追放歌姫の異世界漫遊譚

あげは

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一章 旅立ち

前夜

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遥か昔のこと。未だ戦争の絶えない時代。
「勇者」と呼ばれる少年がいた。
 銀色の髪を靡かせ、戦場に佇む姿は、見る人全ての希望となった。
 しかし、彼のことよく知るものはこう語る。

『「勇者」という肩書とは裏腹に、ひどく臆病な人だった』

 そう。
 彼は、誰よりも臆病で、そして誰よりも優しかった。
 人の死に敏感で、仲間が傷つき倒れることに、誰よりも悲しんだ。
 戦の前は必ず「戦いたくない」と嘆き、戦が終わると一人で涙を流す。

 それでも彼は、戦場に降り立つ。早く戦争を終わらせるために。
 誰にも傷ついてほしくないからひとりで戦い、誰も傷つけたくないからと不殺を貫き、たったひとりで戦い続けた。
 そんな彼に寄り添うものはなく、「勇者」とは、常に孤独な存在だった。

 意味のないことだとわかっていても、彼は対話を求めた。無駄な争いはしたくないと。こんな戦争に価値はないのだと。
 その言葉を受け入れてくれるものは現れなかった。
「勇者」としての役目を果たせと。人は、彼に戦い続けることを求めた。
 その期待は、彼にとって重荷であった。
 それでも彼は戦い続けた。「勇者」という重圧の中、自分の理想を叶えようと。
 皮肉にもその生き様、まさしく「勇者」であった。

 ある日彼は知った。自分と同じ道を目指している人の存在を。
 そして彼は、その人の元へ向かった。いくつもの戦場を渡り、どんなに傷を負っても歩き続けた。
 長い旅路の果てに辿り着いた先は、魔王城。
 光り輝く金の鎧を纏い、金の大剣を手にした、「黄金の魔王」がいた。

 勇者は初めて自分の本心をさらけ出す。
 本当は戦いたくないこと。「勇者」として人々の期待を裏切るのが怖いこと。
 孤独な「勇者」は初めて人を頼った。

「黄金の魔王」は臣下を、人民を大切にする男であった。
 誰よりも先頭に立ち、民を導き、争いのない世界を願っている。
「勇者」と「黄金の魔王」は同じ理想を求め続けていた。
「勇者」と「魔王」、相反する二人は互いに理解者となった。

 彼らは戦争を終わらせる方法を模索した。これから先どんなに時間がたっても戦争が起きないように、あらゆる可能性を探った。
 そして、一つの答えを得た。

 ――大陸を割る。

 神の所業と等しい行為。本来なら不可能と断定される。
 しかし、彼らは「勇者」と「魔王」。
 超常の力を持つ彼らが協力することで、不可能を可能にした。
 大陸を割るための大規模な魔法を作りだした。

 そして彼らは計画を実行した。
 発動した魔法は、大陸全体に広がり、人々の心を魅了した。
 天から降り注ぐ光の柱が、大陸を四つに割り、世界の形を変えた。
 魔王が治める「魔大陸」、獣王が治め亜人が住まう「獣大陸」、人が住まう大地「人大陸」、謎に包まれた場所「果ての大陸」。
 二人の所業は世界中全ての人が語り継ぐことになる。

 ――こうして大陸全体を巻き込んだ戦争は終結した。

 戦争終結の立役者となった勇者は、国へ戻った。
 しかし、彼が称賛されることはなかった。
 魔王と手を組んだ裏切り者とされ、迫害を受けた。
 勇者は全く気にすることはなかった。自分の理想が叶ったと、誰よりも平和になった世界を喜んだ。
 彼の役目は終わった。戦いもなく、人々が手を取り合う世界になり彼は――死を選んだ。

 平和になった世界に「勇者」は不要である。
「勇者」という存在が戦争の火種を生むかもしれない。
 せっかく作った平和を自らが壊してはならないと、彼はひとり、ひっそりと亡くなった。

「勇者」を支持していた人間は少なからずいた。彼らは「勇者」の死を知り、周囲の人間たちの意識改革を目指した。
「勇者」が作った平和を二度と壊さないように、その生き様を語り継いでいった。
「勇者」という被害者を生み出さないために。その想いを繋いでいく。

 そして「勇者」としての偉業を讃え、彼は後世にこう語り継がれる。
『銀の勇者』と――




 ◇◇◇


 時は流れるように進み、明日には旅に出る。
 この二週間慌ただしい日々を過ごしていた。
 食堂のお手伝いをしながら、ギルドで依頼を受ける。Cランクになったから依頼の難易度も上がり、その分お金はすぐに貯まった。
 …………いやいや、本当に大変だったのよ。
 ミーシアさんの予想通り、声をかけて来る男が増えた。というか増えたどころではない。ほぼ毎日だ。
 多い時だと五回は寄ってくる。とても面倒だ。
 まあだいたいルナちゃんが撃退してくれるけど。

