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一章 旅立ち
異常事態 *カーナ視点
しおりを挟む――ダンジョン前。
「ここが新ダンジョンか。別におかしなとこなんかねぇな。上の連中もビビりすぎなんだよ」
……なに言ってんすかこの人。
カインさんが全く的外れな事を言っている。
仮にも魔剣士であるのに、この異様な魔力を感じ取れないとかどうかしてる。自分でさえ感じ取れるというのに。
まずここに来るまでの間に魔物がいなかったことからおかしい。
普通、ダンジョンの周囲には低ランクの魔物が溜まりやすい。それなのにこのダンジョンの周囲には魔物の気配すら感じられない。明らかに変だ。
さすがのアルマさんでさえ顔が引き攣っている。この人、魔法に関しては本当にエキスパートだから、こんな顔してるってことは相当やばいみたいだ。
「とりあえず警戒は怠るな。何があるかわからんからな。
俺とカーナで先頭を行く。カーナ、トラップの対処は任せるぞ。三人は後ろの警戒をしてくれ」
「了解っす」
「……ちっ」
雰囲気は最悪だが、依頼はこなさなくてはならない。
最大限警戒しつつ自分たちはダンジョンに入る。
……。
…………。
………………。
特にトラップもなく、魔物との遭遇もまだない。
だが広い。もう三十分くらいは歩いているが、下の階層への階段が見つからない。
アルマさん曰く、この洞窟内で高度な空間拡張の魔法が使われているらしい。そのため外観よりかなり広いようだ。
「おいおい、なんもねぇなぁ。宝ぐらい置いてあるもんじゃねぇのかよ」
カインさん……いやもうバカでいいや。
このバカがなんか言ってる。ほんとに空気読んでほしいっす。
何にもないわけないでしょうが!嫌な気配とかプンプンしてるじゃないっすか!
絶対何かやばいのいるっすよ。確定っすよ。
リリィがいないとマジで無能っすねこいつ。リリィの力に頼りすぎっす。……まぁ本人は自分の力だと勘違いしてるっすけど。
「もう少し声を落とせ、カイン。まだ一階層だが絶対何かいるぞ。油断するな」
「はっ。腰抜けが。お前もビビりすぎなんだよ。ダンジョンの一階層なんかゴブリンかコボルト、出てもブラックドッグだ。そんな雑魚俺の敵じゃねぇよ」
「さっすが、カイン様ですぅ!」
……ほんとこの勘違いバカどうにかなんないっすかね。
頭の緩いビッチも少し黙っててほしい。落ち着いて考えることもできない。
今は別れ道。どのルートに何があるか探っているところだ。
「……足音……複数の気配……んー……、一番右の道に広場があるっす。他の二つは繋がってるっすね。行き止まりっす」
「そうか。なら右の道に行こう」
一応これでもシーフっすから、気配察知とマッピングは結構得意っす。
ルートも決まり、また歩き続ける。さすがに全力で警戒しながら歩き続けているため集中力が切れかかっている。それでもまだ休憩はできない。休憩できるほどこのダンジョンを知らなすぎる。
歩き続けて十分、視界に広場が見えてきた。それと同時に気配が濃くなってきた。
「……何かいるっす。気を付けてください」
「全員戦闘準備しておけ。……何がいるか見えるか?」
「確認するんで、少し待ってください」
気配を消して広場の入り口に潜み、様子をうかがう。
魔物は一体。赤い肌に二本角、腰布を巻いた人のような姿だが三マイトルはある巨体。
――オーガだ。
こんな序盤に出て来る魔物ではない。明らかにおかしい。
本来なら倒せないことはない。リリィがいたのなら余裕で倒せただろうが、今の自分たちでは簡単に倒せないことは分かっている。しかし他の人たちがそれを聞いてくれるかどうか。
個人的にはここで撤退して報告しても依頼は完遂することができると思うが……。
……一応他の意見も聞こう。
音を立てず仲間の元へ戻る。
