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呪詛洞穴(2)
しおりを挟む「――はっ!」
ガラガラと音を立て崩れ落ち、私の目の前に骨の山が出来上がる。
拳に少し痺れを感じるが、特に支障はない。
「呪詛洞穴」に入ってから体感約二時間ほど。後ろを振り返れば、私たちの通ってきた道には大量の骨の山が放置されていることだろう。
「うんうん。スケルトン相手でも問題は無さそうだね。ボクの理想としては、拳一つで骨を粉砕するくらいになってほしいところだけど」
「無茶言わないで。見た目以上に硬いのよ、この骨」
「わかっているとも。腕に痺れがあるだろう? そうだね……槍にしようか。短槍二本なら、この狭い洞窟の中でも取り回しが効くからね。突いて良し、薙いで良し、投げて良しの万能武器だよ」
そう言ってミルフィは、何もない空間から真っ赤な短槍を二本取り出し、投げ渡してきた。
「……槍なんて使ったことないんだけど」
「これも修行の内、だよ。戦いながら使い方は教えるさ。とりあえず感覚で、思った通りに振り回してみなよ」
相変わらずの無理難題。身の丈に合わない危険なダンジョンで、使い慣れていない武器を使わせるだなんて。
いつかミルフィのパンケーキを横取りしてやるわ。覚悟しなさいっ。
とは言え、前に見せられた女戦士の記録には槍士もいた。
考えるよりも、そのイメージに合わせて体を動かしてみることにしよう。
「マリーさん、疲れてませんか?」
「ええ。この程度でしたらまだ……いえ、嘘はいけませんね。肉体的には問題ありませんが、精神的な疲労が少し……。私もまだまだですね」
「無理はしないでくださいね。あとでケイトに怒られちゃいますから」
王女様の言葉通り、呼吸は安定しているし、普段通り歩けている。
しかし、顔色が少し良くない。ダンジョンの中という緊張感に苛まれているのかも。
ここらで休憩、といきたいところだが、休憩するには安全な場所ではない。
「ミルフィ、近くに安全な場所はある?」
「少し遠いね。王女様とメイドさんの体力を考えると、そこに向かうよりは、二階層に繋がる階段に向かった方が良さそうだ。まあ、門番と戦うことになるだろうけどね」
「呪詛洞穴」は全五階層からなるダンジョンだ。
下に向かうほど”侵略者”が強くなるのはダンジョンの常識。
一階層は特に武装もしていないスケルトンのみで、動きも悪い。呪いに注意すれば、このダンジョンの中では比較的攻略しやすい階層ではある。
そして重要なのは――未だこのダンジョンを攻略した者がいないということ。
数年前に発生した比較的新しいダンジョンだが、名声を得ようと攻略に赴いた探索者は多い。
それでも、未だ攻略できていない理由は、このダンジョンの特性である”呪詛”のせいだ。
いつか、このダンジョンを攻略しようとしたエドに聞いたことがある。
『「呪詛洞穴」は下に行くだけならそう難しくはない。”侵略者”の情報もあるから対策できるからね。だが、攻略となると一筋縄ではいかないな。最下層の”呪詛”が厄介すぎる。誰も、その”呪詛”を乗り越えられないでいる。僕もその一人さ』
最下層の”呪詛”は、光属性の上級魔法でも払うのがやっとだという。
戦いながら、光の上級魔法で”呪詛”を払わなければならないそうだ。行使に時間がかかる光魔法では、魔法発動より”呪詛”に侵される方が早いだろう。
故に、誰も攻略できていないとか。私には無理な話だ。そもそも上級魔法とか使えないし。
「一階層の門番って、何だっけ?」
「スケルトンナイトだっていう話だよ。全身を骨で武装したスケルトンの上位個体。動きも力も硬度も、ただのスケルトンとは比べ物にならないそうだ。どうする?」
ちらりと王女様たちの様子を確認する。
メイドのアリーさんはなぜかあわあわしているけど、一体どうしたのだろうか。
王女様が一歩前に出て、真っ直ぐ私の目を見返してくる。
「行きましょう。足手纏いにはなりませんから」
「でも……大丈夫ですか? アリーさんがすごい心配そうにしてますけど」
「問題ありません。私も彼女も戦えます。姉様を救うためにここまで来たのです。私が怖気づいてはいられません」
覚悟はできている、と視線で訴えてくる。
それなら、私が反対するわけにはいかない。依頼主の意志は尊重しないとね。
「じゃあ、行きましょうか」
「大丈夫だよ。王女様たちは後方でアリスの支援をしてくれれば問題ないさ。門番の骨なんて、アリスが余裕で粉砕してくれるはずだから」
おいこら、そこの毛玉。余計なことを口にするんじゃない。
変なことを言うミルフィに少しお仕置きをし、私たちは下へ降りる階段へと向かった。
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