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子爵侍女、前世を思い出す
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「ここから発つ時間だというのに何をやっておられるのですか?」
ブランディンは息を切らしながら少々怒りが含まれているかのような口調で訴える。その問いに応えるようにカーティスはゆっくりと向き直した。
「公爵も心配している。ここに来てから一度もアーデンに会っていない」
両手を広げたまま背後にいる私は会話に耳をすますのみ。カーティスの表情は見えないが口調から心配している様子。けど、それを打ち破るようなブランディンの攻撃が始まった。
「……兄上、もう気づいているでしょう。下賤な存在は我々に会いたくないということが!」
ブランディンはゆっくりとカーティスに近づいてくると同じ色の瞳で見上げる。
「毎月報告があるように教育を拒否し、好き勝手に過ごしているのです。公爵家に相応しくない!」
そんな馬鹿な状況、今初めて聞いたよ。どんな報告があがっているのか本当に怪しいとしか思えない。
「そもそもここに残ることを自ら希望し、公爵家から解放されたいのでしょう。元々が異国のものですから。いくら父上や兄上が気にかけても時間の無駄です。さっさと立ち去りましょう」
まだ幼げな綺麗な顔立ちなのに出てくる言葉は大人びている。ヴァネッサの教育が染みついているんだろうな。
ブランディンはカーティスの腕を引っ張ると部屋から出るように促していた。
「出発のお時間です! 公爵様もお待ちです、お急ぎくださいませ!」
ハーパーさんも呼びに来て、急かすようにカーティスを追い立て始めたので諦めたように歩き出す。
部屋から出るまで私は黙って礼を取ったまま、ただ見送った。
そして誰もいなくなり、私は脱力してその場に座り込む。
ほんの少しの時間だというのに予期せぬ出来事がてんこ盛り。登場人物のオンパレード。
まさかブランディンの顔まで拝めるとは思いもせず、この先どうなるのか不安になる。
とりあえず部屋の後片付けをし、頃合いを見計らってアーデンを連れて屋根裏へと戻った。
「部屋に入れるなんてあんな失態、今度やったらただじゃすまないからね!」
令嬢たちの食器を洗っていると背後からハーパーさんが怒気を込めて呟いた。
不可抗力といえど今度という首の皮が繋がった様子で反抗すべきでないと判断し、ただ謝罪した。
それからフロンテ領配属貴族侍女退散まで鳴りを潜めるように努めた。
今年も最後まで例の男爵令嬢2人が踏み留まったらしいけど、私は初日の挨拶以来見かけたことはない。
気が付けば雨季も近づいており、アーデンと出会って1年経ったんだなと感じた。
何とかお咎めなくあの頃と同じ時間が戻ってきて既に制限された生活が始まっていた。
私も去年の反省を踏まえていろいろと対策を取っていた。相変わらず面倒ごとは丸投げされるのでそれを利用するに限る。
既に使用人の行動パターンも把握しているのでこっそりアーデンを誘導して希望する森へ探索させたり、奥庭の片隅で野菜を栽培したり、解体小屋を食料を加工する場所として利用したりなどと備えた。
おかげで前よりは格段にマシになり、与えられる決まった量でも耐えられるほどになった。
夏の間は新鮮な野菜を食べ、森を抜けたところにある湖で釣りをし、魚を確保して食べたり、干したりした。
秋には森の恵みを採取し、適度に食べながらも保存食にして備えた。
来たる冬は寒さ対策を万全にしつつ、保存食で凌いでいく。
そうして毎年公爵家御一行様の滞在の時期が訪れてもアーデンと会わせずに過ごすという綱渡りをどうにかクリアしてきた。
いろいろ何だかんだと危機に迫ることはたくさんあったけどどうにか乗り越え、月日を経る。
年月を超え、ついにアーデンは12歳、私は23歳になっていた。
