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彼は私と目を合わせようともしない。

彼というのは、私の婚約者で伯爵令息のヴァレリーだ。
ヴァレリーはかなりのイケメンで、雰囲気も優しくてふんわりとしている。
いわゆる癒し系だ。

そんな彼は人当たりが良い性格である。

しかし、婚約者である私に対しては目を合わせようとしないし、なんだかそっけない。

なんで?と思って、二人だけでレストランに食事に来た時、

「どうして、私の目を見てくれないのですか?」

と訊ねた。

ヴァレリーは目をきょろきょろとさまよわせた。

「あなたのことが好きすぎて……・」
「はい?」

声が小さくてよく聞こえない。

「あなたのことが!好きすぎて!目を見て話せないんです!」

ヴァレリーが叫ぶように言った。

「わ、分かりましたわ。ヴァレリー様、落ち着いてくださいませ」

他のお客さんがちらちらとこちらを見てくるので、ヴァレリーをなだめた。

「僕の気持ち分かりました?」
「分かりましたよ。私のことが好きなのですね。嬉しいです」

私がにこりと笑うと、ヴァレリーは顔を赤くして顔をそらした。
なんだか可愛い。
私の婚約者はこんなにも可愛いのか。
つい、ニマニマしてしまった。


五回目の食事会で、私はある提案をした。

「にらめっこしましょう。そろそろ、目を合わせてお話をしたいのです」
「えっ」

私はヴァレリーとにらめっこした。十秒ももたず、顔をそらされて失敗した。
でも、ヴァレリーの赤い顔が可愛いので良しとする。

私はこの可愛らしい婚約者と結婚する。
そう信じて疑わなかった。
疑えなかった。


だから、ヴァレリーが浮気していたなんて信じられなかった。

それは、ヴァレリーの誕生日の数日前。
誕生日プレゼントを買うために、私は街に出た。
その時、一緒に来ていたメイドが「あっ」と声を上げた。

「どうしたの?」

メイドの視線の先には見知った背中があった。

「ヴァレリー様?」

ヴァレリーの背中だ。あの人、何をしているんだろ。声をかけようとしたら、隣に女性がいた。
知らない女性だ。
ヴァレリーは女性と腕を組んで仲睦まじそうに寄り添いながら歩いている。
私はヴァレリーの家族と会って挨拶をしている。母親でも姉でもない。
誰なんだと思い、私はヴァレリー様に近づいた。

「ヴァレリー様!」
「ラウラ……!」

私が名前を呼ぶと、ヴァレリーは振り返って私を見て驚いたような顔をした。
隣の女性もヴァレリーにつられて振り向き、私を見てきょとんとした表情で、

「この人がラウラさん?」

とヴァレリーに訊いた。

「う、うん」

ヴァレリーが頷く。

「ヴァレリー様!この方はどなたですか?」
「えっと……」
「ラウラさん。ここではなんですから、喫茶店にでも入りましょう」

女性がにこにこと笑いながら言った。
そんな女性にイラっとしながら、私は頷いた。
人の目があるところで話すことではないと思ったからだ。
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