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一章 旅立ち
『銀髪の冒険者』
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「はい、これ」
個室に移動してすぐミーシアさんが渡してきた。
白い首輪に小さな鈴がついている。
……いやいや、ペットにつけるやつじゃないですか、これ。
なんてことは言いません。よく見るとちゃんとギルドのマークが入っているのです。このマークがないと従魔と認められないので、下手をすると魔物と間違えられ討伐されてしまうこともある。注意しなければならない。
しかし、扱いは完全に猫のそれ。私と会話をしながらミーシアさんはルナと遊んでいるのである。そのおもちゃどこから持ってきた。
「ありがとうございます。それじゃ早速……ルナ、じっとしててね」
お利口さんなルナちゃんはテーブルの上でお座り。尻尾はフリフリ。
かわいい。実にかわいいです。だけど首輪をつけようとする私の手に猫パンチはやめて。ちゃんと遊んであげるからもう少しじっとしてて。
首輪を装着すると、微かな魔法反応。これでギルドに従魔として登録が完了した。
チリン、と鈴の音が部屋に響いた。
「一応確認しておくけど、その子はファントムキャット。とっても珍しい幻獣だから、どっかの研究機関だとか、テイマーだとか、変な貴族だとかに見つかったら絡まれること間違いなし。十分気を付けてね」
「……わかりました。けど、ルナと遊びながらそれを言うのはどうかと思いますが」
「だってかわいいじゃない。私、猫好きなの。
あー、それと、ギルドとしてもちゃんとサポートはするわ。全面的にね。だから困ったことがあったらちゃんと相談なさい。できるだけ面倒ごとに巻き込まれないように。ね?」
「何ですかそれ。私が問題児みたいな言い方しないでください。今までだって特に問題起こしてないんだから、大丈夫ですよ」
「鏡見てから言いなさい。少しは自覚しておかないと大変なことになるわよ。銀髪で蒼い瞳の美少女とか。そこにいるだけで面倒ごとのほうから寄ってくるわ」
……なん……だと……!?
戦慄した。これまでのこともあったから自分の容姿には無頓着だった。傍から見たらそうなのか。これから気を付けよう。
ということは、今日感じた視線はそういう意味もあったのか。
「まあ、何かあってもこの子が守ってくれるでしょ。それにリリナも自分で何とかできるじゃない」
「やだなぁ。私別に強くないですよ」
「私も強いとは思ってないし、強くなる必要もないわ。あなた特殊なんだから。歌ってるだけでいいんだし」
確かに。なんせ『歌姫』ですから。歌で大抵のことは解決できる。
魔物の討伐依頼も歌って眠らせて、その間に倒す。安心安全なのだ。一人だと解体が大変だけど。ゴブリンとかオークとか特に大変だった。倒すより解体に手間がかかる。
とにかく『歌姫』の力は意外と万能だ。元パーティーはカーナ以外理解してくれなかったけどね!
「ニャッ」
ミーシアさんにお腹を見せて撫でられていたルナが、私の膝に移動し力強く鳴いた。
私がいるよと言わんばかりに。
「…………ありがとう、ルナ」
モフモフのお腹に顔を埋め、つぶやく。
……はぁ、癒されるわぁ……。
「それで、今日の用事は?何かあったんじゃないの?」
呆れたような感じでミーシアさんが言う。
「……よくわかりましたね」
「当たり前でしょ。もう二年もあなたを見ているのよ。それくらいわかるわ」
「……そっかぁ」
私がこれまで冒険者として活動できたのは、ミーシアさんがいたからだ。ここ二年間いつも気にかけてくれていたミーシアさんは、私にとって姉のような存在だ。
少し寂しいけど、意を決して言わないと。
「私、旅に出ようと思います」
「……そう。それは元パーティーに会いたくないからかしら?」
「いえ、その気持ちがないわけではないのですが……。ママを探そうと思いまして」
「ママ?」
ミーシアさんにママがいなくなった経緯、夢で見たこと、ママとの約束について説明する。
