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突然ですが
しおりを挟む先生の家に来てから丁度一週間が経過した。
その期間の内、時々森の中を散策する以外、ほとんどの時間を先生との稽古で費やした。
相変わらず先生の稽古は容赦がない。というか、前は子供だったから少しは加減していてくれたことに今さらながら気が付いた。
『自分が死にかけの感覚を体が覚えれば、どんな戦いにおいても死を回避できる。こんなもの常識よ。だから、私は絶対に死ぬことのない稽古で死を体感させるの。アリスが死なないためにね』
そんな常識は初めて聞いた。
最初にこれを言われたときは耳を疑った。冗談で言っているようには思えなかったし、先生がこんな笑えない冗談を言うとも考えられなかったから。
だから、私はこの言葉の意味を自分なりに理解しようとした。
つまり自分の限界を常に知っておけということ。そう言っているに違いない。そうとしか思えない。それしかありえないの!
思い込みって大事。錯覚も使い方次第だし。
「今日もボロボロね。お疲れ様」
ダラっとソファの上で横になっている私の下へ、苦笑いを浮かべたケイトがお茶を持ってきてくれた。
ここにいる間、先生の作る他では見ることのない料理に心を奪われ、先生の料理を教わっているらしい。
実際、先生のご飯は美味しいし、これがケイトの家でも食べられるようになるのは嬉しい。是非とも完璧に再現できるようになってもらいたいものね。
「今さらだけど、いつまでここにいるの? あまりギルドを休むわけにはいかないのだけれど……」
「大丈夫よ。ギルドマスターから二週間はお休みをもらってるから。私がダンジョンを攻略してから、あんまり休みなかったでしょ? ギルドマスターも少し気にしてくれていたみたいで、これを機に少し羽を伸ばしてくれって」
「あら。それなら、最低でもあと五日はゆっくりできるのね。でも、少し落ち着かなっくなってきたの。ここは穏やかでのんびり過ごすには最適かもしれないけど、これだけ仕事を休むこともなかったから、ちょっと気になってきちゃって……」
「働きすぎよ。そういうの”社畜”って言うらしいわ。ツバキ先生が言っていたもの」
ケイトみたいな仕事人間のことを言うらしい。
これを教えてくれた時の先生は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
何か苦い思い出でもあるのかな。
ケイトを見ると、その時の先生みたいな顔をしていた。まったく同じ顔だ。
「意味は分からないけど、なんか嫌だわ」
「なら、仕事のことは忘れて少しくらい羽目を外してもいいんじゃない?」
「うーん、そうね……。何をしたらいいか分からないけど、考えてみるわ」
「――話は聞かせてもらったわ!!」
バタンッ!と勢いよく扉を開けて先生が入ってきた。
ほんのり頬が上気している。いつもよりテンションが高い。
先生の後ろにいるミルフィが呆れ顔でやれやれと肩を竦めている。
もしかして……酔ってる? こんな真昼間から?
「ケイトちゃん。羽目を外したいそうね? だったら――海よ!!」
「「……海?」」
「そう! 海で開放的な気分を味わうの! 綺麗な海で泳いで、美味しい海鮮料理を食べて。あぁ……想像しただけで上がるわぁ」
「海なんて、もっと南の方に行かないとないですよ。そんな時間はありません。突然すぎます」
「ちっちっち。アリス、私を誰だと思っているのかしら? 誰もが恐れる魔女よ? 海に行くぐらい転移魔法でちょちょい、なの!」
そんな伝説級の魔法をほいほい使わないでください。
ていうか、転移魔法って存在していたんですね。御伽噺の魔法だと思ってた。
ケイトも吃驚して固まってるし。誰か先生を止めてください……。
「ほら、ボケっとしてないでさっさと準備しなさい。水着と着替えは忘れずに!」
というわけで、急遽海に向かうことになりました。
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