追放歌姫の異世界漫遊譚

あげは

文字の大きさ
17 / 72
一章 旅立ち

ジャイアントホーン

しおりを挟む

「……多いな」

「……ですね。でもおかしいようには見えないですね。

「そうね。普通のジャイアントホーンだわ。人を襲うようにはとても……」

 どう見ても普通のジャイアントホーンだ。穏やかで落ち着いた雰囲気。
 ただ数は異常だ。群れといいっても二十頭いるかどうかと思っていたが、少なくともその倍はいる。
 どうしてこんな数のジャイアントホーンがここにいるのだろうか。それにどうやって移動したのだろうか。この数で移動してたら、確実に討伐されるか他の魔物に襲われているはずだ。
 こうして実際に見るとわからないことがどんどん増える。

「どうしますか?」

「さすがにこの数は放置できない。だが討伐するのも難しい。どうにかして人を襲わせないようにする必要がある。……メイ、どうだ?」

「この場所から移動できないようにするのはどうかしら。柵を作るか、魔法で結界を張るか。ジャイアントホーンさえどうにかできれば、あとは他の魔物を討伐するだけでしょ。少し楽になるわ」

「だが、この広場は一応休憩所のようなものだ。冒険者も商人もここが使えないとなると困るぞ」

「しばらくは我慢してもらえばいいわ。どっちにしろこの問題を解決しないといけない。それにこの光景を見て確信したわ。辺境で何かが起こっているとね」

 メルさんの言うとおりだ。辺境で何かが起こっている。
 このジャイアントホーンの群れを見れば、そう考えるのが妥当だ。
 それでもわからないことは多い。ジャイアントホーンここに移動することになった原因は何か。辺境で何が起こっているのか。
 もし、昨日双子たちの会話通りのことが怒っているなら厄介だ。
 誰かが意図的に魔物を操っている。その目的は何か。どうやって操っているのかも想像つかない。
 私たちが様子をうかがっていると、別の方向から話し声が聞こえてきた。

「うわっ!ジャイアントホーンの群れだ!」

「多いな。どうする?討伐するか?」

「ジャイアントホーンって討伐非推奨じゃなかったか?」

「いや、人を襲わないから討伐しないだけだ。確かこいつらの角は意外と金になるぞ。欲しがる貴族も多いはずだ」

「人を襲わないなら安全か。なら数頭狩ってもよさそうだな」

 私たちとは別で動いている、街の冒険者たちが五人。状況をあまり理解できていないようだ。それとも受付のお姉さんの話を聞いているないのだろうか。
 ジルさんを見る。
 同じことを思っていたのか、冒険者たちを止めようとしていた。

「お前たち、ちょっとま――」

 広場全体に音が響いた。笛の音かな。
 鳥の鳴き声のような澄んだ音色。
 でもなぜだろう。きれいなはずの音なのに、私には酷い不快感を与える。
 他の人たちは、不思議そうな顔をしているだけだった。私だけ?
 いや、ルナも同じようだ。今まで以上に毛を逆立てている。
 分からない。それでもこの音は良くないもののような気がする。
 そう思って私はジルさんたちに警戒を促すが、先に広場に変化が訪れた。
 穏やかだったジャイアントホーンが一斉に暴れだした。
 互いに角をぶつけ合っている。急な状況の変化に理解が追い付かない。
 その場にいる全員が戸惑っていた。
 ジャイアントホーンの十頭ほどが広場に入った冒険者たちを見た。

「まずい!お前ら、そこから離れろ!!」

 ジルさんが飛び出していく。
 それと同時にジャイアントホーンが角を向け突進してくる。
 ジルさんが声をかけたおかげか、冒険者たちは反応が遅れたが転がり込むようにその場から離れた。
 ジルさんが大剣を構える。

「あんた、誰だ?」

「今はそんなこと言ってる場合じゃない。今すぐここから逃げろ」

「ど、どうなってんだよ。ジャイアントホーンは人を襲わないはずだろ?」

「普通はな。だがここにいるジャイアントホーンは人を襲ったという話だ。受付嬢がそう話していたぞ。とにかく行け」

 そう言うと冒険者たちは一目散に逃げていった。
 そしてジルさんが十数頭のジャイアントホーンと相対する。

「一人じゃきついがやるしかねぇ。メイ!援護頼む」

「こうなっては仕方がないわね。できるだけ討伐するわよ。あなたたちは他の魔物が来ないか警戒してて」

「お、俺たちも戦うぞ!」

「ダメよ。あの数じゃあなたたちがいては足手まといになるわ。それなら最初からジル一人の方がいい。……リリナ、手伝ってくれるかしら?」

「……」

 メイさんが聞いてくる。しかし、それが本当に正しいのだろうか。
 何だろう。言葉にはできないけど違和感が消えない。
 おかしいとはわかっているのに、それを説明できない。
 ああもう!どうしたらいいの!?

