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ダンジョン
しおりを挟む――ダンジョン。
それは世界各地に突如として姿を現す。原因も発生条件も不明。
洞窟であったり、森や山、街そのものがダンジョンと化すこともあり、多様性に富んでいる。
濃厚な魔素に包まれ、内部には”侵略者”と呼ばれる存在が蔓延る危険な地。
何故、人はそのような危険な地へ、自ら足を踏み入れるのか。答えは一つ。
――ダンジョンを攻略せし者、富と名声を得たり。
その者の名は歴史に刻まれ、一生遊んで暮らせるほどの財産を得る。
人生を一変させる大博打に、誰も彼もが夢を見る。
もちろん私もその一人……いや、お金は欲しいけれどあまり目立ちたくはないかな。
それに私が目指すダンジョンは大昔に既に攻略され、国の一大資源として保護されている。
ギルドで制定されているランクも低く、初心者パーティーが探索に慣れるためにあるようなものだ。
それでも、私一人では踏破することもままならないだろう。三階層くらいまでなら何とか。
それくらい、私は力不足だ。「お荷物」だなんだと言われるのは当然。
だから、私は最後にこうしてダンジョンまでやってきた。
私の冒険を、悔いなきものにするために……。
◇◇◇
初級ダンジョン「始まりの洞窟」。
洞窟型のダンジョンで、一番最初に発見されたダンジョンだから、こう呼ばれているらしい。
ダンジョンとは言え、すでに何百年も多くの人が利用している。そのため、通路の岩壁には魔鉱石が設置され、明かりが灯っている。
地図も簡単に手に入り、道に迷うこともない。
さらに、”侵略者”も低位の獣種のみ。群れで襲われない限り、私でも対応できる。
――そう思っていたのに。
「はぁ……はぁ……っ」
私はただ、ひたすら逃げ回っていた。
後ろから追いかけてくる、十数匹の狼。
獣種の”侵略者”は、赤い眼と額についたエンブレムが特徴的……ってそんな悠長なこと考えている場合じゃない!
「もぉ! ”トレイン”は違反行為って常識でしょう!!!」
思わず愚痴が零れる。
トレインとは、ダンジョン内で襲われた”侵略者”を、他者へ無理矢理押し付けること。
ダンジョン内での犯罪にも使われることが多く、ギルドが徹底して取り締まっているのだが、初心者にはよくある光景なのだ。
自分の力を過信し、無暗やたらと”侵略者”に手を出した結果、それが津波となって跳ね返ってくる。
逃げまわっているうちに、他の探索者を巻き込んでいくという、最悪の迷惑行為だ。
「――〈火弾〉!」
一番簡単な初級魔法の火弾で牽制しつつ、逃げることを最優先に走り続けた。
それも、そろそろ限界……。
支援魔法を使えない私では、体力が持たない。
それに、無我夢中で走っていたから地図も見ていない。自分が今どこにいるのかさえ分からない状態。
おそらく、出口とは反対……ダンジョンの奥に進んでいるのは間違いない。
こんなに奥まで入ったことないから、余計まずい状態に!
「あ、やばっ。行き止まり……っ!」
通路を曲がると頑強な岩壁に阻まれ、先に進むことができない。
前方の行き止まりに、後方の狼……詰んだわ。
数は減っているが、最低でも十体はいる。残りの魔力で倒せても三体程度。
必死で頭を回転させるも、打開策は浮かばず、もう諦めるしかないみたいね。
「……こんなことなら、来なきゃよかった」
そう呟くも後の祭り。今さら後悔したところでもう遅い。
後悔を残さないための最後の冒険で後悔するだなんて、何て皮肉。
じりじりと詰め寄ってくる狼から離れようと後ずさる。
背後に壁の存在を感じ始め、とうとう逃げ場が無くなった。
気のせいだろうか、目の前の狼がニヤッと笑った気がしたが、極限状態故の幻覚だろう。
逃げ場を失った私へ、遂に狼たちが飛び掛かってきたその時――
ガコンッ!
「――へ?」
私の右足が罠のような何かを踏んだようだ。
すると、私の足元を起点に、通路の曲がり角までの床が唐突に消えた。
穴が空いたなどではなく、唐突に、忽然と姿を消したのだ。
足場を失った私と狼たちは、無様にも空中へ投げ出され、ダンジョンの奥底へと落ちていったのだった。
「ぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
私の悲鳴が、ダンジョンに空しく響いた。
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