春になれば小説通りの貴族教育を受けることとなりタウンハウスへと戻り、太陽姫ことマーデリンと出会う日が近づいている年に。
ブランディンは息を切らしながら少々怒りが含まれているかのような口調で訴える。その問いに応えるようにカーティスはゆっくりと向き直した。
「公爵も心配している。ここに来てから一度もアーデンに会っていない」
両手を広げたまま背後にいる私は会話に耳をすますのみ。カーティスの表情は見えないが口調から心配している様子。けど、それを打ち破るようなブランディンの攻撃が始まった。
「……兄上、もう気づいているでしょう。下賤な存在は我々に会いたくないということが!」
ブランディンはゆっくりとカーティスに近づいてくると同じ色の瞳で見上げる。
「毎月報告があるように教育を拒否し、好き勝手に過ごしているのです。公爵家に相応しくない!」
そんな馬鹿な状況、今初めて聞いたよ。どんな報告があがっているのか本当に怪しいとしか思えない。
「そもそもここに残ることを自ら希望し、公爵家から解放されたいのでしょう。元々が異国のものですから。いくら父上や兄上が気にかけても時間の無駄です。さっさと立ち去りましょう」
まだ幼げな綺麗な顔立ちなのに出てくる言葉は大人びている。ヴァネッサの教育が染みついているんだろうな。
ブランディンはカーティスの腕を引っ張ると部屋から出るように促していた。
「出発のお時間です! 公爵様もお待ちです、お急ぎくださいませ!」
ハーパーさんも呼びに来て、急かすようにカーティスを追い立て始めたので諦めたように歩き出す。
部屋から出るまで私は黙って礼を取ったまま、ただ見送った。
そして誰もいなくなり、私は脱力してその場に座り込む。
ほんの少しの時間だというのに予期せぬ出来事がてんこ盛り。登場人物のオンパレード。
まさかブランディンの顔まで拝めるとは思いもせず、この先どうなるのか不安になる。
とりあえず部屋の後片付けをし、頃合いを見計らってアーデンを連れて屋根裏へと戻った。
「部屋に入れるなんてあんな失態、今度やったらただじゃすまないからね!」
令嬢たちの食器を洗っていると背後からハーパーさんが怒気を込めて呟いた。
不可抗力といえど今度という首の皮が繋がった様子で反抗すべきでないと判断し、ただ謝罪した。
それからフロンテ領配属貴族侍女退散まで鳴りを潜めるように努めた。
今年も最後まで例の男爵令嬢2人が踏み留まったらしいけど、私は初日の挨拶以来見かけたことはない。
気が付けば雨季も近づいており、アーデンと出会って1年経ったんだなと感じた。
何とかお咎めなくあの頃と同じ時間が戻ってきて既に制限された生活が始まっていた。
私も去年の反省を踏まえていろいろと対策を取っていた。相変わらず面倒ごとは丸投げされるのでそれを利用するに限る。
既に使用人の行動パターンも把握しているのでこっそりアーデンを誘導して希望する森へ探索させたり、奥庭の片隅で野菜を栽培したり、解体小屋を食料を加工する場所として利用したりなどと備えた。
おかげで前よりは格段にマシになり、与えられる決まった量でも耐えられるほどになった。
夏の間は新鮮な野菜を食べ、森を抜けたところにある湖で釣りをし、魚を確保して食べたり、干したりした。
秋には森の恵みを採取し、適度に食べながらも保存食にして備えた。
来たる冬は寒さ対策を万全にしつつ、保存食で凌いでいく。
そうして毎年公爵家御一行様の滞在の時期が訪れてもアーデンと会わせずに過ごすという綱渡りをどうにかクリアしてきた。
いろいろ何だかんだと危機に迫ることはたくさんあったけどどうにか乗り越え、月日を経る。
年月を超え、ついにアーデンは12歳、私は23歳になっていた。
春になれば小説通りの貴族教育を受けることとなりタウンハウスへと戻り、太陽姫ことマーデリンと出会う日が近づいている年に。
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