「……リリナ?」

 分からない。考えても考えても答えは出ない。
 こういう難しいことを考えるのは私じゃなくてカーナの方が得意だった。
 私はカーナじゃないから、多分答えなんて出ないだろう。
 でも、このまま討伐するのは違う気がする。
 そうは思うが対処法は思いつかない。それに時間もない。今この時もジルさんは一人で戦っている。
 本当どうすれば。

「ニャン」

「……ルナ?」

 ルナが鳴いた。悲し気な鳴き声だった。
 苦しそう?ジャイアントホーンが?
 そう言われて確認するも、私にはわからない。
 しかし、ルナがそういうなら間違いないだろう。苦しいのなら助けてあげなければ。
 私にできるだろうか。少し弱気になる。
 そうするとルナが猫パンチをする。私の顔に肉球が当たる。

「ルナ?」

「ニャ―」

「……わかってるよ……でも私じゃ……」

「ニャン」

「私にしかできない?私は歌うことしかできないよ?」

「ニャ~」

「……そっか。そうだよね。私のやりたいようにやるって決めたんだったね」

「ニャニャン」

「ふふっ。ありがとう。じゃあルナが私を守ってね?」

「ニャン!」

 メイさんも『紅』の子たちも不思議そうに私を見ている。
 まあそうだよね。猫と会話してるんだもんね。
 私はあの時決めたはずだ。もう自分らしく生きるって。
 だったら私は、私がやりたいことをやるだけだ。

「メイさん、私が何とかします。少し待っていてください」

「待ちなさい!一人でどうするの。あなたは戦えないでしょ?」

「大丈夫ですよ。ルナが守ってくれますから。私はただ、彼らに歌うだけです」

 そう言って私は歩き出す。広場の中心へ。
 ジャイアントホーン全体に届くように。さっきの笛よりも響かせるために。

「おい、リリナ!あぶねぇぞ!」

「大丈夫です」

 ジャイアントホーンが私に狙いをつける。
 だが私に近づいてくることはない。ルナの影魔法で縛られている。
 ありがとう、ルナ。あとは歌うだけ。
 彼らを助けるんだ。私たちはあなたに危害を加えない。落ち着いて、大丈夫だから。
 そう伝えるために想いを歌に込める。

「――♬――♬――♬――」

 私の歌が響く。優しさと安心を。
 心を落ち着かせてほしいと祈るように。
 すると少しずつ落ち着いてきたのか、その場に座りだす子が出て来る。
 うん。やっぱり彼らは普通のジャイアントホーンだ。
 さっきの笛の音。あれが原因で暴れるようになった。
 一番あり得ないと思っていた魔物を操ること。誰かがそれを実行している。
 だがどうしてか。それを考えるのは後だ。今は――。

 やがてジャイアントホーンは、穏やかに眠っていた。

 これでこの場は収まった。原因も判明した。
 次は問題解決だ!





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界わんこ

洋里
ファンタジー
3匹の愛犬と共に異世界に転移した主人公、小日向真奈が、戸惑いながらも冒険をしていくお話しです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

虚弱体質で偽聖女だと追放された私は、隣国でモフモフ守護獣様の白き聖女になりました

・めぐめぐ・
恋愛
平民孤児であるセレスティアルは、守護獣シィに力を捧げる【聖女】の一人。しかし他の聖女たちとは違い、儀式後に疲れ果ててしまうため「虚弱すぎる」と、本当に聖女なのか神殿内で疑われていた。 育ての親である神官長が拘束され、味方と居場所を失った彼女は、他の聖女たちにこき使われる日々を過ごす。そしてとうとう、平民が聖女であることを許せなかった王太子オズベルトによって、聖女を騙った罪で追放されてしまった。 命からがら隣国に辿り着いたセレスティアルは、そこで衰弱した白き獣――守護獣ラメンテと、彼と共に国を守ってきた国王レイと出会う。祖国とは違い、守護獣ラメンテに力を捧げても一切疲れず、セレスティアルは本来の力を発揮し、滅びかけていた隣国を再生していく。 「いやいや! レイ、僕の方がセレスティアルのこと、大好きだしっ!!」 「いーーや! 俺の方が大好きだ!!」 モフモフ守護獣と馬鹿正直ヒーローに全力で愛されながら―― ※頭からっぽで

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

処理中です...