物理最強信者の落第魔法少女

あげは

文字の大きさ
14 / 73

魔獣

しおりを挟む

 ダンジョンの周辺では、濃密な魔素が漂っている。
 魔素とは、いわゆる魔力の瘴気と言えるもので、魔力を持たない者にとっては害となる物質であると、研究成果が発表されていた。
 魔素に晒されたものは、魔瘴という症状を発症する。魔瘴は、身体に様々な変化を及ぼし、最悪の場合、死に至ることもある。

 しかし、極稀に魔瘴の影響で、身体組成が作り替えられてしまうことがある。
 特に、魔力も知性もない獣に多く、魔素に犯された変異体を「魔獣」と呼ぶ。
 ”侵略者《レイダー》”とは違い、魔獣はダンジョンの外に出没する。
 ダンジョンの外で生活する魔獣は、人里に降り、人的被害を及ぼすこともあるらしい。
 そういった被害を減らすため、魔獣発見の報告があると、探索者ギルドが国よりも早く早急に対処することになる。

「……魔獣については、だいたいこんな感じかしら」

「なるほど。ダンジョンが放つ魔素によって、自然に生きる動物たちが影響されるわけか。魔力を持たない存在であれば魔瘴にかかる、と言ったね? それは、魔力というものを体が感知したことが無いゆえに、自身の体で魔力を消化できないから。というわけかい」

「確か、学者さんの研究にも似たようなことが書いてあったわ。基本的に、魔力と言うものは誰しもが生まれた時から持っていると言われている。その魔力を持っていないということは、自力で魔力を精製する力そのものが備わっていないとされ、他人よりも魔力に対する耐性に乏しい、だったかしら」

「実際のところ、根本的な問題については誰も論じていないみたいだね。――魔力とは何か。それが分かれば、なぜ魔力を持つ者と持たざる者が生まれるのか、わかるのではないかな。……四時の方向、三匹来てるよ」

 ミルフィの言う通りに、ちらりと視線を向ける。
 伝承の生き物である、ユニコーンのような角を生やした小さなウサギが三匹。
 魔獣の特徴である、炎のような赤い眼と穢れた黒き体。
 うーん……ウサギってもっと可愛い動物だったはずなのに。
 艶の無い黒いだけの毛並みは、モフモフさの欠片もなく、私はもったいないと思った。
 これも全て、ダンジョンの弊害。ダンジョンが動物たちを狂わせる最大の元凶なのである。
 三匹のウサギは、私に狙いをつけ、立派な角を突き付けようと飛びかかってくる。
 これまでの戦闘で学習したのか、三匹並んで同時に飛び、後方以外の逃げ場を奪う。
 凶悪に映る三本の角が私に迫り――くるはずもなく、右端のウサギの側面を、振り上げた私の右足が捉えた。
 並んだことによって、振り抜いた私の足が、三匹のウサギをまとめて蹴り飛ばす。
 近くの樹に叩きつけられた衝撃で、グシャッという肉の潰れたような音が耳を汚す。

「う~……この感覚だけは、慣れない……」

「弱肉強食とは世界の理だ。やらなければ、こちらがやられてしまうからね。生きるためだと割り切るしかない。しかし、誤ってはいけないよ。その感覚で享楽に浸ってはダメだ。君の成長の糧となる彼らを悼む心を忘れないように。彼らも、憐れなダンジョンの被害者でもあるのだから」

 御高説を垂れるように、ミルフィが言う。
 こんなことが楽しいだなんて、私は思えない。
 快楽殺人者になんてなるつもりなんてないし。……この場合、快楽殺兎者? 
 どっちでもいいか。とにかく! 私は命を奪うことを楽しむことはしません。

「そう。その気持ちは大切に。魔法少女が殺しを楽しむなんて、あってはならないことだからね。君はどちらかと言うと、正義の味方、なんだ」

「実感わかないけどね。――とりあえず、終わりかしら」

「そうだね。半径五百メートル圏内に生体反応は無しだ。この辺り一体の魔獣は片付いたはずだよ」

「そ。なら、討伐証明の角だけ持って帰りましょう。これでようやく私の探索者ランクも上がるかしら……」

 これまでパーティーのお荷物だった私は、自力で依頼を達成したことはなく、いつまで経っても実績はつかなかった。
 そのため、ずっと最下級のランクだったのだが、今回のことで多少の評価は得られるのではないかな。
 私は期待に胸を膨らませ、数十本の角を持って街へと戻るのだった。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。

リョウ
ファンタジー
 何者かになりたかった。  だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。  そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。  導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。  冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。  目指すのは、ただ生き延びることではない。  一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。  渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ファンタジー成り上がり譚。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

処理中です...