追放歌姫の異世界漫遊譚

あげは

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一章 旅立ち

長い旅へ

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ん?
 息苦しい。けれどなんかふわふわしてる。まあいいや。眠いし。
 とにかく苦しいので寝返りを打つ。

「ニャ―」

 抗議の声。
 またもやふわふわの物体が私の顔に。
 もう、何だというのだ。こんな朝早くに。もう少し寝かせてください。

「ニャ―」

 なんだかもぞもぞしてる。
 そこでようやく私はうっすらと目を開ける。ぼんやりとした視界は、黒い毛玉で覆われた。
 よく見ると毛玉ではなく、ルナさんのお尻でした。
 ……また私の顔に乗りおって。こうなったらモフモフを抱きしめて二度寝だ!
 さぞ気持ちのいいことだろう。私はルナを抱きかかえ丸くなる。
 寝ながらモフモフを堪能できるとは、なんと贅沢な。

「――リリナ?まだ寝てるの?早く起きなさい」

 あれ?どうしてミーシアさんがいるの?ここって私の部屋じゃ………ないわ。
 そうでした。思い出してきました。
 ようやく意識が覚醒してきた私は、余計なことまで思い出してしまった。
 ……私寝る前に変な子といったような……。
 いやいや気のせいだ。そういうことにしよう。ミーシアさんも聞いていないはず。

「………おはようございます」

「おはよう。早く着替えていらっしゃい。せっかくの朝ごはんが覚めてしまうわ」

「は~い」

 ごはんと言われては仕方ない。名残惜しいが気持ちを切り替え、いつもの服に着替える。
 ミスリル糸製の水色ワンピ―ス。私服にも装備にもなる優れものだ。ちなみに外じゃないのでローブはまだ着ない。
 髪も整え、ポニーテールに。これが一番楽で動きやすい。
 準備が完了したので、ルナを引き連れミーシアさんの待つ食卓へ向かい、対面に座る。

「「いただきます」」

 うん。普通だ。これで本当に最後だから感慨深く感じるのかと思ったが、意外とそうでもないみたい。よかった。
 よかったのだが……。

「……何ですか、ミーシアさん。何か言いたいことでもあるんですか?」

「え?なにかしら。別に言いたいことなんてないわよ」

「そんな顔しておいてよく言いますね。すごくにやにやしてますよ」

「……あら、やだわ。私ったら。リリアの顔見てたら我慢できなかったみたい。いや、なんでもないのよ。本当に本当よ」

 あからさまにごまかそうとしている。何か隠していることはバレバレだ。
 だが、私はあえて触れない。いやな予感がする。私の勘がそうささやいている。
 さりげなく流そう。

「………ふーん。そうですか」

「そんなことよりそろそろ行かないと。依頼主を待たせるのはよくないわ」

「そうですね。ミーシアさんもお仕事ですよね?」

「もちろんよ。ほら、行きましょう」

 そういってミーシアさんは扉へ向かった。私も行かないと。
 ローブを羽織り、マジックバッグを肩から掛ける。荷物は全部これに入っているからとても楽だ。
 武器は使わないので基本持ち歩かないが、護身用に短剣だけは常備している。何があるかわからないからね。
 ブーツを履き、外へ。ミーシアさんとたわいもない話をしながら並んで歩く。
 ずっとこうしていたいと思うほど、穏やかな時間だった。
 最後の別れ道。

「私はこっちだから。何度でも言うけど無茶だけはしないでね」

「………はい」

「何か困ったことがあっても一人で抱え込まないこと。私に言いなさい。いいわね?
 ――お姉ちゃんとの約束よ」

「っ!?ななな、何でそれを、ま、まさか、聞いて……」

「当然じゃない。嬉しかったわ~。思わず抱きしめちゃった♡
 そ・し・た・ら~、リリナ、すごく幸せそうな顔をして、こう、スリスリって。
 猫みたいでほんっとに可愛かったわ。まだまだ甘えん坊なのね」

「~~~!!!」

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!穴は何処ですかっ!!
 私が入るんじゃありません!ミーシアさんを埋めるんです!
 なんてこと。聞かれていたなんて。油断したわ。最後の最後でこんなことになるなんて。
 ……ルナちゃんに慰めてもらいましょう。そうしましょう。
 ルナのお腹に顔を埋める。とても癒される。やっぱりモフモフは最高ですね……。
 あっ。ルナちゃん暴れないで。尻尾が目に、痛っ。顔が、肉球に押しつぶされてるから~。

