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子爵侍女、前世を思い出す
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明るく広々とした室内、上品な色合いが保たれた内装。綺麗に磨かれた調度品の品々。
天井から吊るされた煌びやかなシャンデリアに心地よい風の入る大きな窓。
寝転がれる大きさのクッション性のあるソファにローテーブル。
ガラス扉の飾り書棚には姿絵と本が収まっている。
うろ覚えだけど掃除したことのある別荘の2階部屋。一番端っこにあるゲストルーム。
今ここにアーデンと共に私は閉じこもっている。
公爵家が到着する前日、突然ハーパーさんからここに移るように指示された。
それもアーデン用の真新しい衣類一式と消耗品も添えられて。やっぱり抜かりない。
どうもこの1年はずっとこの部屋に宛がわれてました的な雰囲気を醸し出そうとしているらしい。
たかが一週間の滞在で屋根裏で過ごしているとは思いもしないだろうと実に緻密な手段を取っている。
きちんと入浴し、真っ新な衣類を身に纏い、けれどもっさりとした髪にほっそりぎみのアーデンの姿。
見事なちぐはぐ感が否めないが、正装した格好は貴公子オーラがうっすらにじみ出ている。
これが必要量食べさせて今まできちんと貴族教育を受けさせられたなら立派な公爵家の一員となっただろうにな。
私ではそこまでの力がないため、どこか粗のある男の子という感じに見えてしまう。
でもあの解体小屋に閉じ込められて過ごすはずだった期間を考えるとマシだと思う。
その年季の入った異臭を放ち、古びた小屋は少し前に大掃除をさせられ、可能な限り綺麗にした。
その時気づいたけど、内装の板の一部が朽ちていて押せば外れるようになる箇所があった。
アーデンぐらいの小柄であれば潜れる隙間ができ、小説ではここから抜け出して生き延びていたのかもと思った。
外に出れれば裏手に森がある。そこに入れば何らかの食べ物を手にできていたのかもしれない、と。
現に私も野イチゴを見つけ、こっそり摘んで持ち帰りアーデンと食べたから。
今年は森を探索してみようと思う。冬の教訓もあって何らかの食糧備蓄を目指すためにも。
そんな計画を思案つつ、丸テーブルに紙を広げ、椅子に座って文字を書くアーデンを見守っている。
公爵家御一行滞在時に新たに設けられた私の指令はアーデンの存在を上手く誤魔化すこと。
つまりは居るんだけど会わせない、という絶妙なバランスを保つことが大事なのだ。
一歩も部屋から出すことなく、誰も部屋に入れさせない。しかも貴族侍女には気づかれないように。
おかげで起きてから寝るまではアーデンに付きっきりというお世話係に任命されたも同然。
下ごしらえから解放され、こんなにずっとアーデンといることはなかった。
軟禁といえる状態でも私といるせいかアーデンは嬉しそうに大人しく過ごしている。
私はここぞとばかりに補充してもらえなかった紙やインクを確保したり、書棚にある本を読み聞かせたりした。
さらには食事も今なら3食提供され、カトラリーもきちんと用意されるのでテーブルマナーも、と充実した時間を過ごせていた。
そして1日1度はハーパーさんがやってきて決まり文句のように公爵様がお会いになりたいそうですと告げに来るけどアーデン様は臥せっていますのでお会いできませんという態を返すだけ。
示し合わせたような小芝居を毎日繰り返し、ただ帰省日を迎えるまでだ。
そうこうするうちに満ち足りた夢のような日々もついに終わりを迎え、明日の朝食後に公爵家御一行様の出立があるとハーパーさんから告げられた。
また屋根裏生活が始まり、いろいろと制限された日々を迎えることとなると覚悟を決め、ここで確保した荷物の移動は夜のうちにしておかなくてはと準備しておく。
最大のピークである来訪を乗り切ればまたアーデンと過ごせる過酷な日々も延長できる。