納得してくれたのだろうか、微妙な表情をしている。
「なるほどね……。冒険者になって会いに来て……か……。
それで、会いに行くにしても場所がわからないと。十年間手紙もなし。これでどうやって探せっていうのよ。
……こんなこと言いたくないけど、あえて言わせてもらうわ。見捨てられたとかかんがえなかったわけ?」
痛い所をついてくる。
たしかにその可能性を全く考えなかったことなんてない。
でも、それでも私は……。
「――正直そう思ったこともあります。最初はそれしか考えられなくて塞ぎ込んでいた時期もありました。
……それでもわたしは、もう一度ママに会いたい。会って直接確かめるんです。
もし捨てられたのなら、悲しいけど受け入れます。
でも!そうじゃないなら私は会いに行かなければならない。少しでも可能性があるのなら。
だから私は、ママを探すんです!」
……よかった。ちゃんと言えた。
これが私の意思。自分で考え、自分で決めた揺るがないもの。
ミーシアさんに伝わったかな。少し不安になる。
「ふふっ。相変わらずね。一度決めたら頑固なんだから。わかったわ。応援する」
「……ミーシアさん、ありがとう」
「ただし!無茶しないこと、たまにでいいから手紙を出すこと、元気でいること。これだけは絶対に守りなさい。いいわね?」
「はいっ!!」
思わず泣きそうになる。
うれしかった。私のことをこんなにも心配してくれるなんて。
せめてあと二週間、できるだけこのお姉ちゃんとの時間を大事にしようと思った。
「それで、唯一の手掛かりがあるんだったかしら。お父さんが銀髪で冒険者か。
……『銀髪の冒険者』ね。最近は銀髪の冒険者なんてたくさんいるわよ」
「……そうでしたね」
そう。銀髪の冒険者はたくさんいる。というよりも、「銀」をモチーフにしている冒険者が多い。
もちろんちゃんとした理由がある。現代の冒険者はある英雄譚に影響されている人が多いのだ。
『銀の勇者と黄金の魔王』という英雄譚がある。これに憧れて冒険者を志す。そのため、装備やパーティー名、髪の色を銀にする冒険者が大量発生する。あんまり気にしてなかったけど、今となってはとても困る。
探す対象が多すぎるのだ。何とか絞れないものか。
「銀髪……銀髪…………。………………。
ああ!一人すごく有名な銀髪の冒険者がいたわ!」
「ほんとですか!?」
「ええ。あなたも聞いたことあるはずよ。SSランク冒険者『銀葬の剣聖』」
「………知ってます。私からしたら雲の上の人ですね。というか実在するんですか?」
「当然でしょ。……まあ神出鬼没って噂だけど。あまり表には出てこないし、情報が出回らないだけよ。一番最近の情報だと……これね。
十四・五年前に魔大陸で邪龍討伐をしているわ。それ以降は何処にいるかさえさっぱりよ」
魔大陸か。
かなり遠いな。海を渡る必要がある。
あまり詳しいことは知らないが、何人かの魔王がそれぞれ国を治めているとかなんとか。
そんなところにも行くのか。冒険者は国境を超えるどころではない。
「でも、手掛かりとしては一番近いかもしれませんね。パパは誰よりも強い人だって、ママが言ってました」
「強いと言えばそうだけど……。一番情報がないのよ。それでも彼を探す?」
「それでもです。ママにたどり着くならどんな困難も乗り越えて見せます!」
「そう。わかった。私もできる限り情報を集めてみるわ。あまり期待はしないでね」
「ありがとうございます!」
ミーシアさんが協力してくれる。これほど頼りになることはない。
ずっとルナのこと撫でてるけど……。本当に猫が好きなようだ。ルナもミーシアさんには懐いている様子。ゴロゴロと喉を鳴らしている。
「そうだ、ギルドカード出しなさい」
「ギルドカードですか?」
ギルドカートとは、冒険者の情報――ランク・ジョブ・討伐記録など――が書いてあるものだ。身分証にもなる。
それをマジックバッグから取り出す。
そうそう。このマジックバッグも村長作である。五マイトル(五メートル)四方の倉庫と同じ容量が入るらしい。下手したら国宝級。ほんと村長何者?
