追放歌姫の異世界漫遊譚

あげは

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一章 旅立ち

依頼完了 *カーナ視点

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結論から言うと、オーガは倒しました。時間はかかったけど……。
 自分だけ警戒されていてほとんど参加できなかったっす。
 カインさんは弱すぎたのでほとんどランドルさんが倒しました。オーガの頭に剣を一突き。
 しかし、時間がかかったせいか後ろから魔物の気配が増大。撤退する道が閉ざされたため、現在速度を上げて前に進んでいる。

「はぁ……はぁ……。おい!少し休ませろ!」

「ダメだ。我慢しろ。この状況で休憩などできるはずもない。そもそも誰のせいでこんなことになったと思ってるんだ」

「ああ!?俺のせいだっていいたいのか!?」

「あんた以外いないでしょ。頭も悪いのに自覚なしとか……少しは反省したらどう?」

「っ!?ぶっ殺されてぇのかクソ女?」

「やれるものならやってみなさい?」

「はいはい、そこまでっすよ。今はそんなことしてる場合じゃないっす。
 ……ほら。見えてきたっすよ」

 視界に巨大な扉が見えてきた。おそらく階層主のいる部屋だ。
 ダンジョンの構造としては、他のものと大差ない。漂う魔力と魔物のレベルが異常なだけだ。
 だが、悪い予感だけは消えない。気のせいならそれでいいが……。

「よし、ここなら……あったぞ!」

 ランドルさんが見つけたのは、「安全地帯」。
 ダンジョン内にいくつか存在する魔物が入り込まない広場である。冒険者たちが休憩するのにうってつけの場所だ。
 そこに入り込ようやくひと段落する。全員が座り込み荒い息を整える。
 ……そこに空気を読まない人が一人。

「くそっ!なんで俺がこんな目に……。お前ら足引っ張ってんじゃねぇよ!」

「それはこちらのセリフだな。カインお前……以前よりだいぶ弱くなっているんじゃないか?」

「そうね。あの弱々しい剣は何?キレとか勢いとかないし、魔法も搾りかすみたいだったわ。よくそんなので私に殺すとか言えたわね」

 二人も気づいたみたいだ。ただリリィの歌については無視している。
 アルマさんは特にリリィの歌を毛嫌いしていた。あれを魔法とは認めないといつも言っていた。
 まぁとにかく、カインさんに対した実力はないことを理解したようで何よりっすね。
 本人は絶対に認めないだろうけど。

「俺が弱いわけねぇだろ!バカにすんじゃねぇ!!」

「そうですよぉ。カイン様はAランクですよぉ。強いに決まってますぅ」

「見苦しいわね。素直になりなさい。自分の力じゃ魔物を倒せないので助けてくださいって」

「ふざけんな!!誰がそんなこと言うか!!」

 またいつもの口論が始まった。
 そんなことしてる場合じゃないってわかってるのだろうか。
 ランドルさんは我関せずを貫いてる。また自分が止めないじゃないっすか。

「皆さん、そんなどうでもいいことより、これからのことについて話すっす」

「どうでもいいとはなんだ!?」

 これは無視して、ランドルさんに意見を聞く。

「ランドルさん、どうするっすか?」

「そうだな……。選択肢は二つだ。後ろの魔物をどうにかして元の道を戻るか、もしくは階層主に倒してダンジョンの外に転移するかだ。ただ、どちらも情報がない。どんな魔物がいるかわからない状態であまり無茶をしたくはないな」

「そうっすね。前者は時間がかかる上にオーガクラスの魔物が大量にいる。階層主はおそらく一体っすけどオーガ以上の魔物が出て来る。
 ……うわぁ。どっちも嫌っすね」

「それにこのダンジョンの魔物は魔法が聞かないわ。理由は分からないけど魔物全体が高い魔法耐性を持っていると考えたほうがいい」

「そうなると、大量の魔物を相手にするのは分が悪いな……。無理をしてでも階層主に挑んだほうが可能性は高いだろう」

「だからビビりすぎだって言ってるだろ。何が出たって俺の敵じゃ――」

「ちょっと黙っててくださいっす。今真剣に生きる方法を考えているんすよ。死にたいのならおひとりでどうぞ」

「っ!?」

 ……おっと。いい加減イラついて少し殺気が漏れちゃったっす。
 でも、これで静かになってくれたみたいなんで結果オーライっすね。

「階層主が普通の魔物ならいいんすけど、なんか変な能力とか持ってたらやばいっすね。さっきのオーガもおかしいくらいしぶとかったっすからね」

「………確かにそうだな。可能性としてはありえない話ではない。だがそれでも階層主に挑むのが一番生存率が高いのは間違いない。やるしかないだろう」

「そうよ。とりあえず今回だけは支援魔法を使ってあげるわ。今回だけね。生き残るほうが重要だもの。だから何としてでも倒しなさい」

「そうっすねぇ。生きるために頑張りますか!」

 話はまとまった。
 階層主を倒してダンジョンから出る。
 話し合ってる間に充分回復したので、最終確認をして扉の前に向かう。

「準備はいいな?開けるぞ」

 ランドルさんが扉を開き、全員で中へ入る。
 暗い。あまり見えないが階層主の部屋にしてはあまり広くはない。オーガと戦った広場より少し広いくらいだ。それに天井も見えるほどの高さしかない。十マイトルくらいだろうか。
 部屋の観察をしていると、突然扉が閉まった。それに強い気配を察知。