「……どうだった?」
「………………オーガが一体。三マイトルほどはあったっす」
「っ!?オーガだと!?こんなところで出て来る魔物じゃない!」
「オーガ一体にそんなに驚くことねぇだろ。俺たちなら余裕だ」
「待て!これは明らかに異常事態だ。オーガがこんなところに出て来るなんておかしい。それもわからんのか、カイン」
「……そうね。こんな異様な魔力の中にいるオーガなんて普通じゃないわ。ここは撤退して報告を優先しましょう」
……よかった。
ランドルさんとアルマさんはちゃんと状況判断できるようだ。
問題は……。
「えぇ!こんなところで撤退するんですかぁ。Aランク冒険者のプライドとかないんですかぁ」
「そんなものにこだわっている場合じゃない。今回の俺たちの仕事は討伐ではなく、調査だ。少しは頭を使え」
「むぅ。なんですかぁ、その言い方ぁ。マリンのことぉ、バカにしてるんですかぁ」
「今はそれどころじゃないっすよ!撤退するなら早く行きましょう!」
「ごちゃごちゃうるせぇなあ!こんなところで逃げ帰れるかよ!」
「カイン!!待てっ!!」
……あーあ。このバカほんとに。一人で突撃しやがった。
これはまずいっすね。あのオーガが普通のオーガと同じかもわからないのに。
どうしてくれるんすかまったく。
「仕方ない!全員行くぞ!!」
ランドルさんが声を上げ、バカの後を追う。
ほんとこのパーティーやめるべきだったっす。後悔先に立たずってこのことを言うんすかね。
マリンさんはあたふたしてるが、アルマさんは魔法の詠唱をしていた。
発動まで足止めをしよう。
魔剣士のカインさんが剣に魔法を纏わせ切りかかっているのが見えた。
リリィの支援なしではオーガの皮膚に浅い切り傷を創るのがやっとだった。
「なっ!硬い!」
いやいや、硬いんじゃなくてあんたが弱いんすよ。
隙だらけのカインさんを見逃すことなく、オーガが太い腕を振り下ろした。
そこにランドルさんが間に合い、大盾で防いだ。なんだかんだランドルさんもAランクにふさわしい実力を持っているのだ。
今度は隙だらけのオーガの脇腹に、自分の短剣で切りかかる。ちょっとした風魔法のオプション付きで。
そこそこ深い傷を与えることに成功。うん。やっぱりそんなに硬くはなかったみたいだ。
ついでに目くらましでオーガの顔に胡椒玉を投げつける。意外と魔物にも効果あり。
――アルマさんの準備完了。
「ランドルさん。後退っす」
「了解した」
ランドルさんがバカを連れて後退。
後ろから魔法が飛んでくる。
〈サンダーランス〉
雷の中級魔法。威力・速度ともに優れた魔法だ。普通のオーガならこれでいけるのだが、どうか。
……はたき落とした。
「そんな!?」
さすがにアルマさんもびっくりしている。魔法耐性が高いのだろうか?
……ん?自分の魔法っすか?普通の魔法と少し違うんで効いたんじゃないっすかね。
とにかく自分の魔法と物理攻撃は効くみたいっすから。
「アルマさん、支援魔法かけてくださいっす。
ランドルさん、魔法より剣の方が効果的みたいっす。時間かかりそうっすけど地道に行きましょう。
カインさんも。魔法なしで剣術だけでお願いするっす」
「了解した」
「くそがっ!!」
「っ!?…………わかったわ」
……アルマさんそんな怖い顔しないでくださいっす。
すっげぇ恐ろしい顔をしたアルマさんに睨まれた。アルマさんにとって支援魔法は、周りからおまけ扱いされるということで使いたがらないのだ。
でも、今回は仕方ないっすよね。魔法効かないんだし。
〈エンチャント・オールアップ〉
――準備できたみたいっすね。さーて。ここまで来たら頑張るっすよ!
そういって自分は短剣を手に、オーガへ突撃した――。
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