わたしの持ち物は全部この中に入っている。便利なのは確か。
「はい。私の権限でCランクに上げておいたわ。これで少しはまともな依頼を受けられるでしょう」
「いいんですか?」
「いいのよ。その代わり、しっかりとお金貯めて準備しなさい。お遊びの旅行と違うんだから。前日に私が確認するわよ」
「は、はーい……」
とても迫力のある笑顔でした。
うん。準備はしっかりしよう。……怒られたくはないからね。
「じゃあ私、この後依頼受けるんで、探してきますね」
立ち上がると、ルナが肩に着地。……だから乙女には重いって。
ルナを伴い部屋を出る。
「最後にひとつ聞いていいかしら」
その前にミーシアさんからの質問。
「?なんですか?」
「……あなたのお母さんの名前は?」
「ママですか? 『サクヤ』です。
それじゃ、私、もう行きますね」
今度こそ部屋を出る。
Cランクに上がったし、今日はどんな依頼を受けようかな~。
高揚した気持ちを抱えたまま、私はクエストボードに向かった。
◇◇◇
「…………黒髪で蒼の瞳、それに『サクヤ』という名前。……………………まさかね………」
個室に移動してすぐミーシアさんが渡してきた。
白い首輪に小さな鈴がついている。
……いやいや、ペットにつけるやつじゃないですか、これ。
なんてことは言いません。よく見るとちゃんとギルドのマークが入っているのです。このマークがないと従魔と認められないので、下手をすると魔物と間違えられ討伐されてしまうこともある。注意しなければならない。
しかし、扱いは完全に猫のそれ。私と会話をしながらミーシアさんはルナと遊んでいるのである。そのおもちゃどこから持ってきた。
「ありがとうございます。それじゃ早速……ルナ、じっとしててね」
お利口さんなルナちゃんはテーブルの上でお座り。尻尾はフリフリ。
かわいい。実にかわいいです。だけど首輪をつけようとする私の手に猫パンチはやめて。ちゃんと遊んであげるからもう少しじっとしてて。
首輪を装着すると、微かな魔法反応。これでギルドに従魔として登録が完了した。
チリン、と鈴の音が部屋に響いた。
「一応確認しておくけど、その子はファントムキャット。とっても珍しい幻獣だから、どっかの研究機関だとか、テイマーだとか、変な貴族だとかに見つかったら絡まれること間違いなし。十分気を付けてね」
「……わかりました。けど、ルナと遊びながらそれを言うのはどうかと思いますが」
「だってかわいいじゃない。私、猫好きなの。
あー、それと、ギルドとしてもちゃんとサポートはするわ。全面的にね。だから困ったことがあったらちゃんと相談なさい。できるだけ面倒ごとに巻き込まれないように。ね?」
「何ですかそれ。私が問題児みたいな言い方しないでください。今までだって特に問題起こしてないんだから、大丈夫ですよ」
「鏡見てから言いなさい。少しは自覚しておかないと大変なことになるわよ。銀髪で蒼い瞳の美少女とか。そこにいるだけで面倒ごとのほうから寄ってくるわ」
……なん……だと……!?
戦慄した。これまでのこともあったから自分の容姿には無頓着だった。傍から見たらそうなのか。これから気を付けよう。
ということは、今日感じた視線はそういう意味もあったのか。
「まあ、何かあってもこの子が守ってくれるでしょ。それにリリナも自分で何とかできるじゃない」
「やだなぁ。私別に強くないですよ」
「私も強いとは思ってないし、強くなる必要もないわ。あなた特殊なんだから。歌ってるだけでいいんだし」
確かに。なんせ『歌姫』ですから。歌で大抵のことは解決できる。
魔物の討伐依頼も歌って眠らせて、その間に倒す。安心安全なのだ。一人だと解体が大変だけど。ゴブリンとかオークとか特に大変だった。倒すより解体に手間がかかる。
とにかく『歌姫』の力は意外と万能だ。元パーティーはカーナ以外理解してくれなかったけどね!
「ニャッ」
ミーシアさんにお腹を見せて撫でられていたルナが、私の膝に移動し力強く鳴いた。
私がいるよと言わんばかりに。
「…………ありがとう、ルナ」
モフモフのお腹に顔を埋め、つぶやく。
……はぁ、癒されるわぁ……。
「それで、今日の用事は?何かあったんじゃないの?」
呆れたような感じでミーシアさんが言う。
「……よくわかりましたね」
「当たり前でしょ。もう二年もあなたを見ているのよ。それくらいわかるわ」
「……そっかぁ」
私がこれまで冒険者として活動できたのは、ミーシアさんがいたからだ。ここ二年間いつも気にかけてくれていたミーシアさんは、私にとって姉のような存在だ。
少し寂しいけど、意を決して言わないと。
「私、旅に出ようと思います」
「……そう。それは元パーティーに会いたくないからかしら?」
「いえ、その気持ちがないわけではないのですが……。ママを探そうと思いまして」
「ママ?」
ミーシアさんにママがいなくなった経緯、夢で見たこと、ママとの約束について説明する。
納得してくれたのだろうか、微妙な表情をしている。
「なるほどね……。冒険者になって会いに来て……か……。
それで、会いに行くにしても場所がわからないと。十年間手紙もなし。これでどうやって探せっていうのよ。
