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永眠侍女、犠牲と化す
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あの日の返事をこういう風に扱われるとは思いもしない。
今の流れにただただ身動きが取れず、固まるまま。ここで切り出されるとは予定外だ。
せめてアーデンに話した後でないといけなかった。寝耳に水の出来事で驚かせてしまうから。
只でさえ、ブランディンの策略で一人ぼっちにさせていた不安があったのにも拘らず。
そう、まさか到着したばかりの当日にこんなことになるとは想像していなかった。
あの日、自分の立場が弱いことを思い知った私はアーデンのそばにいるためにカーティスとの婚姻を受け入れることにした。
今まで何故かブランディンが太陽姫に仕掛ける日まではアーデンと一緒に居られるとすっかり思い込んでいた。
だけど今回のこともあり油断できない状況を肌で感じ、いつ自分の身に何が起こってもおかしくない状態だと理解した。
それでもアーデンが幸せになる日までは見届けたい。ただ呪いの解除までは最低限でもあと1年は掛かってしまう。
この位置を守るためにも専属侍女としての立場だけでは脆弱。それどころか呪術以前に排除される可能性すら伺える。
ブランディン崇拝者は私を貶めることでアーデンを少しでも傷つけようとしているのがはっきりとしていた。
だからそれを防ぐためにも決断したのだ。
もちろんフロンテ領から帰還し、両親にも婚姻の意志を伝え、ある程度整えてからという話で締めくくった。
また返事をし、到着した直後とあってアーデンにはこの件を説明する時がなかった。
しばらくの滞在だからここに居る間に話せばいいと構えていた。
フロンテ領でのぞんざいな扱いは慣れている。ブランクはあれど何年もいた経験がものをいう。
専属侍女としての矜持で乗り越えてみせるつもりだった。先ほどもどうにか対応した。
あとは王都に戻るまで身の安全を守りつつ、耐え抜くはずだったのに。
カーティスにとって昨日の出来事が衝撃だったに違いない。
私もさすがに落ち込んだし、ショックも受けた。だから決意した。
その返答を瞬時に対応されてしまっただけなのだと解かってはいる。
少なくともカーティスはここに居る間でさえ、不当な扱いをされないよう守ってくれようとしているのだ。
ブランディンに対してあおるような態度をとり、周りを牽制したのだから。
さすがの彼も何も言えなかった。繋ぎとはいえ、現公爵はカーティスだ。
影なる力の持ち主でも公の場では立てざるを得ない。
「……で、ですが、セシリアは平民です! カーティス様、家格が違い過ぎます。お気を確かに!」
ハーパーさんが慌てたように訴える。ブランディン擁護に余念がない。
「彼女は元貴族だ。爵位を返納しただけで何の問題もない。……それにハーパー、私はたった今、彼女を婚約者として扱うよう、命令したばかりだ。不敬だ」
「も、申し訳ございません!」
焦ったように頭を下げるハーパーさんだが本心からではないのが判る。握りしめた拳が物語っている。
ブランディンは不快そうに腰を下ろした。アーデンは私を見つめたまま、身動き一つしない。
「……そうか。それはおめでとう、カーティス。私はもう、誰とも婚姻を結ばないものと思っていたのだが、安心したよ」
エリオットが挑むような鋭い眼差しで私たちを見つめる。ついに前公爵も容認してしまった。
「……ありがとうございます、父上」
カーティスは応えるように視線を返す。
「いやあ、これはめでたいことですな。カーティス様、おめでとうございます」
管理人が媚びへつらったような笑顔を浮かべ、祝辞を述べる。気まずい空気だけが漂っている。
「話は以上だ。食事を中断して申し訳なかった」
用件は済んだとばかりにカーティスは椅子に腰かけた。
私にはあとで部屋に来るようにと耳打ちされたので退室することにした。
