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二重の生活
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10月に入っても相変わらずの入院生活が続いていた。
と言っても当たり前のように単語での会話ができるようにはなっていた。
そんな折、突然知夏が訊いてきた。
"がっこう、いかないの" と。
藪から棒な質問に理由が気になる。
すると前から知りたかったらしくずっと昼間いるため、自分のために休んでるのかと心配してるようだ。
すぐさま、違うと否定した。そして投げやりに辞めたんだと言った。
知夏は悲しそうな顔をし、本当に辞めたのか確認してくる。
正直学校なんて眼中になかった。だが、辞めたのかということに関しては何とも言えなかった。
あの事故後、自主退学を促されたが結局父親と連絡が取れないまま、そのまま放置している。
答えられずに黙ったままでいると、
"わたしはだいじょうぶ いって" と微笑む。
"ひろくんはぶじそつぎょうして" とも。
もともと留年しそうになった俺を手助けしてくれた知夏は気にしてたんだろう。
俺が毎日病室にきて知夏のそばにいることを。
確かに日々の入院生活で常に俺がいなくてもいいような状態になっている。
知夏は誰にも面倒をかけたくないのか極力自分でやろうとしていた。
だから大丈夫と言ってるんだと思う。
だけど俺は知夏に出来る限りのことがしたい。していきたい。
そう伝えると知夏は首を振る。
"じゅうぶんしてくれてる"
俺には解らなかった。何一つ、満足に出来てないと思える付き添いに。
ほとんど看護師任せでただそばにいるだけの無能な俺に。
"おもにになりたくない"
知夏は真っ直ぐ見据えて俺に訴える。
「重荷だなんて考えたことない!」
思わず興奮して強い口調で反論。
首を振りながら知夏は自分が勝手にそう思ってしまうのだと言う。
俺が自分の時間を割いてそばにいるほど重荷になってると感じるらしい。
所用で居ない時間があるとホッとするんだとか。
俺自身の時間を持てて。
本当はラーメン屋のバイトでどうしてもって時に行ってるだけなんだが。
知夏にこれっぽっちも考えてない余計な心配をさせているんだと感じた。
これまで話せなかった分、不安げな顔の理由がやっと理解出来た気がした。
「解った」
頷きながら知夏の気持ちを汲み取った。
ただ、学校には行かないだろう。無駄だろうから。
どうせ辞めた事になってるはずだ。あの父親さえも姿をくらましているんだからな。
「心配させて悪かった。明日からそうするよ」
口ではそう言いつつも、頭では別のことを考えていた。
ラーメン屋の親父に頼んで昼間も雇ってもらわないとな、と。
"がっこうどうだった"
夕方俺の姿を見るなり、知夏はドキッとするようなことを尋ねた。
「相変わらずだよ」
悪態つきながら不満そうに答える。
本当は働く時間が増えただけだ。
パソコンのこともあるし、これから先のことを考えれば稼いでいても損はない。
知夏が学校に行ってると思わせといて時間の有効利用だ。
もちろんばれないように制服で来たりする。
ボロが出ないように極力学校のことはしゃべらない。
そんな繰り返しで何とか日々を過ごしていた。
短い会話が出来るといった進歩。
もうこれ以上の回復は望めないと断言されたが、ここまでの進展はすごいと医者も褒めていた。
当初は寝たきりのままでの退院と思われていたらしい。
車椅子での日常生活、パソコンでの日常会話。
これらがしっかりと確立すれば退院ももうすぐ。
まだまだ先のことだが日々確実に近づいている。
それだけのことだが充分幸せと感じられた。
もちろん、知夏もだ。
夕方からの数時間が面会になってしまったが充実したものになっていた。
こんな日々が退院まで続くんだろうと、そう思っていた。
突然、ヤツが現れるまでは。
と言っても当たり前のように単語での会話ができるようにはなっていた。
そんな折、突然知夏が訊いてきた。
"がっこう、いかないの" と。
藪から棒な質問に理由が気になる。
すると前から知りたかったらしくずっと昼間いるため、自分のために休んでるのかと心配してるようだ。
すぐさま、違うと否定した。そして投げやりに辞めたんだと言った。
知夏は悲しそうな顔をし、本当に辞めたのか確認してくる。
正直学校なんて眼中になかった。だが、辞めたのかということに関しては何とも言えなかった。
あの事故後、自主退学を促されたが結局父親と連絡が取れないまま、そのまま放置している。
答えられずに黙ったままでいると、
"わたしはだいじょうぶ いって" と微笑む。
"ひろくんはぶじそつぎょうして" とも。
もともと留年しそうになった俺を手助けしてくれた知夏は気にしてたんだろう。
俺が毎日病室にきて知夏のそばにいることを。
確かに日々の入院生活で常に俺がいなくてもいいような状態になっている。
知夏は誰にも面倒をかけたくないのか極力自分でやろうとしていた。
だから大丈夫と言ってるんだと思う。
だけど俺は知夏に出来る限りのことがしたい。していきたい。
そう伝えると知夏は首を振る。
"じゅうぶんしてくれてる"
俺には解らなかった。何一つ、満足に出来てないと思える付き添いに。
ほとんど看護師任せでただそばにいるだけの無能な俺に。
"おもにになりたくない"
知夏は真っ直ぐ見据えて俺に訴える。
「重荷だなんて考えたことない!」
思わず興奮して強い口調で反論。
首を振りながら知夏は自分が勝手にそう思ってしまうのだと言う。
俺が自分の時間を割いてそばにいるほど重荷になってると感じるらしい。
所用で居ない時間があるとホッとするんだとか。
俺自身の時間を持てて。
本当はラーメン屋のバイトでどうしてもって時に行ってるだけなんだが。
知夏にこれっぽっちも考えてない余計な心配をさせているんだと感じた。
これまで話せなかった分、不安げな顔の理由がやっと理解出来た気がした。
「解った」
頷きながら知夏の気持ちを汲み取った。
ただ、学校には行かないだろう。無駄だろうから。
どうせ辞めた事になってるはずだ。あの父親さえも姿をくらましているんだからな。
「心配させて悪かった。明日からそうするよ」
口ではそう言いつつも、頭では別のことを考えていた。
ラーメン屋の親父に頼んで昼間も雇ってもらわないとな、と。
"がっこうどうだった"
夕方俺の姿を見るなり、知夏はドキッとするようなことを尋ねた。
「相変わらずだよ」
悪態つきながら不満そうに答える。
本当は働く時間が増えただけだ。
パソコンのこともあるし、これから先のことを考えれば稼いでいても損はない。
知夏が学校に行ってると思わせといて時間の有効利用だ。
もちろんばれないように制服で来たりする。
ボロが出ないように極力学校のことはしゃべらない。
そんな繰り返しで何とか日々を過ごしていた。
短い会話が出来るといった進歩。
もうこれ以上の回復は望めないと断言されたが、ここまでの進展はすごいと医者も褒めていた。
当初は寝たきりのままでの退院と思われていたらしい。
車椅子での日常生活、パソコンでの日常会話。
これらがしっかりと確立すれば退院ももうすぐ。
まだまだ先のことだが日々確実に近づいている。
それだけのことだが充分幸せと感じられた。
もちろん、知夏もだ。
夕方からの数時間が面会になってしまったが充実したものになっていた。
こんな日々が退院まで続くんだろうと、そう思っていた。
突然、ヤツが現れるまでは。
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