……こんなこと言いたくないけど、あえて言わせてもらうわ。見捨てられたとかかんがえなかったわけ?」
痛い所をついてくる。
たしかにその可能性を全く考えなかったことなんてない。
でも、それでも私は……。
「――正直そう思ったこともあります。最初はそれしか考えられなくて塞ぎ込んでいた時期もありました。
……それでもわたしは、もう一度ママに会いたい。会って直接確かめるんです。
もし捨てられたのなら、悲しいけど受け入れます。
でも!そうじゃないなら私は会いに行かなければならない。少しでも可能性があるのなら。
だから私は、ママを探すんです!」
……よかった。ちゃんと言えた。
これが私の意思。自分で考え、自分で決めた揺るがないもの。
ミーシアさんに伝わったかな。少し不安になる。
「ふふっ。相変わらずね。一度決めたら頑固なんだから。わかったわ。応援する」
「……ミーシアさん、ありがとう」
「ただし!無茶しないこと、たまにでいいから手紙を出すこと、元気でいること。これだけは絶対に守りなさい。いいわね?」
「はいっ!!」
思わず泣きそうになる。
うれしかった。私のことをこんなにも心配してくれるなんて。
せめてあと二週間、できるだけこのお姉ちゃんとの時間を大事にしようと思った。
「それで、唯一の手掛かりがあるんだったかしら。お父さんが銀髪で冒険者か。
……『銀髪の冒険者』ね。最近は銀髪の冒険者なんてたくさんいるわよ」
「……そうでしたね」
そう。銀髪の冒険者はたくさんいる。というよりも、「銀」をモチーフにしている冒険者が多い。
もちろんちゃんとした理由がある。現代の冒険者はある英雄譚に影響されている人が多いのだ。
『銀の勇者と黄金の魔王』という英雄譚がある。これに憧れて冒険者を志す。そのため、装備やパーティー名、髪の色を銀にする冒険者が大量発生する。あんまり気にしてなかったけど、今となってはとても困る。
探す対象が多すぎるのだ。何とか絞れないものか。
「銀髪……銀髪…………。………………。
ああ!一人すごく有名な銀髪の冒険者がいたわ!」
「ほんとですか!?」
「ええ。あなたも聞いたことあるはずよ。SSランク冒険者『銀葬の剣聖』」
「………知ってます。私からしたら雲の上の人ですね。というか実在するんですか?」
「当然でしょ。……まあ神出鬼没って噂だけど。あまり表には出てこないし、情報が出回らないだけよ。一番最近の情報だと……これね。
十四・五年前に魔大陸で邪龍討伐をしているわ。それ以降は何処にいるかさえさっぱりよ」
魔大陸か。
かなり遠いな。海を渡る必要がある。
あまり詳しいことは知らないが、何人かの魔王がそれぞれ国を治めているとかなんとか。
そんなところにも行くのか。冒険者は国境を超えるどころではない。
「でも、手掛かりとしては一番近いかもしれませんね。パパは誰よりも強い人だって、ママが言ってました」
「強いと言えばそうだけど……。一番情報がないのよ。それでも彼を探す?」
「それでもです。ママにたどり着くならどんな困難も乗り越えて見せます!」
「そう。わかった。私もできる限り情報を集めてみるわ。あまり期待はしないでね」
「ありがとうございます!」
ミーシアさんが協力してくれる。これほど頼りになることはない。
ずっとルナのこと撫でてるけど……。本当に猫が好きなようだ。ルナもミーシアさんには懐いている様子。ゴロゴロと喉を鳴らしている。
「そうだ、ギルドカード出しなさい」
「ギルドカードですか?」
ギルドカートとは、冒険者の情報――ランク・ジョブ・討伐記録など――が書いてあるものだ。身分証にもなる。
それをマジックバッグから取り出す。
そうそう。このマジックバッグも村長作である。五マイトル(五メートル)四方の倉庫と同じ容量が入るらしい。下手したら国宝級。ほんと村長何者?
わたしの持ち物は全部この中に入っている。便利なのは確か。
「はい。私の権限でCランクに上げておいたわ。これで少しはまともな依頼を受けられるでしょう」
「いいんですか?」
「いいのよ。その代わり、しっかりとお金貯めて準備しなさい。お遊びの旅行と違うんだから。前日に私が確認するわよ」
「は、はーい……」
とても迫力のある笑顔でした。
うん。準備はしっかりしよう。……怒られたくはないからね。
「じゃあ私、この後依頼受けるんで、探してきますね」
立ち上がると、ルナが肩に着地。……だから乙女には重いって。
ルナを伴い部屋を出る。
「最後にひとつ聞いていいかしら」
その前にミーシアさんからの質問。
「?なんですか?」
「……あなたのお母さんの名前は?」
「ママですか? 『サクヤ』です。
それじゃ、私、もう行きますね」
今度こそ部屋を出る。
Cランクに上がったし、今日はどんな依頼を受けようかな~。
高揚した気持ちを抱えたまま、私はクエストボードに向かった。
◇◇◇
「…………黒髪で蒼の瞳、それに『サクヤ』という名前。……………………まさかね………」
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