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一章 旅立ち
本領発揮
しおりを挟む一夜が明けて、私たちの目の前には広大な森が広がっていた。
宿場町から五キロルほど歩いた場所にある森。この森を挟んだ先に辺境領はある。つまり辺境に行くにはこの森を抜ける必要がある。
しかし、普段は危険な森ではない。動物が多く、ランクの低い魔物しかでないため初心冒険者の狩場となっている。
今森の前に立っているとわかる。魔物の気配が濃い――簡単な気配感知はカーナに教わりました――。普段の森とは雰囲気が一変している。
さて、そんな森の中へ入ろうとしているのだが……。
「これから森に入るが準備はいいな?」
「早く行こうぜ、ジルさん。他の冒険者もいっぱいいるんだろ。俺たちの取り分が減っちまうよ」
「そんなことよりかわいい女の冒険者いないかな~」
「う~。怖い怖い怖い怖い。なにも起きませんように。なにも起きませんように」
こいつら依頼内容ちゃんと理解してないな。
あとそこのタンク。森に入る前から怖がりすぎだろ。
「俺たちの依頼内容は森の調査だ。討伐数を稼ぐわけじゃない。他の冒険者との情報共有もするんだ。目的を間違えるな。 あとノット、もう少し落ち着け」
さすがのジルさんも今日はマジメだ。
いつもの熱血と優しそうな雰囲気が鳴りを潜め、落ち着いていて気迫すら感じる。
……やっぱり違うなぁ。元パーティーリーダーさんと全然違う。
私は特に変わらない。いつも通り自分のやれることをやるだけ。それに今までとは違うしね。もうごまかす必要もないし、ルナだっている。
私は私らしくするだけだ。
「とにかく行きましょう。サポートは私とルナに任せてください」
「ニャ―」
ルナもやる気満々のようだ。あごの下を撫でておく。ゴロゴロ~。
「そうだな。確認するぞ。先頭は俺とノット。後ろはリリナとメイだ。あとの四人は中央でそれぞれ警戒してくれ。行くぞ!」
ジルさんが声を上げ、へっぴり腰なノットを引っ張っていく。
そのあとをミミとグリッド、キキとトージがついていく。
「何か感じたら言ってちょうだい。私が見つけるから」
「わかりました」
メイさんは目がいい。弓士だからというのもあるだろうが他にも秘密がありそうだ。
ちなみに私が元Aランクパーティーに所属していたことも知っていた。どうしてわかったのだろうか。あとで聞いてみよう。
私たちはまず森の中心に向かう。そこは穴の開いたような広場になっている。そこを起点に森全体を調査していく。
森中に響き渡る戦闘音。他の冒険者がどこかで魔物と戦っているのだろう。
感覚を研ぎ澄まし集中する。耳を澄ませ気配を探る。カーナに教わった方法で魔物を探すためだ。
カーナ程うまくはないが、これだけ気配が濃厚なら見つかるはずだ。
「……いた。メイさん、二時の方向から何かが向かってきます」
「了解。…………。
ジル、二時の方向、コボルトが三体こちらに来るわ」
「コボルトか。グリッド、トージ、ノット。お前らで三体いけるな?やってみろ」
「よっしゃ!二人とも!行くぞ!」
「仕方ないな~」
「あわわわわわ」
コボルトならそんなに苦戦することはないだろう。大丈夫なはず――
「強い気配!どこから!?」
急に濃厚な気配が漂い、私は慌てて探しはじめる。
これは……木を伝って移動してる?
「メイさん!コボルトの頭上の木に魔物が!」
「頭上?あれは……フォレストコング!なんでこんなところに!?」
「フォレストコングだと!?お前ら戻れ!」
フォレストコングは名前の通り森に生息するゴリラの魔物だ。力が強く木を伝って移動するため討伐に苦労するため、Cランクに分類される。
だが、この森にはCランクの魔物なんて存在しない。なのにどうして?
そんなことを考えてる場合じゃない。コボルトがフォレストコングに倒された。
「来るぞ!!」
そのままの勢いでこっちに向かってきた。
ジルさんが大剣を翳しフォレストコングのパンチを受け止める。
こういうのは本来タンクの仕事のはずだが、ノットでは力不足だ。まず腰を抜かし尻もちをついていた。
「グリッド!ノットを連れて下がれ!」
「――はいっ!」
ジルさんが一人で戦っている。メイさんも弓を構えているが狙いが定まっていない。
『紅』の子たちは突然の事態に動揺し固まっていた。
とうとう私の出番かな?最近はルナちゃん任せで何もしてなかったが、こういう時こそだ。
ジルさんの支援をする。メイさんの補助になる。そのための歌を唄う。
音はない。私の心に浮かび上がった、感情や想いを紡ぐだけ。それが私の歌。
私の中から周囲の音が消え、心に静寂が生まれる。そして――
「――♪――――♪――」
「な、なんだ!?急に歌いだしたぞ!?」
「「……きれい」」
周りの声は私には届かない。
私はただ想いのままに歌うだけだ。
「なんだ?体が軽くなったぞ?」
「!見えた!ジル、伏せなさい」
ジルさんが伏せると、フォレストコングのパンチは空振りした。
その一瞬の隙をメイさんは逃さず、矢を射る。フォレストコングの目に命中。
動きが止まった。
「これで終わりだ!」
ジルさんが大剣を振り下ろす。
フォレストコングは真っ二つになり、戦闘は終了した。
それを確認し、私も歌を止める。同時にジルさんが戻ってきた。
「何だったんだ、今のは?」
「すごいっすね、ジルさん!フォレストコングが真っ二つですよ!」
「いや今のは、なんか力があふれ出てきたっていうか……」
ジルさんも戸惑っているようだ。首を傾げている。
グリッドが私をにらみつけてきた。
「それに比べて、お前は戦闘中に歌いだしやがって。遊びじゃねーんだぞ!」
おっと、そう来たか。
遊んでいると思われたのか。カインと同じような事言うなぁ……。
「グリッド違うわよ。リリナ、今のが歌姫の本領ね。ミーシアに聞いていた通りだったけど、実際はそれ以上だったわね」
「ミーシアさんに?」
「ええ。この依頼を受ける前にミーシアがあなたのことを少し教えてくれたわ」
個人情報はどうなっているのだろうか。ミーシアさん変な事言ってないといいが。
「ああ!ミーシアさんが言ってたやつか。いやぁ、すげぇなコレ」
ジルさんも納得したようだ。ということはジルさんも私が元Aランクパーティーだということを知っっているのか。
「ど、どういうことだよ!?」
「あとで教えるわ。そんなことより先に進みましょう」
メイさんがみんなを促し、またジルさんを先頭に進む
ミミとキキは今までうっとりとしていたようで、我に返って歩き出した。
よし。私も行こう。
――ルナちゃんが私を褒めるかのように頬ずりをしてくる。
あぁ、しあわせぇ~。
◇◇◇
十五分ほど歩き、何度か魔物と遭遇したが難なく森の中心に来た。
広場から複数の気配。強いわけではないが数が多い。
全員繁みに隠れ広場をうかがう。
――広場にはジャイアントホーンの群れがいた。
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