 今はミーシアさんの家で荷物の確認をしている。家といってもギルドの寮の部屋だが。
 それでもいい部屋だ。なんせ大浴場がついているのだから。
 ………羨ましい。

 それはまあいいとして、今はさっき読んだ本について考える。
『銀の勇者と黄金の魔王』という英雄譚。
 確かに英雄譚と呼べるものだ。だがこれで勇者に憧れるだろうか。
 勝手に「勇者」とか持ち上げといて、魔王と協力した裏切り者扱いされている。どこに憧れる部分があるのか。「勇者」に対する罪悪感しか感じなかった。
 それにパパに繋がる情報もなかった。

「どうしたの?そんなに難しい顔して」

 お風呂からミーシアさんが帰ってきた。一緒に入っていたが、私はルナと先に上がったのだ。

「………あの、さっきこれを読んだんですけど、ちょっとわからないことが多すぎて。
 なんか腑に落ちないというかなんというか………」

「ああ、それ。それは普通に出回っているものとは違うわよ」

「どういうことですか?」

「それはあるエルフの集落で受け継がれているものの写しよ。『銀の勇者』に救われた一部のエルフたちが己の罪を忘れないために残したの」

 なんと。
 とんでもないことを軽々と言ったぞこの人。

「それじゃ人間たちが読んでいるものは?」

「万人受けしやすいように脚色したお話よ。長生きするエルフたちの方が情報としては正しいわ。それと比べると………八割くらいは作り話じゃないかしら」

「………どうしてそんなことを」

「こんな話を聞かされて子供たちが理解できるかしら。当事者だった人たちですら半信半疑だったのよ。義理堅いエルフだからこうして伝えられているけど、自分たちに都合のいいように歴史を変えたかったのでしょ。昔の人は愚かだ、とか言われたくなかったんじゃないかしら」

 確かに言いたいことは分かる。
 これを見た後だと、昔の人はどうかしていたとしか思えない。
 一般的に読まれているものでは、勇者と魔王が大陸を割ったのは同じだ。その過程が全く違う。冒険に出て、ドラゴンだったり、聖剣を取りに行ったり、魔王と一騎打ちしたり。
 まず冒険に出てないじゃん!ずっと戦争してるし、魔王と一騎打ちしてない。本当に人間に都合よく書き換えられている。
 私がどうにかしようとは思わないが、なんとなく哀しく思った。

「………ついに明日ね」

 ミーシアさんが寂しそうにつぶやいた。

「大した情報も見つけられなかったし、あんまり力になれた気がしないわ」

「そんなことないですよ。十分助かりました。ミーシアさんがいてくれてよかったと思ってます」

「………そう。こっちいらっしゃい。髪、乾かしてあげる」

 ミーシアさんの近くにある椅子に座る。すると魔法を使って髪を乾かし始めた。
 こう見えてミーシアさんは元Sランク冒険者なのだ。簡単な魔法ならお手の物である。
 ルナも私の膝に飛び乗ってきた。このモフモフもブラッシングしてあげよう。
 むふふ。

「いざとなるとやっぱりさみしいわね。手間のかかる妹が巣立っていくような感じ。………私が言ったことちゃんと守るのよ。わかってる?」

「………わかってますよ。無茶はしないし、手紙も出します。元気なのは私の取り柄ですからね!」

「それでもよ。ちゃんと気をつけなさい。あと何かあったら呼びなさい。あなたがどこにいても私が駆けつけるから」

「ミーシアさんなら飛んできそうですね。約束します。私が呼んだら絶対来てくださいね。絶対ですよ!」

「もちろんよ。約束」

 そうして二人で笑いあった。とても穏やかな時間。幼いころみたいで懐かしく思う。
 やっぱり一人は寂しいと思うけど、それでも頑張れる気がする。

「ニャ~」

 お腹に猫パンチ。
 ………そうだね。私はひとりじゃない。大丈夫。

「そろそろ寝ましょう。ルナも眠そうにしているわ」

「そうですね。明日も早いですし」

 そういって同じベッドに潜る。
 最後だから今日はみんなで一緒に寝るのだ。
 ルナを真ん中において向き合う。寝ようとすると途端に眠気が。
 もうほとんど瞼が落ちてきている。

「………おやすみ、リリナ」

 ミーシアさんの優しい声。すごく安心する。
 猛烈な眠気とミーシアさんの声で油断しきった私は

「………おやすみなさい。……………………お姉ちゃん……」

 そして私の意識は、溶けるように夢の中へ落ちていった――。







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