから、単独で冒険なんてできなかったけど。最後くらいは良いじゃない」

「……本気なの?」

 いつもぽわぽわしているおっとりお姉さんなケイトからは、想像できないくらい真剣な眼差しで、そう訊ねてきた。
 私の覚悟を悟っての事なんだろう。
 私は無言で頷いた。
 するとケイトは、大きなため息を吐いて、諦めたようにフッと笑った。

「……わかった。決意は固いみたいだし、ね。ただし! 絶対に生きて帰ってくること! それだけは約束して」

「うん、ありがとう。私、ケイトの事大好きよ。それじゃ、行ってきます!」

 私は、泣き笑いを浮かべるケイトに背を向け、意気揚々と探索者ギルドを出た。
 覚悟は決まってる。決心もついた。
 後は、最後の冒険を楽しむだけ!
 私は、ギルドを出た勢いのまま、ダンジョンに向け駆け出した。


 この冒険が、私の運命を変えることになるなんて、この時はまだ夢にも思わなかった――――。






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