物理最強信者の落第魔法少女

あげは

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魔法少女とは

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 ケイトの家は、ギルドが受付嬢のために用意した寮だ。
 キッチンやお風呂、洗濯機だけでなく、空調にも魔法道具が備えられ、はっきり言って、そこらの高級宿よりも全然設備が整っている。
 ……正直、この部屋に住みたいと何度思ったことか。
 一週間に二日、泊りに来る程度で我慢している。

 部屋に入った途端、私とミルフィは真っ直ぐにお風呂へと連れ込まれた。
「汚いんだから、先に洗ってきなさい。その間にご飯は作っておくから」と言って。
 そんなわけで、私はミルフィと二人お風呂で汚れを落とし、ゆっくりと疲れを癒すことにした。
 お風呂から上がると、リビングのテーブルの上には美味しそうな料理がたくさん並んでいた。
 パンケーキまで用意されているところを見ると、ケイトの気遣いが感じられる。
 おっとりお姉さんは、意外としっかり者なのだ。

「わぁ、美味しそうね!」

「パンケーキまであるとは、素晴らしいね。我儘を言うようで申し訳ないのだが、ハチミツをたっぷりともらえるかな? なければバターでも構わないけど」

 私の頭の上に乗っているミルフィが、図々しいおねだりをしている。

「ハチミツを出すのは別にいいけど、その前に聞かせてくれる? あなたは、何?」

「おっと。まだ名乗っていなかったね。これは失礼した、レディ。ボクはミルフィ。愛らしいカーバンクルにして、魔法少女アリスの使い魔だ。アリスとは一心同体の関係になったんだ。こう見えて、雌なんだ。仲良くしてくれると嬉しいね、ケイト嬢」

「……」

 ……やめて。無言で見つめないで。
 私だって、正直扱いに困っているんだから。

「……とりあえずご飯にしましょう。食べながら聞くことにするわね」

 ケイトが溜息を吐きながら席についた。
 お腹が空いているのは確かだ。こんなご馳走を目の前にしてお預けは悲しい。
 私もケイトの対面に座り、テーブルの上にミルフィがちょこんと腰掛け、パンケーキ独占の体勢を取る。

「「いただきます!」」

 私たちは各々食事を始めた。
 私の好みをわかっているだけあって、きのこグラタンも用意してくれていた。
 本日何度目かの感謝。お姉ちゃん様様ですね。
 ちらりとミルフィに視線を向けると、口元をハチミツでベタベタにしてパンケーキを頬張っている。思わず苦笑。

「いろいろと聞きたいけど、まずはアリスの話からね。ダンジョンでは何があったの?」

 ケイトに訊ねられ、私は”トレイン”に巻き込まれ罠を踏んで未探索領域に落下したことを話した。
 真っ暗なダンジョンの中、小さな小部屋にボロボロの宝箱。中からは大きなルビーと一枚の紙片。
 そのルビーがミルフィだったこと。成り行きでミルフィと契約したこと。
 そして……私の進むべき道が定まったこと。

「ふーん。特殊魔法、ね。アリスにそんな力があったなんてね。それで、”身体強化”だっけ? それってどれくらいすごいの?」

「そうね……例えば」

 私は、皿の上に置かれた胡桃を手に取り、右手に魔力を集中させた。
 十分に魔力が集まったところで、思い切り胡桃を握りしめた。
 すると――。

「っ!?」

「まあ、これくらい、かな……」

 私は、硬そうな殻に包まれた胡桃を軽々と粉々に握りつぶした。
 ダンジョンを歩いている間に、私はできる限り練習してきた。
 これくらいであれば、すんなりとできる程度には上達したみたいだ。
 ケイトが粉砕された胡桃を見て、吃驚している。
 それもそうだ。非力な魔法使いの少女が、素手で胡桃を粉砕したのだから。
 そこらの筋肉自慢といい勝負できるかもしれないわね。

「こら。あまり調子に乗らない。それくらいで満足してもらっては困るからね」

「わかってるわ。まだまだこれから、でしょ」

 そう言うと、ミルフィはやれやれと肩を竦める。

「それじゃ、魔法少女っていうのは? 魔法使いとは違うのかしら?」

「それは私も気になってたの。ミルフィ」

「まあ、魔法を使うという点では同じかもしれないけど、似て非なるものだよ。――魔法少女とは、『悪』を倒すために生み出されたシステムのようなものだからね」

「「しすてむ……?」」

 聞いたことのない言葉に、私とケイトは顔を見合わせ首を傾げた。
 ミルフィはそれ以上細かい説明をしてはくれなかった。
「今はまだ気にしなくていい」と言うだけだ。

「『悪』って言うのは、なんだか曖昧な感じね。善悪の区別なんて、人の主観でしかないじゃない」

「確かにアリスの言う通りだ。善悪の認識は、人の主観に因る部分が多々ある。だが、ここで言う『悪』とはある存在について言及しているんだ」

「ある存在……?」

「そう。魔法少女は世界を守護するためのシステム。では、反対に『悪』とは世界を脅かす存在に該当する。ここまで言えばわかるかな?」

 この世界は、特にこれと言って荒んでいるわけではないと思う。
 世界中にダンジョンがあるだけで、国同士で戦争をしているわけではなく、どちらかと言えば、平和と言っても差し支えないだろう。
 では、世界を脅かす存在とは?

「簡単な話さ。『悪』とは”侵略者レイダー”のことを言う。彼らは名の通り、だからね」






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