私にとってフロンテ領に居られれば使用人の召使だろうと問題ないのだ。
アーデンが王都に戻るまでの期間、共に過ごせればいい、ただそれだけ。
天井から吊るされた煌びやかなシャンデリアに心地よい風の入る大きな窓。
寝転がれる大きさのクッション性のあるソファにローテーブル。
ガラス扉の飾り書棚には姿絵と本が収まっている。
うろ覚えだけど掃除したことのある別荘の2階部屋。一番端っこにあるゲストルーム。
今ここにアーデンと共に私は閉じこもっている。
公爵家が到着する前日、突然ハーパーさんからここに移るように指示された。
それもアーデン用の真新しい衣類一式と消耗品も添えられて。やっぱり抜かりない。
どうもこの1年はずっとこの部屋に宛がわれてました的な雰囲気を醸し出そうとしているらしい。
たかが一週間の滞在で屋根裏で過ごしているとは思いもしないだろうと実に緻密な手段を取っている。
きちんと入浴し、真っ新な衣類を身に纏い、けれどもっさりとした髪にほっそりぎみのアーデンの姿。
見事なちぐはぐ感が否めないが、正装した格好は貴公子オーラがうっすらにじみ出ている。
これが必要量食べさせて今まできちんと貴族教育を受けさせられたなら立派な公爵家の一員となっただろうにな。
私ではそこまでの力がないため、どこか粗のある男の子という感じに見えてしまう。
でもあの解体小屋に閉じ込められて過ごすはずだった期間を考えるとマシだと思う。
その年季の入った異臭を放ち、古びた小屋は少し前に大掃除をさせられ、可能な限り綺麗にした。
その時気づいたけど、内装の板の一部が朽ちていて押せば外れるようになる箇所があった。
アーデンぐらいの小柄であれば潜れる隙間ができ、小説ではここから抜け出して生き延びていたのかもと思った。
外に出れれば裏手に森がある。そこに入れば何らかの食べ物を手にできていたのかもしれない、と。
現に私も野イチゴを見つけ、こっそり摘んで持ち帰りアーデンと食べたから。
今年は森を探索してみようと思う。冬の教訓もあって何らかの食糧備蓄を目指すためにも。
そんな計画を思案つつ、丸テーブルに紙を広げ、椅子に座って文字を書くアーデンを見守っている。
公爵家御一行滞在時に新たに設けられた私の指令はアーデンの存在を上手く誤魔化すこと。
つまりは居るんだけど会わせない、という絶妙なバランスを保つことが大事なのだ。
一歩も部屋から出すことなく、誰も部屋に入れさせない。しかも貴族侍女には気づかれないように。
おかげで起きてから寝るまではアーデンに付きっきりというお世話係に任命されたも同然。
下ごしらえから解放され、こんなにずっとアーデンといることはなかった。
軟禁といえる状態でも私といるせいかアーデンは嬉しそうに大人しく過ごしている。
私はここぞとばかりに補充してもらえなかった紙やインクを確保したり、書棚にある本を読み聞かせたりした。
さらには食事も今なら3食提供され、カトラリーもきちんと用意されるのでテーブルマナーも、と充実した時間を過ごせていた。
そして1日1度はハーパーさんがやってきて決まり文句のように公爵様がお会いになりたいそうですと告げに来るけどアーデン様は臥せっていますのでお会いできませんという態を返すだけ。
示し合わせたような小芝居を毎日繰り返し、ただ帰省日を迎えるまでだ。
そうこうするうちに満ち足りた夢のような日々もついに終わりを迎え、明日の朝食後に公爵家御一行様の出立があるとハーパーさんから告げられた。
また屋根裏生活が始まり、いろいろと制限された日々を迎えることとなると覚悟を決め、ここで確保した荷物の移動は夜のうちにしておかなくてはと準備しておく。
最大のピークである来訪を乗り切ればまたアーデンと過ごせる過酷な日々も延長できる。
私にとってフロンテ領に居られれば使用人の召使だろうと問題ないのだ。
アーデンが王都に戻るまでの期間、共に過ごせればいい、ただそれだけ。
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