「何かいるぞ!」

 ランドルさんが言った。
 それと同時に部屋の中が明るくなった。周囲の壁に火が灯ったみたいだ。
 部屋の中央に魔物の姿。羊の体躯に蛇の尾、獅子の頭――キマイラだ。
 Aランクの魔物で以前にも倒したことがある。
 だが普通のキマイラではない。真っ黒な身体に赤い眼をしていた。

「なんだよ。キマイラじゃねぇか。だったら何とか――」

「――――――――!!」

 キマイラが吠えた。魔力の伴った威圧だ。
 ――まずい!
 マリンさんが倒れた。威圧を受け意識を失ったみたいだ。
 自分がマリンさんに駆け寄ると、後ろから大きな音がした

「――っぐぁ!?」

 振り返るとランドルさんが、壁にめり込んでいた。
 ランドルさんがいた場所にはキマイラがいた。
 ……一体いつの間に?
 そんなこと考えてる場合じゃない!

「カインさん!アルマさん!」

「――は?」

 声をかけるが反応が遅い。
 キマイラの視線はアルマさんに向いている。

「あ……ぅあ………あぁ……」

 ダメだ。
 完全に呑まれてる。自分も間に合いそうにない。

「アルマさん!!」

「――ッ!?」

 キマイラの突進。
 咄嗟の判断で、魔力障壁を張れていたらしい。直撃は免れたようだ。
 だがこれでもう二人もやられてしまった。いやマリンさんを入れると三人か。

「う、うわあああぁぁぁ!!」

「カインさん!ダメっす!!」

 錯乱して剣を振り回し、キマイラに突っ込んでいく。
 そんな無防備にいったらやられるだけなのに。止めに行くがキマイラの方が少し早かった。

「――がっ!?」

 やばい。キマイラの蹴りをまともにくらった。
 大丈夫だろうか。息はしているようだが、骨は何本か折れている。
 よくこの程度で済んだものだ。意外と頑丈だったみたいっす。

「というか、後は自分だけになっちゃったっすか。結構ピンチっすね」

 普通のキマイラと圧倒的に速さが違う。誰も対応できなかった。
 とりあえず短剣を抜く。もう逃げることはできない。元からそんなつもりもないけど。
 キマイラに向かって駆け出す。自分も速いほうだが、それ以上だ。気づいたころには後ろにいた。まだ間に合う!
 振り向きざまに短剣を突き付ける。が、キマイラは短剣を咬み砕きそのまま突進してくる。

「――がはっ!」

 体中にすさまじい衝撃。
 やばいやばいやばいっ。ミスリル性の短剣咬み砕くとか。
 出し惜しみしている場合ではない。
 仕方ないが奥の手を使う。まあ誰も見ていないから気にする必要はないのだが。
 腰のマジックポーチから小太刀を取り出す。
 久しぶりの感触。生き残るために本気を出す。

「さあ、ちゃちゃっと終わらせるっすよ!!」

 抜刀。真っ黒の刀身が怪しく光る。
 キマイラが広場全体を駆け回る。目で追うのは疲れる。

「!?後ろっ!!」

 振り返るが何もいない。
 自分が振り返ったその後ろに回り込まれていた。速すぎるっすね……。
 後ろからキマイラがかみついた。
 しかし、血の一滴も出ない。キマイラも不思議そうにしている。
 すると、自分の姿がボフッという音を立てて、丸太に変化した。

「残念っすね。それは身代わりっす。
 ――それじゃこれで終わりにするっすよ!〈忍法・かまいたち〉!!」

 小太刀に風を纏わせキマイラの体を切り刻む。
 自分のは魔法ではないので、耐性とか気にすることはない。
 普通に見れば魔法と大差ない。ただ見る人が見れば違いに気づくので人前で使うことは避けている。
 あまり自分について詮索されないようにするためだ。
 まあそれについては今は置いといて。

「ふぅ~。終わったっす。疲れたっすね~。
 おっ。魔法陣が出てる。これも他のダンジョンと同じでよかったっす」

 部屋の主を倒したため、次の階層の階段と外に通じる転移の魔法陣が現れた。
 ただ仲間を連れて魔法陣に乗らなくてはならない。気絶した人を四人を運ぶ。
 最後の重労働が何気に一番きつい。

「さっさと帰って報告するっすよ。〈てん――」

 視線を感じた。
 広場を見渡す。すると階段の陰にローブを纏った人影があった。
 だがすぐに階段の奥に去って行った。ギリギリ見えたのは長い黒髪。

「あれはいったい……?とりあえず帰るっす。〈転移〉」

 今は帰還することを優先して、ダンジョンの外へ転移した――。






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