蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜

二階堂まりい

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七章

12 呪詛からの浮上、集う仲間

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路加ろかさん!
 まどか! 
 真祈まきさんがおれたちを信じて託してくれた作戦があるんです! 
 力を貸してください! 
 鷲本さん……思い出してください、貴方はおれたちを傷つけてばかりだったわけじゃない。
 意志の力でおれたちを救った!」



 誰かの声が聞こえる。
 罪を償っても死者が帰ってくるわけではない。
 どうせなら自らの過ちが刻まれたこの世界ごと消してしまえれば楽なのにと、
有沙の成れの果ての姿をした呪力を見た時にちらりとでも思わずには居れなかった。
 そこからどんどん呪いは沁み込んできて、真祈への盲信が覚めてきて自身が犯した罪の深さに気付いた時の絶望を、
路加の中から引きずり出し、拡大させていく。




 幼い頃から絵を描くのが好きだった。
 画業で世間に認められ、幸福に暮らしていた。
 ただ一点、友人と呼べる存在が居ないことが少しだけ寂しくはあったが、
芸術家は孤独でなくてはならないという父の言葉を信じていたし、その寂しさを絵画で表現することこそが自分の使命だと思っていた。
 しかし深夜美が現れたことで家庭は崩壊し――いや、既に壊れていたことに気付かされ、父の欺瞞を知った。
 たとえ父にどう思われていようと、団が両親を愛していたことは真実だ。
 だから深夜美を殺すことが弔いになると思ったのに、
当の父からそれを拒まれてしまえば、もはや目的さえ分からなくなる。
 つい最近誰かの名を呼んで喜びに満たされたはずなのに、蟲たちに霞んでそれが誰だったのか思い出せない。




 家族は私が守る、と思っていた。
 仕事に励み、娘の幸せを願い、そして神代の罪を継ぐ者として宇津僚うつのつかさ家に奉仕してきた。
 目を瞑り続けていれば自分は愚かで幸せな犠牲者のままだったのに、
炎の中で少年たちに目を醒まされてしまったのだ。
 守護者を気取りながらも守るべき者をろくに見ていなかったこと、
権威に対して義憤を抱いて目醒めたつもりが、
本当はより深い惰眠に沈み込んだに過ぎなかったことに。
 与半よはんは深夜美のことも救おうとしたつもりだった。
 しかし気持ちばかりが先行して、彼の真意を理解するには及ばなかったのだろう。
 深夜美は与半の手を踏み壊し、贖罪の機会を与えてはくれなかった。
 もうこの手の中には何一つ残っていない。





「路加さん! 団! 鷲本さん……!」
 また誰かが呼んでいる。

 遠くで銀色の蝶がはためいて闇を切り裂いた。
 呪いに蝕まれていた意識が少しずつ浮上していく。

『真祈様が、仲間として私を必要としている……』
『そうだ、友達が、鎮神が呼んでる』
『赤い炎を消し去る水……この水は私。
 私があの炎から真祈様と鎮神様を助け出した』


 路加は、団は、与半は、赤黒い闇を抜けようと駆け出した。
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