64 / 72
二章 水の都
リリナの剣技
しおりを挟む十分くらいしてカーナがやってきた。
その際ロゼちゃんは小脇に抱えられていた。
酷く真っ青な顔をしていたからどんなルートで来たか想像できるわ。
「来る途中でマキナさんにも応援を頼んだっすよ。しばらくしたらギルド関係者の方がするはずっす。
それにしてもお手柄じゃないっすか~。ネズミさんたちをこんなに捕まえるなんて。貴重な情報源をゲットっすよ」
「そんな軽々言ってるけどね、大変だったのよ私。こんな多勢で襲われて」
「そうは言っても傷一つ追ってないじゃないっすか。それにあんまり疲れているように見えないっすよ。大変だったっていうならもっと苦戦した感を出すべきっす」
うぐっ。相変わらずそういうところだけは鋭いんだから。
「しっかし、これなんて何したんすか? きれいに真っ二つじゃないっすか。おじいちゃんにもらった刀で切ったとは思うんすけど、自分そんなの教えてないっすよ」
「い、いやぁ、それは、無我夢中で振り回したら切れちゃったっていうか……意外と脆かったのかもしれないというか……」
「いやいや、このバトルアックスちゃんと手入れされてるっすよ。大事にされてるのが良くわかるっす。なので脆かったっていうことはないっすね。つまり、リリィは何か嘘をついていると言えるっす! さあ、観念するっすよ!」
「だから、どうしてそういうときだけ鋭いのよ! べ、別に隠してなんかないんだからっ」
「そんな取って付けたようなツンデレしたってごまかされないっすよ。さっさと白状するっすよ。じゃないと夜も眠れなくて、リリィの鍛錬時間がどんどん増えるっす」
「誰がツンデレかっ! ていうかそんなことで私の訓練辛くするんじゃないわよ!」
「さあ! さあ!!」
「……わかったわよ。まったく。ていうか私も無意識だったからあんまり説明できないわよ」
「大丈夫っす。何やったかだけ見せてくれればたぶんわかるっす」
そんなキラキラな目で見つめられても困る。
えーと、確かこんな感じで構えて……。で、こうやって……あれ、なんか体が覚えてるのかな。
あとは、集中して……こう!
私はさっきのように刀を振りぬいた。
うん。そうそう、こんな感じね。
「っ!?」
「こんな感じなんだけど、どう……って、カーナ?」
「リ、リリィ……? なんでそんなことできるんすか? いつの間に……っていうかどうして……」
「どうしてって言われても……。そう言えばママがこうやって刀を使ってたなぁって思いだして。それでなんとなく真似してみたらできた……みたいな?」
カーナがすごく真剣な顔をしている。
一体何か問題でもあったのだろうか。私何かやらかした?
いや、そんなわけないよね。普通に刀使っただけだものね。
「……リリィ。それは『居合』と言って、自分が教えた剣術とはまったく別物の技術っす」
「いあい?」
「そうっす。抜刀術とも言うっすけど。自分も詳しくは知らないので説明するのは難しいんすけど、達人レベルになると、刀身すら見えないほど神速の剣技になるとかならないとか……それが本当かどうか分からないっすけどね」
「つまり?」
「自分にはできないことをやってのけたってことっすね。しかも普通の居合じゃなかったっす。刀身が魔力でコーティングされていたので、かなり切れ味増してたと思うっすよ。人だったら胴体が上下にお別れになるくらいに」
絶句。
私がやったことはかなり難しいことらしい。
ママは日常的にやっていたけど。ウサギ狩るときとかにも。
そんな高度な技を狩りに使っていたなんて。ていうかどうして私が出来たのかしら。
「それにしても、ママさんが何者かも気になるっすね。リリィのママってだけでも興味があるのに、さらに会いたくなったっす」
「どうしてカーナがママに会いたがるのよ。ていうか私のママってだけで興味持たないでよ」
「いやいや、気になるに決まってるじゃないっすか。こんな娘を生んだ女性っすよ。興味持たない方が失礼に当たるじゃないっすか」
「こんな娘ってどういう意味よ!」
「言葉通りに決まってるじゃないっすか」
「なんですって! それなら私も言いたいことがたんまりあるんだからねっ!」
「なんすか! それならこっちだって今までの溜まってること全部言ってやるっすよ!」
野次馬と気絶した男たちに囲まれる中、私とカーナはいつものように言い争いを始めた。
そんな二人の様子を止めるでもなく、周囲の人たちは温かな眼で見守っていた。
私たちの言い合いはマキナさんがギルドの人を連れてくるまで続いた――。
0
あなたにおすすめの小説
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる