人魚姫の王子

おりのめぐむ

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自立への第一歩

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 文字での会話。
 俺にとっての希望の光。
 とはいえ、肝心のパソコンが無ければ話しにならない。
 入院や治療に携わる費用はあの事故を起こした会社が支払ってくれていた。
 それ以外はもちろん自腹だ。
 そう、会話のためのパソコンもだ。
 以前の俺だったら当たり前のようにポンと買うことが出来た。
 けれど、今はそうじゃない。
 情けないことに日々の生活はヤツから受け取ってた金を費やすばかりだ。
 このままじゃいけないと思いつつ、ただただ流されていた。
 が、そうはいかなくなった。
 目標が出来たからだ。少しでも早く知夏との可能性を確かめたい!! という。
 とにかく金を手に入れなければならなかった。
 その為には今手元にある残金では少し足りない分を稼がなくては!!
 俺はいつもの通り、見舞いの終了時間を迎え、病院を出る。
 知夏には何事もなかったかのように振舞いながら。
 夜9時を過ぎると辺りはすっかり暗くなっていた。
 残暑のある日中とは違い、少し肌寒くもある。
 こんな時間になると目に付くものは灯された明かり。
 その明かりに誘われるように病院の裏通りを歩く。
 目に付くように開いてる店なんてたがか知れていた。
 赤提灯をぶら下げた居酒屋や飲み客をターゲットにしたラーメン屋などの飲食店ぐらいだ。
 そんな店を横目に歩いていると、一枚の白い紙が目に飛び込んできた。
 -急募!アルバイト募集-と汚い文字で書かれた張り紙。
 すぐさまその店へと飛び込んでいた。
 手段や内容なんて選んでる暇はない。
 一日でも早く、どうにかしたい。

「すみません。表の張り紙を見て……」

 ―――こうして俺のアルバイトが始まった。
 病院近くのラーメン屋。
 営業時間は昼間と夜の2回に分かれている。
 勢いに任せて飛び込んでいってむちゃくちゃな条件を突き立てて何とか雇ってもらえた。
 見舞い終了後の3時間が俺の働く時間。
 本当はもっと働きたいが昼間は知夏のところへ行かなくてはならない。
 用があると不自然にちょこちょこ抜け出したら不思議がるだろうし。
 いつもの通りに振舞いながら心配させるようなことを作らない。
 只でさえ、今は何か言いたそうな雰囲気で悲しそうだしな。 
 働き始めて3日が経った。
 慣れない事で怒られてばかりの日々が続く。
 いつもならキレてた俺だが不思議とそんな気にならない。
 ただただ夢中になり、働くってこんな感じなのか?
 疲労感はあっても瞬時に吹き飛んでしまう。
 知夏との可能性がそうさせていた。

「弘樹、おつかれ」

 バイト終了後、店の親父が必ず用意してくれるラーメンが差し出される。
 いつもは怒鳴ってばっかだがこんな一面もある。
 食べ終わった後は必ず「それじゃまた明日な」と一言。
 訳ありの俺のことを黙って雇ってくれた親父。
 その分厳しいが感謝している。  
 だからもう少し待ってくれ、知夏。
 店を出て夜空の星を見上げながら切ない気持ちでいっぱいになった。
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