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スパルタ
しおりを挟む「――はぁ……はぁ……っ」
「そろそろ限界かな? 今日のところはこれくらいにしておこう。これから同じものを毎朝やるからそのつもりでね」
私は街の外の平原で、仰向けに倒れ込んだ。
呼吸は荒く、体はボロボロ。ところどころにすり傷が出来ている。
空に浮かぶ太陽は既に真上に到達していた。
遡ること数時間前。
ケイトのベッドで目を覚ました私は、ミルフィに引っ張られ街の外に連れ出された。
起きてすぐ走りやすい恰好に着替えさせられ、何が始まるのかとドキドキしていると。
「――これからアリスには、数時間、ボクの魔法から逃げ続けてもらう。いかに身体強化魔法なんてものがあろうと、素の身体能力が低くては宝の持ち腐れというものだよ。そのためにはまず基礎体力をつけてもらう。時間が無いから、荒療治にはなるけれど、強くなるためだ。頑張ってくれたまえ」
そう言って、ミルフィは私に向け火の玉、氷の柱を打ち出してきた。
威力はご察し。軽く地面が抉れるほど。直撃してはひとたまりもない。
どうしてこんな魔法が使えて、物理最強なんて言っているのか意味が分からない。
「君も同じ考えを持っているはずだよ。どんなに魔法に優れていても、魔法は発動時間というロスが生じる。その点、物理攻撃にロスはない。君も本当は分かっているはず。君がその記憶に蓋をしているだけだ。今はそのままでも構わない。でも……あんまりもたもたしていると死んじゃうよ?」
それから私は必死で逃げた。
この訓練中、身体強化は禁止。足が動かなくなるまで走り続けろとのこと。
……無茶苦茶だ。
逃げる私の背に向け、ミルフィは容赦なく魔法を放ってくる。
当たらないように、狙いを定めさせないように、複雑な動きを交え走り続けた。
途中から、魔法がどこに飛んでくるか見なくなった。
一瞬だけ、ミルフィの発動の瞬間だけを見て、後は予測して回避する。
そうすると、今度は思いもよらない方向から魔法が飛んできた。
火の玉が地面で爆ぜた衝撃で、私の軽い体は吹き飛んだ。
倒れ込んだところへ、幾本もの氷柱が襲い掛かる。
倒れている場合じゃない。私はすぐに起き上がりまた逃げ続けた。
視覚だけでは、攻撃を予測できない。それを悟った私は意識を聴覚に向けた。
ミルフィの魔法が飛来する音に集中し、どこから飛んでくるか予測を立てる。
視覚と聴覚、一方だけではダメだ。どちらにも意識を向けなければならない。
頭が痛くなる。集中が途切れてしまったら……最悪を想像して寒気がした。
「あーもうっ! やればいいんでしょ!!」
それから数時間、ミルフィが良いと言うまで、私は走り続けた結果、屍のように動けなくなった。
ハードな訓練に晒され、鍛え上げられた私の耳が、小さな足音を拾った。
街の方から、誰かが近づいてくるみたいだ。
「……ケイト?」
「お見事。この距離の足音を拾うなんて、たった数時間でかなり成長したね。うんうん。やっぱりボクの見込んだ通りだ。君はセンスがあるよ、アリス」
「どう、かなぁ……。もう、動けないし……」
「何を言っているんだい? 君は逃げ切ったじゃないか。それに……一度も弱音を吐かなかった。始まったばかりだよ。これからさ。日を追うごとに、君はどんどん強くなっていく。こんな逃げ回るだけの訓練なんて、あくびをしながらでもこなせてしまうほどにね」
「はは……そうだといいわね……」
そう口にした後、私の意識は途切れた。
気を失った私は、差し入れを持ってきたケイトに運ばれて、街まで戻ったらしい。
この調子では、しばらくケイトの家に居候することになりそうだ。
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