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子爵令嬢、平民落ちする
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「いいよ、セシリア。入ってもらっても」
いつの間にか後ろにいたアーデンが入るように促す。
「では失礼させていただきます」
許可が下りた途端、素早く中へ入るとしっかりと扉を塞ぐ護衛騎士様。
何だか様子がおかしい気がする。
私は咄嗟にアーデンの前に立ち、持っていた棒を構えてしまった。
「侍女殿、それは?」
護衛騎士様は驚いたような顔でこちらを見つめる。
「御用とは、いったい何でしょうか?」
私は警戒心を隠さず、少しずつ騎士様との距離を取っていく。
とはいえ、攻め込まれてしまったら負けは確定間違いないのだけど。
「失礼しました」
すると片手を胸に当て小さく片ひざを折り、頭を下げた。
「実を言いますと私は王女殿下から御下命を賜りました」
「……お、王女殿下からですか?」
「はい。アーデン様をしばらくお見かけしないので病状が宜しくないのではないかと心配されておいででした。王室の侍医でよければとブランディン様に進言されてもいい返事が貰えず、それならば私に様子を見てきてほしいと。ところがずっと案内をはぐらかされ、単独で行動を起こすことにしましたが年が明けてしまいようやくこの部屋を探し当てました」
屋敷内でアーデンの所在を探していたのか。それで周囲を窺うような怪しい様子を。疑ってしまって悪かったな。
それにしても太陽姫はずっとアーデンのことを気にかけていたんだ。
事情が分かると私は棒を下ろし、謝罪した。
「そのご様子ですと健やかそうでいらっしゃいますね」
「はい、健康状態に問題はありません。ただ……」
私は言葉を濁す。ここで行動を起こしてもいいものだろうか。不安感が募るけど時間がない。
「どうやら気に病むことがありそうですね」
「あの、騎士様を見込んでお願いがございます! アーデン様とお手合わせくださいませんか」
思い切って頼んでみる。私じゃ役不足なのはわかっていた。プロから見てほしいと思った。
アーデンの方も驚いた様子。でも嫌そうではなかった。
「ここでですか?」
「はい、この部屋で。ほんの少しでいいですからご指導をお願いします!」
私は握っていた棒切れを騎士様に差し出す。戸惑った様子で受け取った後は軽く片手で振っていた。
「では、どうぞ」
アーデンと騎士様は対面し、打ち合いが始まった。お遊びのチャンバラごっこではない。
あっという間にアーデンの木片ははじかれ、尻もちをついた。
「申し訳ありません」
騎士様は慌てたように謝罪する。アーデンは悔しそうに座り込んだまま拳を握っていた。
「騎士様。宜しければアーデン様にアドバイスいただけませんでしょうか? はっきりおっしゃって構いません」
こんなの判っていた。私じゃ何の役にも立っていなかったってことに。
だからこそ、アーデンにとって何が必要か知りたかった。
「はい。手厳しいことを言いますが、基礎が全くなってません。力も弱く軌道がずれてますね。もっと鍛錬が必要だと思われます」
「あの、宜しければ具体的にどのような鍛錬を行なえばいいのかご教授願います」
ここぞとばかりに踏み込む。千載一遇のチャンスとばかりに。
騎士様は要望通り基礎の基礎を教えてくれた。これで少しは報われた気がした。
退出する騎士様を見送るとアーデンは指摘されたばかりのことを実践し始めた。
基礎の基礎だけど知って意識して行うことでチャンバラごっこからは卒業できそうで良かった。
この日だけだと思われた護衛騎士様の訪問はなんと太陽姫の御下命により継続した。
今日の様子を耳にしたマーデリンがバレないよう同じような行動をするよう促したらしい。
そうして公爵家訪問中、秘密裏にご指導いただくという影なる支えが実現したのだ。
ただし、入学までの数カ月となるがアーデンにとって十分飛躍的に向上できると思う。
