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訓練の効果
しおりを挟む数日間、ミルフィによる凶悪な訓練と瞑想を繰り返す日々を送り、私はまたギルドへと戻ってきた。
ギルド内は相変わらず探索者で溢れ返り、喧騒は止まない。
依頼に勤しむ者、訓練場で力を蓄える者、昼間から酒を嗜む者。
探索者は自由。それを体現するかのように、彼らは思うがままに生きている。
私がギルドに入ると、不躾な視線が集まる。
その大半は、私を見下し、蔑み、侮るものだ。一年もこの視線に晒されればもう慣れた。
ただ……変わらないな。そう思うだけだった。
「もう気にしていないみたいで安心したよ。それだけでも、君は強くなったと言えるね」
「……そうかしら。ただ、そうね。今までは居心地の悪いものだったけれど、今は特に何も感じないわ。でも、まだこれからよ。もっと強くなれるんでしょ?」
「そうだ。アリスはもっと強くなれるんだ。ふふふ。いいねいいね。精神的な部分でも君は変わったみたいだ。瞑想のおかげかな。彼女のような勇ましい武闘家に近づいてきているようだね」
「あれだけ何度も同じ記録を見せられれば、多少影響されるわ。いい加減、彼女が何者か教えてほしいけどね」
「それはまたの機会に。今は――どうやらそれどころじゃないみたいだからね」
頭の上に乗っているミルフィが私を叩き、視線を促す。
いつの間にか私の前に立ちはだかり、道を塞ぐニヤニヤした男が三人。
大斧を背負う大柄な男が、いやらしい視線を私に向けながら言う。
「お前か? 『役立たずの魔法使い』ってのは。んだよ、色気のねぇガキじゃねぇか! お前みたいな雑魚の居場所はここにはねぇぞ! それとも、俺たちの夜の相手でもしてくれるってか? ぎゃははっ!!」
……下品ね。笑い方も見た目も何もかも。
同じことを思ったのか、私の肩に移ったミルフィも不快そうな顔をしている。
「この手の輩はいつの時代もいるもんなんだね。まったく。レパートリーに乏しいと言うか、同じものばかりでよく飽きないものだ」
「仕方ないじゃない。探索者の大半は、こういう荒れくれものばかりだもの。でも……こういうのと一括りに探索者と言われるのは困るわ。同じものと思われたくないし」
ミルフィと二人、そんな話をしていると、ギルド内の空気が変わっていることに気が付いた。
その大半は、私が言った言葉に驚いているみたいだった。これまでの私とのギャップを感じているのだろう。
目の前で聞いていた男たちは、顔を真っ赤にして自分たちの武器に手を掛けようとしていた。
「て、てめぇ……雑魚の分際で……っ!」
「舐めやがって!!」
「調子に乗ったことを後悔させてやる」
「ちょっと。ギルド内での武器の使用は禁止よ。そんな簡単なルールも守れないわけ?」
「黙れっ! 雑魚のくせに、俺をバカにしてんのか!?」
頭に血が上っている男に、何を言っても意味はなかった。
ただ怒りのまま、大斧を振り下ろす。
……随分とゆっくりだなぁ。そんな感想が抱けるほど、彼の斧は脅威とは思えなかった。
こうして人と対峙してみると、私が変わっていることを実感できる。
私は、魔力を少し左腕に集中させ、頭上から振り下ろされる大斧の側面に当てた。
大した力を込めたわけではないが、男の大斧は激しい音を立て砕け散った。
ちゃんと手入れしないから、こういうことになるのよ?
「「「――は?」」」
「うんうん。実に綺麗な魔力操作だね。絶妙な身体強化で武器破壊、見事だ。訓練の成果が出ているみたいで嬉しいよ」
「あれだけしごかれて、結果になりませんでした。なんて、ありえないでしょ。ほら、行きましょ。さっさと帰って休みたいの、私」
呆然とする男たちの横を通り、私は受付に向かった。
カウンターでは、一部始終を見ていたらしいケイトが、優し気な笑みを浮かべている。
今日は、ついさっき買ってきた服を仕事中のケイトに自慢しに来た。
ミルフィが言うには、正直服は何でもいいらしい。どうせ戦闘中は関係ないから、と。意味はわからなかったけど。
それでも、私はそれなりに戦える装備にした。
有名な服飾士が作った魔法衣。少し高価だったけど、今後のために気合を入れた。
赤いショートパンツと黒いロングブーツは特に高性能だという話で、予算を超えてしまった。
そのため、シャツと外套は普通の私服を着まわすことにした。
「どうしたの? 随分とカッコ可愛い装備になったみたいだけど」
「そうなの。ちょっと自慢しに来たの。どう?」
「ええ、とても似合っているわ。アリスも大きくなったのね。……一部はそうでもないみたいだけど」
「これからよ! ちゃんと成長するもん!」
「はいはい。それで? 依頼でも受ける? 今のアリスにならいろいろとオススメできるわよ」
そう言って、ケイトは数枚の依頼書を提示してきた。
どれも凶暴な獣の討伐依頼。ミルフィと相談し、時間に猶予のある二件の依頼を受けることにした。
本来であれば、そのまま準備を済ませ、依頼遂行に出るのだが、今日の訓練はいつも以上にハードだった。
正直、疲れ切っていた私は、そのままケイトの家に帰ることにした。
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