蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜

二階堂まりい

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七章

11 銀色の蝶、新しい力

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 真祈まきには既に勝利への道筋が見えているのだ。

 しかし未だ決着をつけられないのは――それが真祈一人では出来ないことだから。

 真祈の目的は体力差をつけて敵を仕留めることではなく、敵と鎮神たちを分断すること。

 深夜美みやびは勘が良いのでその真意にとっくに気付いていたかもしれないが、
深夜美の察しの良さを見抜いていたからこそ真祈は猛攻に出て、決して後手に回らないよう喰らいついているのだ。

 
 全くこちらを振り向かない、遠い後ろ姿。
 しかし真祈は、鎮神しずかたちに託していたのだ。


「――いいや。おれが殺すべき相手は、深夜美さんだ」
 鎮神がはっきりと告げると、再び異形の鎮神自身が姿を現した。

「真祈さんがどんなに残酷で話の通じない相手か、おれだって散々見てきただろう! 
 真祈さんは振り向きもせずにどこまでも走って行く。
 求めるほど苦しくなるんだ!」

 彼は今度は口を動かし、声帯を通して叫んでいた。
 先ほどよりも身体が固形に近付いており、腰から下も模糊としてはいるが少しずつ人型に近付いている。
 まるで実体を得て鎮神と成り代わろうとでもしているかのようだ。

「ああ、見てきた。
 心配してくれてありがとう。
 君の言うことは正しいかもしれない。
 けど答えはもう知ってるだろう。
 真祈さんは残酷で話が通じなくて、純粋で……綺麗だ」

 鎮神はもう一人の自分に近付いて行く。
 彼は、深夜美を恐れて憎んだぶん蓄積した呪力、負の感情の塊。
 今も自分の中で暴れ続けているもの。

「……嫌だ。誰も、何も信じられない。お前のことも……」
 クリーム状の脚を引きずりながら逃げて行く。
 銀の翅は威嚇するようにはためいた。

「そうだ、信じられない。
 だから死のうとしたこともあったし、全部ぶち壊したいと思うこともあった。
 だけど」

 蘇るのは、真祈がくれた言葉。
『私には、自己と世界に問いを繰り返す貴方の姿は綺麗なものと映っています』
 あの時ようやく自分の弱さを許すことが出来た。

 そして炎の中で、真祈の隣に立つ者として深夜美と闘うと誓い、ほんの少し強くなれた気がした。

 それでも尚、自分を疑って誓いを裏切りそうになる。
 心の中に巣食い続ける弱さが、試しでもするかのように自己と世界を何度でも詰問する。

 ただ、どれだけ迷ったとしても見失ってはならない仄かな光として、真祈は在る。

「迷って苦しんで悩み抜くことも含めて、真祈さんはおれを許してくれた。
 おれが真祈さんに抱く気持ちが愛なのか依存なのかなんて、それこそおれは永遠に問い続けるんだろうけど……
それでも、あの光だけは見失いたくない。
 君に惑わされることがあっても、何度でも見つけてみせる」


 いつの間にか負の感情の塊は脚を得て立ち上がっていた。
 鎮神はその手を掴む。
「一緒に闘ってくれるだろ、鎮神」

 掴まれた方はしばし逡巡していたが、やがて頷くと、辺りを見回してから呟いた。
「カーレッジウィングス・スピリットコンダクター」
 同時に蟲たちで出来ていた闇がばらけ、外界の景色が差し込んでくる。

「今のは……?」
「『おれ』の影響で半実体に干渉できるようになった念動だよ。
 ほら、行こう」
 そう促しつつ、それが外界へ出て行こうとする気配は無かった。

 しかし鎮神は感覚で理解していた。
 彼が消えることは無い――鎮神の影として、痛みを抱えながらも呪詛の中で生き続けるのだろうと。

 
 身体に纏わりつく蟲を振り払い、鎮神は戦場へ戻って来る。
 すぐに未だ呪力に拘束されている三人へ走り寄って行き、叫ぶ。
「カーレッジウィングス・スピリットコンダクター!」
 突き出した掌に力を込める。

 毒蟲が少し剥がれ落ちて、中に囚われている三人の姿が現れるが、
彼らの目線はトラウマの中を泳ぎ続けている。
路加ろかさん! 
 まどか! 
 真祈さんがおれたちを信じて託してくれた作戦があるんです! 
 力を貸してください! 
 鷲本さん……思い出してください、貴方はおれたちを傷つけてばかりだったわけじゃない。
 意志の力でおれたちを救った!」
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