貴族教育全般からは程遠いけど、一歩踏み出せた気はする。
留まった時間が流れ始め、本当に良かった。
いつの間にか後ろにいたアーデンが入るように促す。
「では失礼させていただきます」
許可が下りた途端、素早く中へ入るとしっかりと扉を塞ぐ護衛騎士様。
何だか様子がおかしい気がする。
私は咄嗟にアーデンの前に立ち、持っていた棒を構えてしまった。
「侍女殿、それは?」
護衛騎士様は驚いたような顔でこちらを見つめる。
「御用とは、いったい何でしょうか?」
私は警戒心を隠さず、少しずつ騎士様との距離を取っていく。
とはいえ、攻め込まれてしまったら負けは確定間違いないのだけど。
「失礼しました」
すると片手を胸に当て小さく片ひざを折り、頭を下げた。
「実を言いますと私は王女殿下から御下命を賜りました」
「……お、王女殿下からですか?」
「はい。アーデン様をしばらくお見かけしないので病状が宜しくないのではないかと心配されておいででした。王室の侍医でよければとブランディン様に進言されてもいい返事が貰えず、それならば私に様子を見てきてほしいと。ところがずっと案内をはぐらかされ、単独で行動を起こすことにしましたが年が明けてしまいようやくこの部屋を探し当てました」
屋敷内でアーデンの所在を探していたのか。それで周囲を窺うような怪しい様子を。疑ってしまって悪かったな。
それにしても太陽姫はずっとアーデンのことを気にかけていたんだ。
事情が分かると私は棒を下ろし、謝罪した。
「そのご様子ですと健やかそうでいらっしゃいますね」
「はい、健康状態に問題はありません。ただ……」
私は言葉を濁す。ここで行動を起こしてもいいものだろうか。不安感が募るけど時間がない。
「どうやら気に病むことがありそうですね」
「あの、騎士様を見込んでお願いがございます! アーデン様とお手合わせくださいませんか」
思い切って頼んでみる。私じゃ役不足なのはわかっていた。プロから見てほしいと思った。
アーデンの方も驚いた様子。でも嫌そうではなかった。
「ここでですか?」
「はい、この部屋で。ほんの少しでいいですからご指導をお願いします!」
私は握っていた棒切れを騎士様に差し出す。戸惑った様子で受け取った後は軽く片手で振っていた。
「では、どうぞ」
アーデンと騎士様は対面し、打ち合いが始まった。お遊びのチャンバラごっこではない。
あっという間にアーデンの木片ははじかれ、尻もちをついた。
「申し訳ありません」
騎士様は慌てたように謝罪する。アーデンは悔しそうに座り込んだまま拳を握っていた。
「騎士様。宜しければアーデン様にアドバイスいただけませんでしょうか? はっきりおっしゃって構いません」
こんなの判っていた。私じゃ何の役にも立っていなかったってことに。
だからこそ、アーデンにとって何が必要か知りたかった。
「はい。手厳しいことを言いますが、基礎が全くなってません。力も弱く軌道がずれてますね。もっと鍛錬が必要だと思われます」
「あの、宜しければ具体的にどのような鍛錬を行なえばいいのかご教授願います」
ここぞとばかりに踏み込む。千載一遇のチャンスとばかりに。
騎士様は要望通り基礎の基礎を教えてくれた。これで少しは報われた気がした。
退出する騎士様を見送るとアーデンは指摘されたばかりのことを実践し始めた。
基礎の基礎だけど知って意識して行うことでチャンバラごっこからは卒業できそうで良かった。
この日だけだと思われた護衛騎士様の訪問はなんと太陽姫の御下命により継続した。
今日の様子を耳にしたマーデリンがバレないよう同じような行動をするよう促したらしい。
そうして公爵家訪問中、秘密裏にご指導いただくという影なる支えが実現したのだ。
ただし、入学までの数カ月となるがアーデンにとって十分飛躍的に向上できると思う。
貴族教育全般からは程遠いけど、一歩踏み出せた気はする。
留まった時間が流れ始め、本当に良かった。
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