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脱出
しおりを挟む「さすがだね、アリス! ボクが見込んだ通りの結果だよ!」
光に照らされたダンジョンのボス部屋に、ミルフィの嬉しそうな声が響き渡る。
そうしてミルフィはふわふわと浮きながら私の頭に腰掛けた。
尚、今の私は力を使い果たし、うつ伏せで倒れ込んでいた。頭に乗る前に私を起こしてほしい。
自分の力で立ち上がることもできない程、今回は力を尽くした。魔力はすっからかんだし、限界以上の強化を施した体はどこもかしこも悲鳴を上げている。
そんな状態だと、ミルフィが乗るだけで物凄い重く感じてしまう。
「ちょ……重い……」
「ん? アリス、仮にもボクは女の子なんだ。重いだなんて失礼じゃないかな?」
「……今は、それどころじゃ……誰か……助、け……」
「わぁぁ! アリスさん!? アリー、早く回復薬をっ! このままでは、アリスさんがっ」
マリーさんが慌てた様子で、アリーさんを急かす。
わたわたしつつも、アリーさんは腰に提げたポーチから見たこともないような色の回復薬を取り出し、私の口に押し付けた。
え、ちょっ、なんかすごい青臭い匂いがっ!?
「……うぇ、苦ぃ……」
「王族が持つ最上級の回復薬です。もしもの時のためにいつも持たされているのですが……苦過ぎて、飲むのも憚られる程で。い、いえ、ちゃんと効果はありますよ! 数分もすればどんな怪我も治ると」
「良薬は口に苦し、だよ。我慢して好意を受け取りたまえ。アリスはそのまま休んでいると良いよ。数分もすれば動けるようになると思うし。ドロップアイテムはボクたちで集めておくから」
そう言うと、今度はアリーさんの頭の上に乗り、エルダーリッチが落としたアイテムを拾いに向かう。
その場に横たわる私と俯いているマリーさんを残して。
「……えっと、マリーさん?」
「……よかった、です。みんな無事で……」
「無事……かどうかわかりませんが、生きてるってことは無事って言えますね」
「あんな危険な”侵略者”がいるなんて思ってもみませんでした。私のせいで、誰かが……ずっと後悔していました。私の事情に無関係なアリスさんを巻き込んでしまったことを」
どうやら、マリーさんは責任を感じていたみたい。
アリーさんを危険なダンジョンに連れてきてしまったこと。何も調べずにダンジョンに潜ろうとしたこと。私とミルフィを巻き込んだこと。
一歩間違えば全員、もしくはマリーさんだけを残して私たちが死んでいたかもしれない。それくらい危険な場所だった。
しかし、マリーさんは勘違いをしている。
「……マリーさん。えいっ」
「いたっ」
何とか力の入るようになった体を起こし、マリーさんにデコピンした。
……不敬罪で捕まりませんように。
「勘違いしないでください。私はあなたの依頼を受けて、ここに来たんです。ダンジョンの下調べをしていなかった。事前準備が足りてなかった。危機管理意識が疎かだった。私たちの想定が甘かった。反省するべき点は多いです。
それでも、マリーさんが一人で背負うものではありません。ダンジョンを踏破しようと決めたのは、私たちです。今回に限って言えば、恐れ多いかもしれませんが私たちはパーティーメンバー、つまり仲間です。仲間なんだから、反省も喜びもみんなで分かち合いましょう」
私がそう言って笑いかけると、マリーさんは俯いていた顔を上げ、瞳に涙を溜めつつも笑顔になった。
彼女の笑顔が綺麗すぎて見惚れていると、ダンジョン全体が大きく揺れ始めた。
ガラガラと音を立て、天井が崩れてくる。
「アリス、動けるかい? 急いでここを出ないと!」
「え、でも、ダンジョンが崩れるなんて……」
「どうやら、エルダーリッチがダンジョンコアも隠し持っていたらしい。ドロップアイテムの中に真っ二つに割れたコアが残っていたんだ。このダンジョンは――まもなく崩壊する」
ダンジョンコア。
それはダンジョンにとっての核であり、ダンジョンを形成するにあたって最も重要なものだった。
それも各ダンジョン、それぞれにコア専用の部屋が用意されているほどに。だから、ボスが自分で持っているなんて話、聞いたことがない。
コアが無ければダンジョンは成立せず、崩れ去ってしまう。だからこそ、ダンジョンで生計を立てる街は、攻略してもコアを破壊せずに残しておくことが多い。
しかし、コアは破壊されてしまった。というか、私が破壊してしまったみたいだけど。
とにかく、『呪詛洞穴』はもうダンジョンとして成立せず、崩壊を始めたようだ。
「ここを出るって言っても、来た道を戻るの!?」
「抜け道が無ければそうなるね。だけど、大抵のダンジョンは攻略すると、外に転移できる魔法陣が生まれるはずだよ。どこかにそれが……」
「こっちに隠し通路がありました! 急いで!」
いつの間にかマリーさんが壁際で通路を見つけていた。
マリーさんに導かれ、私たちは隠し通路へと向かう。
しかし、私の足は動かなかった。
「あれ?」
「アリス!? まだ動けないのかい!?」
「ちょっとやばいかも――お?」
「しっかり掴まっててくださいね」
気づけば、アリーさんに背負われていた。
いつの間に私の近くに? いやそれよりも上から大きな瓦礫が落ちて……。
「――姫! クッションをお願いします!」
「お任せを!」
「え、何? 何するん――」
視界が一変した。
もはや何が起きているか分からない。突如、私の体を激しい衝撃が襲い、気づいたころには光のクッションの上で、全員が横たわっていた。
すぐ側に眩い光を放つ魔法陣。あれ? 私いつ通路を通ったっけ?
「アリス、ぼさっとしてないで早くいくよ」
「あ、うん」
アリーさんに背負われたまま、私は魔法陣の上に乗った。
全員が乗ったことを確認すると、魔法陣が急速に回転し、転移の魔法が発動した。
最後に何が起きたか分からないまま、私はダンジョンを出たのだった。
◇◇◇
その日、探索者ギルドでは大騒ぎだった。
これまで誰も攻略できなかった『呪詛洞穴』が攻略され、ダンジョンが崩壊したと――。
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