ただ立ち去るまで身じろぎもせず無表情のままじっと見つめるアーデンのあの紫の瞳だけが私を捉えて離さなかった。
今の流れにただただ身動きが取れず、固まるまま。ここで切り出されるとは予定外だ。
せめてアーデンに話した後でないといけなかった。寝耳に水の出来事で驚かせてしまうから。
只でさえ、ブランディンの策略で一人ぼっちにさせていた不安があったのにも拘らず。
そう、まさか到着したばかりの当日にこんなことになるとは想像していなかった。
あの日、自分の立場が弱いことを思い知った私はアーデンのそばにいるためにカーティスとの婚姻を受け入れることにした。
今まで何故かブランディンが太陽姫に仕掛ける日まではアーデンと一緒に居られるとすっかり思い込んでいた。
だけど今回のこともあり油断できない状況を肌で感じ、いつ自分の身に何が起こってもおかしくない状態だと理解した。
それでもアーデンが幸せになる日までは見届けたい。ただ呪いの解除までは最低限でもあと1年は掛かってしまう。
この位置を守るためにも専属侍女としての立場だけでは脆弱。それどころか呪術以前に排除される可能性すら伺える。
ブランディン崇拝者は私を貶めることでアーデンを少しでも傷つけようとしているのがはっきりとしていた。
だからそれを防ぐためにも決断したのだ。
もちろんフロンテ領から帰還し、両親にも婚姻の意志を伝え、ある程度整えてからという話で締めくくった。
また返事をし、到着した直後とあってアーデンにはこの件を説明する時がなかった。
しばらくの滞在だからここに居る間に話せばいいと構えていた。
フロンテ領でのぞんざいな扱いは慣れている。ブランクはあれど何年もいた経験がものをいう。
専属侍女としての矜持で乗り越えてみせるつもりだった。先ほどもどうにか対応した。
あとは王都に戻るまで身の安全を守りつつ、耐え抜くはずだったのに。
カーティスにとって昨日の出来事が衝撃だったに違いない。
私もさすがに落ち込んだし、ショックも受けた。だから決意した。
その返答を瞬時に対応されてしまっただけなのだと解かってはいる。
少なくともカーティスはここに居る間でさえ、不当な扱いをされないよう守ってくれようとしているのだ。
ブランディンに対してあおるような態度をとり、周りを牽制したのだから。
さすがの彼も何も言えなかった。繋ぎとはいえ、現公爵はカーティスだ。
影なる力の持ち主でも公の場では立てざるを得ない。
「……で、ですが、セシリアは平民です! カーティス様、家格が違い過ぎます。お気を確かに!」
ハーパーさんが慌てたように訴える。ブランディン擁護に余念がない。
「彼女は元貴族だ。爵位を返納しただけで何の問題もない。……それにハーパー、私はたった今、彼女を婚約者として扱うよう、命令したばかりだ。不敬だ」
「も、申し訳ございません!」
焦ったように頭を下げるハーパーさんだが本心からではないのが判る。握りしめた拳が物語っている。
ブランディンは不快そうに腰を下ろした。アーデンは私を見つめたまま、身動き一つしない。
「……そうか。それはおめでとう、カーティス。私はもう、誰とも婚姻を結ばないものと思っていたのだが、安心したよ」
エリオットが挑むような鋭い眼差しで私たちを見つめる。ついに前公爵も容認してしまった。
「……ありがとうございます、父上」
カーティスは応えるように視線を返す。
「いやあ、これはめでたいことですな。カーティス様、おめでとうございます」
管理人が媚びへつらったような笑顔を浮かべ、祝辞を述べる。気まずい空気だけが漂っている。
「話は以上だ。食事を中断して申し訳なかった」
用件は済んだとばかりにカーティスは椅子に腰かけた。
私にはあとで部屋に来るようにと耳打ちされたので退室することにした。
ただ立ち去るまで身じろぎもせず無表情のままじっと見つめるアーデンのあの紫の瞳だけが私を捉えて離さなかった。
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