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光と影
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この成果は俺にとってささやかな支えとなった。
知夏の身体は完治することは無いと分かっているが奇跡が起こるような気がする。
そんな微かな希望を与えてくれた。
同じ文字の羅列でも列で単語として言葉となった。
それが嬉しくて仕方がなかった。
知夏も伝えられることが楽しいのか暇さえあればペンを握っていた。
俺の居ないところで寝ても覚めても寸暇を惜しんでパソコンに向かっているようだ。
看護師から無理は禁物と怒られつつも頼んでやらせてもらってるらしい。
そのせいか以前よりもスムーズにそしてコツを掴んだのかほぼ単語らしいものが表示できるようになっていた。
もちろんゆっくりとした入力だが余分なキーを触らないという進歩。
俺はただ嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
そんな日々を過ごして9月も下旬。
医者から突然、近日中にという知夏の外出許可が下りた。
外出といっても病室内からという意味のだ。
今まで病室から出たことのない知夏はこの上ない喜び。
"うれしい"という単語を毎日のように綴っていた。
もちろん歩けるわけないので車椅子を利用する。
手先を使った作業によって前より微かだが上半身がマシになったとか。
もう歩くことは出来ないが電動車椅子ならその内自分で移動も出来るようになるだろうと。
完治しないがいずれは退院の兆しを窺わせる診断だった。
俺はこの上ない幸せを感じていた。
外出許可をもらい、初めて車椅子で病室から出た。
椅子に座った知夏は嬉しそうに廊下をキョロキョロと見回す。
ほぼベッドに缶詰状態だったんだもんな。
唯一、病室の大きな窓で外を眺めるぐらいが外への接触だよな。
俺はこの階の休憩所となっているフロアへ知夏を移動させた。
このフロアにはガラスサッシがあり、そこを開けるとちょっとしたベランダになっていた。
少しでも外出気分を味わってもらおうとベランダに出てみた。
スゥッと少し冷たい風が全身を包む。
本格的に秋へと移行しているのだと感じる肌寒さ。
「戻るか?」
少し心配になったが知夏が指で柵の方を指したので外がよく見える方へと移動する。
柵は一定間隔で隙間があり、その間から風景が覗けた。
知夏の病室からの景色とは違い、町並みが広がり、遠くに海が見えた。
そこにふと球状の物体が現れた。
透明で光によっては虹色に光る、シャボン玉だ!
柵の下を覗いてみると階下から子供がシャボン玉を吹いていた。
そして目に入ってきたグリーン。
この敷地の真下は芝生になっていてちょっとした庭のようだ。
知夏にそのことを教えると興味を持ったのか、柵の柱を両手で握り締めた。
ぐっと力が入り、下を覗こうとしてるのが分かる。
けれど身体はいうことをきかずにビクともしない。
知夏は柱を握り締めたまま悔しそうに昇ってくるシャボン玉を見ているだけだった。
余計なこと言っちまったかな? と反省しつつ、気休めの言葉をかけて病室に戻った。
初の外出は後味の悪いものとなってしまった。
知夏の身体は完治することは無いと分かっているが奇跡が起こるような気がする。
そんな微かな希望を与えてくれた。
同じ文字の羅列でも列で単語として言葉となった。
それが嬉しくて仕方がなかった。
知夏も伝えられることが楽しいのか暇さえあればペンを握っていた。
俺の居ないところで寝ても覚めても寸暇を惜しんでパソコンに向かっているようだ。
看護師から無理は禁物と怒られつつも頼んでやらせてもらってるらしい。
そのせいか以前よりもスムーズにそしてコツを掴んだのかほぼ単語らしいものが表示できるようになっていた。
もちろんゆっくりとした入力だが余分なキーを触らないという進歩。
俺はただ嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
そんな日々を過ごして9月も下旬。
医者から突然、近日中にという知夏の外出許可が下りた。
外出といっても病室内からという意味のだ。
今まで病室から出たことのない知夏はこの上ない喜び。
"うれしい"という単語を毎日のように綴っていた。
もちろん歩けるわけないので車椅子を利用する。
手先を使った作業によって前より微かだが上半身がマシになったとか。
もう歩くことは出来ないが電動車椅子ならその内自分で移動も出来るようになるだろうと。
完治しないがいずれは退院の兆しを窺わせる診断だった。
俺はこの上ない幸せを感じていた。
外出許可をもらい、初めて車椅子で病室から出た。
椅子に座った知夏は嬉しそうに廊下をキョロキョロと見回す。
ほぼベッドに缶詰状態だったんだもんな。
唯一、病室の大きな窓で外を眺めるぐらいが外への接触だよな。
俺はこの階の休憩所となっているフロアへ知夏を移動させた。
このフロアにはガラスサッシがあり、そこを開けるとちょっとしたベランダになっていた。
少しでも外出気分を味わってもらおうとベランダに出てみた。
スゥッと少し冷たい風が全身を包む。
本格的に秋へと移行しているのだと感じる肌寒さ。
「戻るか?」
少し心配になったが知夏が指で柵の方を指したので外がよく見える方へと移動する。
柵は一定間隔で隙間があり、その間から風景が覗けた。
知夏の病室からの景色とは違い、町並みが広がり、遠くに海が見えた。
そこにふと球状の物体が現れた。
透明で光によっては虹色に光る、シャボン玉だ!
柵の下を覗いてみると階下から子供がシャボン玉を吹いていた。
そして目に入ってきたグリーン。
この敷地の真下は芝生になっていてちょっとした庭のようだ。
知夏にそのことを教えると興味を持ったのか、柵の柱を両手で握り締めた。
ぐっと力が入り、下を覗こうとしてるのが分かる。
けれど身体はいうことをきかずにビクともしない。
知夏は柱を握り締めたまま悔しそうに昇ってくるシャボン玉を見ているだけだった。
余計なこと言っちまったかな? と反省しつつ、気休めの言葉をかけて病室に戻った。
初の外出は後味の悪いものとなってしまった。
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