「……何やってるのよ、まったく」

 呆れたように言われた。
 誰のせいでこうなったと思っているんだ。と反抗的な眼を向ける。
 すると、突然ミーシアさんに抱きしめられた。

「……ミーシアさん?」

「……なんだかんだ言っても、寂しいのはごまかせないわ。だから……これが本当に最後よ。元気でね……」

 瞳に雫が溜まる。
 泣いちゃだめだと自分に言い聞かせるが、我慢できそうにない。
 ――やっぱり、この人は……。
 精一杯の笑顔を浮かべ、お別れしなきゃ。

「大丈夫ですよ。私、約束は守る女です。だから安心してください。……それに呼んだら会いに来てくれるんでしょ?私も会いに行きますから……だから……」

「そんなに泣きながら言われても困るわね。わかってる。でも心配だけはさせなさい。あなたにとって私が姉であるように、私にとってもあなたは妹なんだから」

「……はい」

「それじゃ、またね。行ってらっしゃい」

「はいっ!またどこかで!行ってきます!!」

 ミーシアさんはいつも通りの日常へ。
 私はまだ見ぬ世界へ。
 お互いにそれぞれの道を進む。
 期待に胸を膨らませて、私は駆け出した。

「あっ!?」


 ――転んだ。


 ◇◇◇


 出だしでつまずいたが、私は集合場所へ着いた。
 時間に余裕を持ってきたし集合時間よりもまだ早いが、私以外全員そろっていた。
 今回受ける依頼は、商人の護衛だ。
 王国東の辺境領まで行く。片道十日くらいかかる。
 急ぐ旅ではないので、いろいろな事を経験しようと思う。

「すいません、お待たせしました。Cランク冒険者のリリナです。この子は従魔のルナです。よろしくお願いします」

「まだ時間じゃないので大丈夫ですよ。この商隊の隊長のスペードと申します。道中の護衛、よろしくお願いします。
 細かいことは、他の冒険者の方々と相談してください。
 ――それでは全員そろったので行きましょう」

 スペードさんは、物腰の柔らかそうな穏やかな人だった。
 ただ、私を見定める視線は鋭かった。やっぱり商人だなぁ。
 私は言われた通り、護衛について細かいことを決めるため冒険者たちのところへ行く。
 私と同じくらいの男女五人で固まっているパーティーと少し年上の男女二人で組んでいる人たちがいた。

「こんな弱そうなやつが一人でしかもCランクかよ。俺たちの方が絶対強いだろ。おかしいと思わないか。なあ?」

「そんなことよりすげぇ美人だな!どうにかしてお近づきに……」

「ふ、ふたりとも失礼だよぉ。ご、ごめんなさい、変な事言って。
 よろしくお願いします」

 五人組の中の男三人がそう言ってきた。生意気そうな剣士、女好きな槍士、気弱そうなタンクだった。残りの女の子たちは魔法使いのようなローブを着ていた。興味津々な様子で私を見ている。
 自己紹介もしないでそんなことを行ってくるあたり、あまり冒険者になって日が浅いのかもしれない。

「これで全員だな。俺はCランクのジル。見ての通りの大剣使いだ。よろしくな!そんでこいつが相棒のメイだ。ずっと二人で組んでんだ。
 せっかく同じ依頼を受けるんだ。仲良くしようぜ!」

「メイよ。弓と多少の魔法を使えるわ。よろしく」

 二人組はCランクだったらしい。長身でガタイのいい熱血漢がジル。切れ長の目と青い髪が特徴のメイ。正反対のように思うけど、案外いいコンビなのかもしれない。
 おっと。私もあいさつしないと。

「Cランクのリリナです。この子は従魔のルナです。少し特殊な魔法を使いますが、気にしないでください。よろしく」

「おう!よろしくな!!」

「よろしく」

 ジルさんとメイさんは仲良くできそうな気がする。
 他は……。

「足引っ張るんじゃねぇぞ」

「……リリナさんかぁ。名前まで美しい……」

「よよよ、よろしくお願いしまふっ!」




 拝啓、ミーシアさん。
 早速ですがこれからの旅路、ちょっぴり不安です……。
 幸先の悪いスタートとなってしまいました……。
 どうか、何も起こらないことを祈っていてください。

「ニャ―」

 あぁ。ルナちゃん。そんなこと言わないで。
 なんだか哀しくなってくるから……。

 ――とりあえず私の旅は始まりました……。



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