物理最強信者の落第魔法少女

あげは

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スケルトンナイト戦

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 ミルフィの声と共に、私は広場へと飛び出した。
 私が広場へと足を踏み入れた瞬間、静かに佇んでいたスケルトンナイトの目が赤い光を放ち、床に突き刺さっていた骨の長剣を引き抜く。
 そのまま二体のスケルトンナイトは、私を目掛けゆっくりと近づいてくる。

「おっと。一体はこっちだよ。少しの間、ボクたちと遊んでもらおうか」

 王女様の頭に乗ったミルフィの額に埋め込まれたルビーが光輝き、二体のスケルトンナイトを分断するように、氷の壁が出現した。

「アリス、そっちを倒し終えたら教えておくれ。それまではこっちで何とかしているよ」

「……あんた、それだけ魔法が使えるなら自分でどうにかしなさいよ」

「まさか。ボクはただの使い魔さ。魔法少女の使い魔は可愛らしさと支援担当と相場が決まっているからね。王女様とメイドさんを守るのに必死なんだ」

 ああ言えばこう言う。口だけは達者な使い魔に呆れつつ、私は目の前で剣を構えるスケルトンナイトに目を向けた。
 その構えは、一度王都で目にした騎士のよう。”侵略者レイダー”とは思えない程、様になっている。
 それに対抗し、私も二本の短槍を構えた。イメージはミルフィに見せられた記録の槍士。
 全身を脱力させつつも、視線は常に敵に向ける。
 お互いに見合ったまま動きはなく、機を窺う。
 そして――。

「っ!」

 一瞬で間合いを詰めてきたスケルトンナイトが、頭上から剣を振り下ろす。
 それに合わせ、頭の上で短槍をクロスさせ防御。
 咄嗟の動きだったが、何とか対応できたことに安堵する。
 スケルトンナイトからは、私が非力に見えているのだろうか。力で強引に私を圧し潰そうとして来た。

「はっ――!」

 剣を受け流した勢いで体を回転させ、スケルトンナイトの横合いから二本の槍を叩きつける。
 隙だらけのように思えたが、左腕の小盾で軽々と防御。
 さらに、想像以上の頑丈さに私の腕は痺れを感じた。

「かったー……。骨なんだからもっとポキポキ折れるくらいの硬さにしときなさいよねっ!」

 一進一退の攻防。互いに決定打を与えられず、得物を振り回すのみ。
 回避し、防がれ、鍔迫り合いを繰り返すこと数分間。
 明らかな違いは、スケルトンナイトに疲れなどないこと。
 一方で人間の私には疲労が溜まっていく。
 ………………。

 ガードに構えた小盾に蹴りを放ち、一旦距離を取った。

「……やめね。やっぱり慣れないモノ使うものではないわ。面倒だわ、ミルフィの言う通り、粉砕してやろうじゃない」

 二本の短槍を放り投げ、虚空に収納。
 さらに何もない空間から、蒼銀のガントレットを取り出した。

「ミルフィの言葉を借りるなら、物理攻撃が最強なんでしょ。確かにわからなくはないわ。ちまちまと削るのは好きじゃないし、一気に叩き潰してあげる」

 全身を魔力で覆い、身体強化を施す。
 あまり試したことはないけど、とにかく全力で自分の体を強化した。
 私の魔力に呼応し、ガントレットから蒼い魔力光、そして”チャイナドレス”から紅い魔力光が溢れだす。
 私の異変を感じ取ったのか、スケルトンナイトが一歩後退った。

「こんな小娘にビビってるのかしら? なら、大したことないわね。防げるものなら防いでみなさい! ――――はあっ!!」

 私の渾身の一撃をスケルトンナイトの小盾に叩き込む。
 一切の均衡なく、骨の小盾は粉々に砕け散った。さらに衝撃は肩まで伝い、スケルトンナイトは左腕を失った。
 勢いを止めることなく、もう一撃。今度は骨の長剣で防ごうとするが、それも粉砕。
 スケルトンナイトは右腕も失った。

「何よ。本当に大したことないじゃない。こんなのに臆してたなんて、少し恥ずかしいわ」

 無防備な骨騎士の頭上から、踵落としをお見舞いしてやった。
 私の打撃と、地面に叩きつけられた衝撃で、骨の体は形も残さず粉々になった。
 ふぅ、と息を吐いて、ゆっくりと氷の壁に近づいていく。

「はっ――!!」

 ミルフィの作った氷壁を、力を込めた拳で叩き割る。
 壁の向こうでは、スケルトンナイトを近づかせないように魔法で牽制している王女様、そして氷壁が崩れ落ちたのを見て驚愕の表情を浮かべるアリーさん。
 そして、王女様の頭の上で退屈そうにしていたミルフィは、楽しそうに笑った。

「ハハハ! アリス、君はやはり最高だよ。ボクの想像以上だ。ほら、さっさとこの骨の掃除をしておくれ。そろそろ王女様が限界だからね」





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