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一章 旅立ち
ジャイアントホーン
しおりを挟む「……多いな」
「……ですね。でもおかしいようには見えないですね。
「そうね。普通のジャイアントホーンだわ。人を襲うようにはとても……」
どう見ても普通のジャイアントホーンだ。穏やかで落ち着いた雰囲気。
ただ数は異常だ。群れといいっても二十頭いるかどうかと思っていたが、少なくともその倍はいる。
どうしてこんな数のジャイアントホーンがここにいるのだろうか。それにどうやって移動したのだろうか。この数で移動してたら、確実に討伐されるか他の魔物に襲われているはずだ。
こうして実際に見るとわからないことがどんどん増える。
「どうしますか?」
「さすがにこの数は放置できない。だが討伐するのも難しい。どうにかして人を襲わせないようにする必要がある。……メイ、どうだ?」
「この場所から移動できないようにするのはどうかしら。柵を作るか、魔法で結界を張るか。ジャイアントホーンさえどうにかできれば、あとは他の魔物を討伐するだけでしょ。少し楽になるわ」
「だが、この広場は一応休憩所のようなものだ。冒険者も商人もここが使えないとなると困るぞ」
「しばらくは我慢してもらえばいいわ。どっちにしろこの問題を解決しないといけない。それにこの光景を見て確信したわ。辺境で何かが起こっているとね」
メルさんの言うとおりだ。辺境で何かが起こっている。
このジャイアントホーンの群れを見れば、そう考えるのが妥当だ。
それでもわからないことは多い。ジャイアントホーンここに移動することになった原因は何か。辺境で何が起こっているのか。
もし、昨日双子たちの会話通りのことが怒っているなら厄介だ。
誰かが意図的に魔物を操っている。その目的は何か。どうやって操っているのかも想像つかない。
私たちが様子をうかがっていると、別の方向から話し声が聞こえてきた。
「うわっ!ジャイアントホーンの群れだ!」
「多いな。どうする?討伐するか?」
「ジャイアントホーンって討伐非推奨じゃなかったか?」
「いや、人を襲わないから討伐しないだけだ。確かこいつらの角は意外と金になるぞ。欲しがる貴族も多いはずだ」
「人を襲わないなら安全か。なら数頭狩ってもよさそうだな」
私たちとは別で動いている、街の冒険者たちが五人。状況をあまり理解できていないようだ。それとも受付のお姉さんの話を聞いているないのだろうか。
ジルさんを見る。
同じことを思っていたのか、冒険者たちを止めようとしていた。
「お前たち、ちょっとま――」
広場全体に音が響いた。笛の音かな。
鳥の鳴き声のような澄んだ音色。
でもなぜだろう。きれいなはずの音なのに、私には酷い不快感を与える。
他の人たちは、不思議そうな顔をしているだけだった。私だけ?
いや、ルナも同じようだ。今まで以上に毛を逆立てている。
分からない。それでもこの音は良くないもののような気がする。
そう思って私はジルさんたちに警戒を促すが、先に広場に変化が訪れた。
穏やかだったジャイアントホーンが一斉に暴れだした。
互いに角をぶつけ合っている。急な状況の変化に理解が追い付かない。
その場にいる全員が戸惑っていた。
ジャイアントホーンの十頭ほどが広場に入った冒険者たちを見た。
「まずい!お前ら、そこから離れろ!!」
ジルさんが飛び出していく。
それと同時にジャイアントホーンが角を向け突進してくる。
ジルさんが声をかけたおかげか、冒険者たちは反応が遅れたが転がり込むようにその場から離れた。
ジルさんが大剣を構える。
「あんた、誰だ?」
「今はそんなこと言ってる場合じゃない。今すぐここから逃げろ」
「ど、どうなってんだよ。ジャイアントホーンは人を襲わないはずだろ?」
「普通はな。だがここにいるジャイアントホーンは人を襲ったという話だ。受付嬢がそう話していたぞ。とにかく行け」
そう言うと冒険者たちは一目散に逃げていった。
そしてジルさんが十数頭のジャイアントホーンと相対する。
「一人じゃきついがやるしかねぇ。メイ!援護頼む」
「こうなっては仕方がないわね。できるだけ討伐するわよ。あなたたちは他の魔物が来ないか警戒してて」
「お、俺たちも戦うぞ!」
「ダメよ。あの数じゃあなたたちがいては足手まといになるわ。それなら最初からジル一人の方がいい。……リリナ、手伝ってくれるかしら?」
「……」
メイさんが聞いてくる。しかし、それが本当に正しいのだろうか。
何だろう。言葉にはできないけど違和感が消えない。
おかしいとはわかっているのに、それを説明できない。
ああもう!どうしたらいいの!?
「……リリナ?」
分からない。考えても考えても答えは出ない。
こういう難しいことを考えるのは私じゃなくてカーナの方が得意だった。
私はカーナじゃないから、多分答えなんて出ないだろう。
でも、このまま討伐するのは違う気がする。
そうは思うが対処法は思いつかない。それに時間もない。今この時もジルさんは一人で戦っている。
本当どうすれば。
「ニャン」
「……ルナ?」
ルナが鳴いた。悲し気な鳴き声だった。
苦しそう?ジャイアントホーンが?
そう言われて確認するも、私にはわからない。
しかし、ルナがそういうなら間違いないだろう。苦しいのなら助けてあげなければ。
私にできるだろうか。少し弱気になる。
そうするとルナが猫パンチをする。私の顔に肉球が当たる。
「ルナ?」
「ニャ―」
「……わかってるよ……でも私じゃ……」
「ニャン」
「私にしかできない?私は歌うことしかできないよ?」
「ニャ~」
「……そっか。そうだよね。私のやりたいようにやるって決めたんだったね」
「ニャニャン」
「ふふっ。ありがとう。じゃあルナが私を守ってね?」
「ニャン!」
メイさんも『紅』の子たちも不思議そうに私を見ている。
まあそうだよね。猫と会話してるんだもんね。
私はあの時決めたはずだ。もう自分らしく生きるって。
だったら私は、私がやりたいことをやるだけだ。
「メイさん、私が何とかします。少し待っていてください」
「待ちなさい!一人でどうするの。あなたは戦えないでしょ?」
「大丈夫ですよ。ルナが守ってくれますから。私はただ、彼らに歌うだけです」
そう言って私は歩き出す。広場の中心へ。
ジャイアントホーン全体に届くように。さっきの笛よりも響かせるために。
「おい、リリナ!あぶねぇぞ!」
「大丈夫です」
ジャイアントホーンが私に狙いをつける。
だが私に近づいてくることはない。ルナの影魔法で縛られている。
ありがとう、ルナ。あとは歌うだけ。
彼らを助けるんだ。私たちはあなたに危害を加えない。落ち着いて、大丈夫だから。
そう伝えるために想いを歌に込める。
「――♬――♬――♬――」
私の歌が響く。優しさと安心を。
心を落ち着かせてほしいと祈るように。
すると少しずつ落ち着いてきたのか、その場に座りだす子が出て来る。
うん。やっぱり彼らは普通のジャイアントホーンだ。
さっきの笛の音。あれが原因で暴れるようになった。
一番あり得ないと思っていた魔物を操ること。誰かがそれを実行している。
だがどうしてか。それを考えるのは後だ。今は――。
やがてジャイアントホーンは、穏やかに眠っていた。
これでこの場は収まった。原因も判明した。
次は問題解決だ!
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